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#51 ギャグ漫画家・榎本俊二「県北から極北へ」(2022.3.4&11)

実は広島にいるスゴいクリエイターシリーズ、今回はこの方、漫画家の榎本俊二先生です。榎本先生って三次在住なんです。そして個人的に榎本先生って「先生」付けたくなるんです。いや、漫画家だからとかじゃなくて!

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榎本先生は2010年4月、三次に転居。現在三次生活12年目を迎えました。三次には奥さんの実家があったのです。その暮らしぶりは雑誌『ちゃぶ台』連載中の『ギャグマンガ家山陰移住ストーリー』に描かれてます。

しかし三次で漫画家さんがやっていけるのか、まず気になります。やっぱリモートワークですか?

自分は基本アナログですけど、ファクスでやりとりして、描き上がったものを宅急便や郵便で送ってます。コロナ以降はデータ入稿もやるようにまりました。ペンで描いて、パソコンで仕上げして、データで送る。今はデジタルとアナログが半々。絵に重心がある作品は今でも手描きですけど、一枚絵のイラストや時間がない場合はデータを使う二刀流っていう(笑)

カミガキが衝撃を受けたのは最新作「アンダー3」、清水が衝撃を受けたのはデビュー作の「ゴールデンラッキー」。どちらも「衝撃」という言葉が似合うのが榎本先生たるゆえんです。

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それにしても、この「鬼才」はいかにして生まれたんでしょう?

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僕はもともと日本映画専門学校(現・日本映画大学)に行ってて、映画に関係する仕事に就きたいと思ってて。だけど学校に行ってるうちに集団作業が苦手だってことに気付いたんです(笑)。それでこれはマズイな、と。で、1人でもできる脚本家を専攻したんですけど、それも向いてないってことがわかって。それでマンガならクリエイティブな感じもするし、チャッチャとできるんじゃないかと思って(笑)。元々絵もマンガも好きだったんで、急に目指してみようと思ったんです。あと当時は雑誌を見ると必ず裏に新人賞の募集が載ってて、1つの雑誌にも月間賞、年間賞、週間賞とかいっぱいあって。応募しやすい環境だったんです

そんな中、最初に描いた『ゴールデンラッキー』が入賞。しかしこれがのっけから問題作で、業界をザワつかせます。アナーキー!

もともと新人賞のコンテストでも佳作というギリギリで引っ掛かった作品で。内容も10人読んで10人が面白いと思うものではないんです。僕が送った『モーニング』の審査委員長はちばてつや先生で、ちば先生の中ではダントツのビリッケツでしたから。のちのち編集者に聞いたら『ゴールデンラッキー』は10点満点中3点(笑)。史上最低点だったみたいです。ちば先生の講評も「私には理解不能、以上!」みたいな

その頃、榎本先生が19、20。当時は『コージ苑』や『伝染るんです。』など不条理ギャグと呼ばれたジャンルが話題になっていた頃でした。

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別に当時は戦略とかなかったですよ。とにかく描くなら絵が少なくて簡単な方がいいって思ったらギャグマンガになっていくわけです。自分はストーリーマンガを何十ページも描けないので。どんどん簡単な方へ、簡単な方へ行ったら4コマ漫画になったんです

しかし不条理モノの中でも『ゴールデンラッキー』は不条理の極北として多くの読者を戦慄させます。シュールやナンセンスを越えた、これは何?

4コマでも新聞に載ってる4コマみたいな日常の面白い話じゃなくて、読んだ人をギョッとさせるギャグがやりたかったんです。それでどうしたらいいか考えたとき、カメラアングルがガラッと変わったり、マンガの中で早回しにしたりスローモーションにしたり。マンガにおける見た目の面白さを追究したいって気持ちになったんです

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そっか、これは「カット割り」だったのか! 映画専門学校がルーツというのが、やっとここで合点します。

4コマでやるにしてもページものにしても「飛び出したい!」「実験したい!」って気持ちがあるんです。読んでる人にビックリしてほしい。これまで普通に楽しくマンガを読んでたのに、急に自分が知ってるマンガとは違う語り口や手法が出てきて「どうしちゃったの!?」って思うようなマンガを描きたいんです。それでマンガを描きながら「こういう遊びもできるし、こういう実験もできる」ってことを覚えていくんです

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面白いのがこんなパンクで実験的な作風なのに、先生本人はヒジョーにフツーで常識人なトコロ。

そう、エキセントリックでマトモに話ができない人間が描いてるようなマンガじゃないですか? でも極北を描くのはマンガの世界だけで、描いてる人間はビックリするくらい普通っていうのが自分のトレードマークなんです

そのことをネタにした漫画もありますからね。その名も『思ってたよりフツーですね』!

こんなサイキックな漫画描いてる方が県北の三次在住ってギャップが興味深くて。怪しまれたりしないんですか?

子どもが保育園に通ってる頃、出会った親御さんに「マンガ描いてるんです」って言ったら「何の雑誌?」って聞かれて。「『モーニング』です」って言ったら「読んでますよ。なんてタイトル?」「『えの素』っていうひどいエログロギャグマンガです」って。そしたら「大好き大好き!」って。あ、意外と大丈夫なんだと思いました(笑)

創作において三次にいることのメリットってあるんですか?

やっぱり時間の流れは東京とは違うので。編集者と物理的に距離が離れてることでメリットデメリットはあります。ガンガン催促されないことで仕事が遅れる部分もありますが、マイペースで仕事できるというメリットもあって。あと三次まではるばる来てくれるかどうかが、編集者さんを信頼するかどうかのリトマス試験紙になりますね(笑)

東京の編集者の方々、榎本先生の「三次詣」はやった方がいいと思いますよ! リモートで済ませちゃダメ!

ちょっとエッジな極北の表現って、東京みたいな切った張ったの世界で研ぎ澄まされていく部分はあるけど、そうじゃないこともあるのかな、と。本質的なものは都会にもあるかもしれないけど、田舎にもいっぱいあるってことを掘り出してみたいですね

ギラリと光る先生の矜持。ちなみに「極北」って言葉使ったの先生ですからね。県北に暮らし、極北を目指す。こんな漫画家さんがいる広島、ステキなところだと思いません?

マンガは難しいし、厳しいし、つらいばかりですけど、ネットという無敵なツールが出てきてすごくやりやすくなったと思うんです。なので少しでも絵やマンガを描くのが好きだったらポンとネットに乗せてみるといいと思います。鳥山明や高橋留美子と同じ土俵で素人が勝負できるので、ちょっと面白いアイデアを持ってる人はどんどんやるべきだと思います。あと、エログロはやってる人が少ないので狙い目かもしれません!(笑)

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2022.2.22@HFM

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