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未経験の私が翻訳の仕事を得るまで(その2)

前回の続きです。

映画字幕翻訳家になることを目指してアメリカに留学。卒業後帰国するも翻訳の経験が積めず、アルバイトで食いつなぐ日々。そんな私に小さな転機が訪れます。



チャンスは突然に

バグ取りの仕事を始めてから1年ぐらいたったころに、ちょっとしたチャンスが訪れます。

職場で英語の読み書きがこなせる唯一の従業員だった私に、バグレポートの英訳チェック業務が回ってきたのです。バグレポートとは、ゲームの中で発生する不具合について順を追って説明する報告書のこと。例えていうなら「マリオが落とし穴の手前でジャンプしたら、頭上にあるレンガのブロックにハマったまま出て来られなくなり、強制終了した。」というような内容。こういうレポートをテスターたちが日本語で書きます。

通常ならレポートの英訳は発生しないのですが、私が担当したゲームは英語圏のプログラマーが関わっていたため、英訳が必要となりました。で、実際に英訳を行うのは、外部から雇われた派遣社員のかたたち。私はその人たちが作成した英訳文の最終チェックを担当しました。

当時翻訳業務未経験だった私にとってはちょうどいい難易度で、楽しみながら作業することができました。このプロジェクトで一緒に働いた派遣社員のかたに、お世辞かもしれませんが、私が修正した英文を見て「うまいね」と褒められたことも、小さな自信につながりました。これでようやく、職務経験の欄に「ゲーム会社での英訳チェック」が書けるようになったわけです。

そして、このプロジェクトが終わるころには、自分がこの会社で貢献できるのはここまでだと悟り、退職を決意します。

皮肉にもこの会社を辞めた後、ゲームはジャンルを問わず一切やらなくなってしまいました。数年間ゲーム漬けの日々で、私の中のゲーム欲が燃え尽きてしまったのかもしれません。

アルバイトから派遣社員へ

職務経験欄に「英訳チェック」が書けるようになったとはいえ、まだ翻訳の仕事は見つかっていません。ゲーム会社を辞めた後は、知り合いのツテで都内のホテルでアルバイトを始めました。

当時はスマートフォン普及前で、そのホテルの館内にはPCが数台設置されている「ビジネスセンター」と呼ばれる設備があり、私はそこで受付業務をしていました。

ビジネスセンターの利用者のほとんどがホテルの外国人宿泊客だったので、ここでは毎日、日常会話レベルの英語を使うことができました。帰国後も常に英語に触れていたかったので、その点でもこの仕事は自分にとってメリットがありました。居心地が良かったこともあり、この仕事は何の問題もなく順調に続きました。ただ、この仕事も自分のやりたいことではなかったので、始めて1年位たった頃にようやく派遣会社に登録します。

登録して間もなく、外資系コンサルティング会社で翻訳アシスタントの仕事を紹介してもらいました。ジャンルでいうと金融。その頃にはエンタメ業界への興味が薄れており、ある程度収入が見込めて、需要もありそうな分野での仕事を探していたので、これはチャンスかもしれないと、面接を受けることにしました。

面接前にまず、翻訳スキル(和英訳両方)のチェックがありました。メールでWORDファイルが送られてきて、自宅で翻訳して期限内に提出するという流れ。期日以外のルールや条件は特に与えられていなかったので、念には念を入れるべく、英訳のほうはアメリカ人の友人に最終チェックをしてもらいました。それが効いたのかテストには合格。面接も通過して採用が決まりました。(後日受けたフィードバックは「英文が自然だった」でした。)

派遣社員として翻訳業務を開始

ようやくここから、私の「社内翻訳者」としてのキャリアがスタートしました。ここまでで、大学を卒業してから3年強ぐらい経っています。

この3年という期間、長いと思いますか?

もしかすると、大学卒業後すぐに派遣会社に登録していたら、もっと早く翻訳の仕事につけていた可能性も大いにあります。さらに言えば、大学在学中から仕込んでおくこともできたのかもしれません。でも私にはその方法が思いつかなかった。

キリギリスである私の実力は、こんなものだったのです。

翻訳者になるためにやっておきたいこと

こんなに遠回りしてしまった私が、これから翻訳者を目指すかたにおすすめしたいのは、

とにかくいろいろな先人達の話を聞いておくこと

です。

今はSNSツールも充実していますし、たくさんの翻訳者が情報発信していて、参考になる情報が山ほどあります。

ランサムはなさんのYouTubeとか

この記事で書いた松本佳月さんのYouTubeもおすすめ。

あとは、同業者との交流もマメにしておくことをおすすめします。私自身は社内翻訳者を長年続けてしまったせいか、同業者のネットワークがあまり構築できていませんが、フリーランスの翻訳者を目指すのであれば、ネットワークは絶対にあったほうがいい。

だからこそ皆さんには是非、積極的に同業者のかたと接触して情報交換してみてほしいです。

近いところですと、10月末にJTF翻訳祭が金沢で開催されます。いろいろな先輩方のお話しがたくさん聴ける数少ない機会です。リアル開催とオンデマンド配信のハイブリッド型ですので、現地に行けないかたはオンデマンドだけでもチェックしてみてください。

次回は、本シリーズ最終回。派遣社員から正社員になった経緯をお話しします。


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