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『人間の大地』 – 日めくり文庫本【6月】

【6月29日】

 だが、何より驚くべきことは、そこに僕という一人の人間が立っていたことだ。つまり、この惑星の丸い背の上、隕石を引き寄せる力を持つ純白のシーツと星空とのあいだに、さながら鏡のように火の驟雨を映し出す人間の意識が存在していたことだ。鉱物質の土台の上に存在する夢、それは一つの奇跡だ。今、僕は思い出す、そんな夢の一つを……。

 これはまた別のとき——僕が砂に厚く覆われた場所に不時着し、夜明けを持っていた時の話だ。金色の砂丘は光り輝く斜面を月に差し出し、黒い斜面が絶えず光の領域を脅かしていた。月明かりと影が織りなすこの人気のない作家現場のような空間を、仕事が中断された後の安らぎと、人を罠にかける沈黙が支配していた。僕は沈黙に抱かれてまどろんだ。
 眠りから目覚めたとき、僕の目に映ったのは夜空の水面だけだった。というのも、僕は砂丘のてっぺんに横たわり、両腕を左右に伸ばして、星の生け簀と向かい合っていたからだ。生け簀がどれだけ深いのかまだ分からないうちから、僕はめまいに襲われた。何かに掴まろうにも、手の届くところには木の根っこ一つなかった。僕とこの底なしの星の生け簀のあいだには、屋根はおろか、一本の木の枝すらなかった。すでに命綱を解かれていた僕は、ダイビングの選手のように落下していった。
 いや、落下などしていなかった。うなじからかかとまで、しっかりと大地に縛りつけられていたのだ。僕は大地に自分の体重を預けることにある種の安らぎを覚えた。地球の引力が愛のように崇高なものに思えた。
 僕は大地が僕の腰に手を添えるのを、そして僕を支え、持ち上げ、夜の宇宙空間に運んでいるのを感じた。車に乗っていてカーブにさしかかると、体が車体の一方に押しつけられることがある。それと同じような力が僕の体を地球に押しつけていた。僕はすばらしい厚みのある壁に受けとめてもらいながら、その堅固さと安定感をしみじみと味わった。僕の体の下には、地球という名の船の丸みを帯びた甲板があった。

「Ⅳ 飛行機と惑星」より

——サン=テグジュペリ『人間の大地』(光文社古典新訳文庫,2015年) 97 – 98ページ


重力から解放される浮遊感と引力に支えられる安心感とは、古くから人類が感じていただと思いますが、天空と大地が逆転する感覚もそうだったんでしょうね。天地のあいだに自分ひとり、だれもいないところでそうした逆転の発想が生まれるように思います。

/三郎左

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