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#36 ジャズピアニスト・大林武司「ぶちグルーヴしとる」(2021.4.16&23)

今回は広島出身~NYで活動~現在コロナで日本帰国中のジャズピアニスト・大林武司さんのお話。文クリ初の試みとして、スタジオ内にキーボードを持ち込んでの音楽会議となりました。「あれ、広電がないなっとるじゃん!?」。14年ぶりの帰郷なんで広電己斐駅も変わってます!

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まずは大林さんの音楽との出会いから聞いていきましょう。

母がピアノとエレクトーンの先生をしてたので、家に楽器があって母や生徒さんが常に弾いてて。父も趣味でギターを弾いてて、日曜日は必ずエリック・クラプトンがかかってたんです。小3まではピアノを習って、小学校で「大林、SPEED弾いてぇや」って言われたら ♪世界中で~、って弾くみたいな(笑)。好きで耳コピしたりしてたんです。高校時代はクラシックとかスティービー・ワンダーとか。当時は宇多田ヒカルさんとかMISIAさんとかカッコいいJポップがいっぱいありましたよね? そういうものもよく聴いてました

まさに音楽の寵児。高校は広島音楽高校に進学しトランペットを専攻。ジャズに傾倒し、学外でPE'Zなどを演奏していたといいます。そんな大林青年に転機が訪れたのは大学のとき。

大学は東京に行って作曲家コースに進みました。そこでジャズピアノをはじめたら面白くて。面白いからもっとやりたいと思ったけど、これを生業にできるか悩んでたんです。そのときバークリー音楽院の先生が日本に来て講習をするという機会があって。その先生の演奏が素晴らしかったんですよ。ぶちグルーヴしまくってて! ステージ上で楽器で会話しながら一緒に物語を作ってる様子に感動して、「アメリカでこれを勉強せにゃあいけん!」と思って、大学を中退して渡米することにしたんです

ちょっと興奮して広島弁になってますが、モノホンに触れた大林青年、名門バークリーへと留学です。

バークリーで印象に残ってる授業は黒人の先生のゴスペルオルガン教室。先生はとりあえず手に付いてる指を全部鍵盤に置いたみたいな音を鳴らして、それでCって言うんです(笑)。普通「ドミソ以外の音が入ってるのにCでいいのか!?」って思いますよね。クラシックの世界では「隣り合わせの鍵盤を押さえると音が濁る」ってルールがあるので驚いたけど、黒人音楽は気怠い感じやグルーヴが脂っこかったりして。同じ西洋音楽でも文化やバックグラウンドが違えば、Cの響きも違うんだと思ったんです。バークリーに行って、クラシックで習った決まりごとがどんどん取っ払われていったところはあります

さらにバークリーからNYへ、ジャズの本場に潜入します。

大学1年のとき初めてNYのジャズクラブで演奏して。そのときNYの街並みを見ながら「ここで勝負したいな」って気持ちが芽生えて、卒業後にNYに行ったんです。ライブだけで食べられるようになったのは3年目から。学生中からビッグバンドでダンスパーティやウェディングの仕事はしてたけど、卒業後はレストランで演奏したり、友達のシンガーとジャズクラブに出たりしました

ジャズの本場は刺激がいっぱいだったとか。そらそうですよね。

NYではジャズの黄金期に活躍してた人がおじいちゃんになってまだ君臨してて。僕はマイルス・デイヴィスのCDを愛聴してたんですけど、そのバンドに参加してるベーシストのロン・カーターさんと一緒に演奏できたんです。ただ……音楽に詳しくない方のためにラーメンで例えると(笑)、ロン・カーターはスウィングのグルーヴがすごいカッコイイ人で、それってしょうゆラーメンみたいなものなんです。僕も「ロン・カーターのスウィングの上で弾ける!」って楽しみにしてたけど、でもバンドリーダーが持ってきたのは味噌ラーメンというかボサノバ(笑)。「ロン・カーターなのになんで味噌なん!」って思ってたら、本番で歌の人が唄ってるときは味噌ラーメンやってるんだけど、ピアノソロになったらスウィングのグルーヴにしてくれて、「うわー!」ってなりましたね。口に出しては言わなかったけど、僕の気持ちをわかってくれてたんでしょう

しょうゆラーメン……これですか! いいエピソードです。

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本場で揉まれた大林さんに「ジャズの魅力」について聞いてみました。

日本でもレストランに行けばなぜかモダンジャズが流れてて。こういうスタイルのジャズがどうして時代と国を超えて今でも聴かれてるんだろうってことを真剣に考えてみたいんです。もしこの時期の演奏技法やグルーヴの配分に黄金比があって、それでスタンダードとして今日も演奏の題材にされているとしたら、それを突き詰めたいですね
個人的な見解としては、ジャズの根底を掘り返すと奴隷として連れてこられた黒人の生活が横たわっているんです。あと、当時のジャズスタンダードにはアメリカンドリームの空気感も反映されてて。アメリカの発展の横にあった人たちの気持ちを、今後はもっと音楽に反映させていきたいと思います

ジャズという音楽には「極める」という行為がよく似合います。現在は日本での活動も増えてきた大林さんにとってジャズの真髄は?

音楽が面白いのは、スポーツだったら身体能力が水準以下だったら無条件で振り落とされるところを、ポピュラー音楽の場合、下地がキチンとしてさえすればチャンスが巡ってくるところ。数ある強者がシーンからいなくなる理由って、その人たちが音楽に楽しみを見い出せなくなったときだと思うんです。NY1年目に考えたのは、技術的に達者な人が山ほどいて、確かに「すごい!」と思うんだけど、どこか幸せになれない自分がいて。なんでだろうと考えたとき、演者が音楽に対して抱いている深層心理が音楽に表れるとしたら、「技術的にすごいことができて思い入れのないもの」より「気持ちの上にすごいものが成り立ってるもの」、この2つで差別化される気がしたんです。音楽の場合、気持ちが乗っていればアマチュアのジャズミュージシャンがプロの何百倍もいい演奏するってザラにありますからね。そう考えると、結局気持ちに尽きるのかな?

そして大林さんが目指す境地とは?

生命力があるというか、生きた演奏がしたいですね。特に今はコンピュータが演奏に関与するようになって、じゃあ人力でできることは何だろう、って。あと、アコースティック楽器でポンと音を出したとき「いいな」って思ってもらえる音を出し続けられる演奏家になりたいです。雑念が入って「いい音」が出せない頻度を減らして、出したい音を出せる精度をもっと上げていきたいと思います

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2021.3.30@HFM

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