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『ウォーホル日記』 – 日めくり文庫本【9月】

【9月17日】

一九八三年九月一七日 土曜日

 クイーンズでTDKの広告の撮影をしていて、その二日目なので朝六時に起きた。気前のいい小切手のためなら、早起きも苦にならないというわけだよ。撮影は五時半までかかるはずだったが、昼ですんだ。場所はブールヴァード四五丁目だったかな、とにかくロングアイランド・シティだ。二十人の日本人が待っていた。それからクルー——アメリカ人の男が十人で、ハンサムな連中だが、マフィアかアイルランド人みたいだ。ブレスレットとかピンクのシャツとかピンクのベルトでゲイ・ファッションだった。みんなストレートなんだけど、撮影クルーの男たちってそういう格好をしているんだ。
 九時半にカフェ・セイヨウケンへ食事へ行くことにして、ビアンカを迎えにいった。彼女はマーシー・クラインのボーイフレンドの家に泊まっている。カルヴァンはメディア向けに、アシスタントのケリーとの熱烈な恋愛をでっちあげようとしているらしい。ビアンカは彼をものにしようと躍起になっているけどね。
 それで、カフェ・セイヨウケンへ行き、ビアンカをキース・ヘリングに紹介した。ビアンカは彼に自分のアパートにタダで壁画を描かせようとするに決まっている。彼女は〈インタヴュー〉のためにキースをインタヴューしたいといっている。さらにラウシェンバーグをはじめ、あらゆるアーティストのインタヴューもやりたがっている。
 ラウシェンバーグが来ていた。彼はジャック・ダニエルを飲んでいたが、わざわざ近寄ってきて、愛想がよかった。ローリー・アンダーソンのコスチュームの仕事をしているといっていたようだが、カフェ・セイヨウケンは騒々しくって、とても人と話なんかできやしない(ディナー四百五十ドル)。あんなにうるさいんじゃ二度と行く気になれない。でも、広告を出してくれているんだから、顔をだしておかなくちゃね。

——『ウォーホル日記 下』(文春文庫,1997年)241 – 242ページ


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