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遊びの時代(2024年11月2日)

本は釘打けの後、買われていく

店番をしていると、お客さんが1冊の本に釘付けになって、最終的に買っていく姿をよく目にする。釘付けという表現がよく合う。
この本良さそう!と実際に買うまでの間に、釘付けの時間がある。長さはまちまちだけど、本から目が離せない時間があって、初めて本は買われる。
僕の棚《本屋フォッグ》で、密かにずっと売れている新刊がある。『シブいビル 高度成長期生まれ、東京レトロビルガイド』(河出文庫)だ。この本を買う人の釘付け時間は、いつも少し長い。
この本は表紙に使われている写真が魅力的だからか、面を出して置き始めてすぐに3冊売れた。前に、本と目が合うという現象について書いた。この時の直感が、新刊を売り続けたという実感に形を変えて再来している。

「本当に、遊びの時代だな」

実家に帰省して父親と話していたとき、どういう流れか麻雀の話になった。僕が「麻雀も今プロリーグがあるよね」と言ったら、父はそれを知らなかったようで少し驚いた顔をして「本当に、遊びの時代だな」と言った。父らしい、穴だらけの大風呂敷のような表現だ。
捉えようによっては、一箱古本市への出店が抽選になるほど人気になったり、ZINEを作りたい人がたくさんいたり、読書会が大賑わいだったり、本に関する個人の活動の集合が盛況なのも「遊びの時代」と言えるのかもしれない。これまで職業としてやられていたことや、一人で静かにやられていたことが一般の人が集まるきっかけになる。職業の一部が解体されて遊びになって、遊ぶのが上手い人がそれを職業にする。
だとすると、書店は遊びの発信地だし、本屋は遊びを作る職業でもありうるだろう。
本に関係する遊びと一緒に、本を売っていくことも「遊びの時代」の本の売り方なのかも。そういう意味では、釘付けになった本を買って帰るというのも、日常のなかの遊び心が動く瞬間だと言えそう。
遊びの時代が到来する前から趣味で油絵を描き続けている父は、目標にしていた「日展入選」を今年果たし、初めて友人のために絵を描くという経験もしたらしい。遊びでも何でも、続けてみるものだ。

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