#29 ミュージシャン・曽我部恵一(サニーデイ・サービス)「一生懸命」(2021.1.8&15)
2020年のクリスマスイブ、ホントーBOYSの2人はカミガキの事務所であるIC4DESIGNにいました。聖夜の会議相手はロックバンド、サニーデイ・サービスの曽我部恵一(Vo & G)と田中 貴(B)の2連チャン。先陣は曽我部さん。明日のライブに合わせ、今しがた広島に着いたばかりです。
サニーデイ・サービスはまもなく結成30周年。代表曲は数多くありますが、そのうちのいくつかを貼っておきましょう。
フォークと言われたり、ロックと言われたり、ハウスだったりシティポップだったりパンクだったり。そしてこちらが最新作の『いいね!』。昨年発表になりました。
さて、そんな曽我部さんとの会議。まずは自ら「ROSE RECORDS」というレーベルを主宰するDIY精神について。どうして自分でレーベルをはじめたんですか?
解散前のサニーデイは小さい事務所にいて、ソロになったときユニバーサルという大会社に入って2年やったんです。それで2004年に独立。自分でやろうと思ったのは、大きい会社にいたとき向こうが思うほど売り上げがよくなくて。2年契約だから2年ごとに更新があるんですけど、結果が出てないから契約金が下がることになったんです。それを見て、このままいくと「結果を出し続けないといけない人生」になって、しんどいと思ったんです。結果に縛られると自分の好きなことができないし、期待してくれた人にも悪いし。それで自分ひとりでやることにして、不動産屋に行って「事務所に使える物件ないですか?」って聞きました
その後、曽我部さんはレーベル運営以外にも、下北沢でカフェやカレー屋を開きます。ミュージシャンなのに実業家? それはどういう感覚なんでしょう?
その後「CITY COUNTRY CITY」っていうカフェをはじめて、去年は「カレーの店・八月」をはじめたんですけど、僕は別に店をやるのが好きなわけではなくて。なんかやる流れになっちゃうんです。カフェももともとやるつもりはなくて、興味もなかったんですけど、友達が「レコード屋さんやりたい」って言ってて、なんとなく話を聞いてたらある日そいつが「やろう!」って仕事辞めて来たんです(笑)。それで「じゃあ、やろうか」って引けない感じになっちゃって。あまり責任が重くなるのはイヤだけど、自分たちのサイズ感でできるのならいいかなって思うんですよ
なんだか話を聞いてると、なりゆき任せな感じ。しかし曽我部さんはその気楽さや偶然性を楽しんでいるようです。
それは音楽の活動でも一緒で。小さい町のライブにも呼ばれたりして、それって別にお金にならないんだけど、「でも行ってみようか」って。面白いかもしれないし。人生全部そんな感じなんです。やってみたら面白いこといっぱいあるし。それで「いいね~」なんてやってますね
たとえばそれを「お金 < 自由」な生き方と呼んでみる。ただ、曽我部さんは芸術家である一方、レーベルや店舗の経営者でもあるわけで。そうなると「自分の作りたいもの」より「売れそうなもの」「儲かりそうなもの」に引っ張られることはないのでしょうか?
そういうときもあったよ。他の人が作品を出すとき「もっとこうしたら売れるんじゃない?」って言ってみたりしたんだけど、でもそれをやると居心地よくないんだよね……。自分の表現として何も偽らないものを出してるのに、そこに俺が「こうやったらどう?」って口を挟むのは余計なお世話だと思って。それ以降、そういうことは絶対言わないようにしてる。そこからはアーティストが持ってきたものを何も言わず、全部そのまま出してるよ
好きなことをやって食べていくために必ずぶつかる、お金と創作の問題。曽我部さんは「そういうことは絶対言わないようにしてる」のだとか。結構重いです、この言葉。ではここで1曲! ♪集金列車~
後半は30年近いキャリアとなった今の状況について。長く音楽を続けてよかったことは?
ライブとか行くと「中学生のときに買ったんです!」ってぼろぼろのCDを持ってきて「サインしてください」って言われることがあるんだけど、それはめちゃくちゃ嬉しいよね。そういうのって20年経たないとこっちに伝わらなかったことだし。CDって出したときは自己満足でしかなかったけど、それが自分の手を離れて「20年間この人のところにいたんだな」っていうのはありがたいですよ。それは配信とは違う、モノならではのよさだよね
曽我部さんの場合、長く続けようとしたというより、やり続けていたら今になった……そんな感じが近いのかも。これまで「やめる」という選択肢はなかったのだろうか?
刹那的なのは今も変わってないですね。「10年後どうしよう?」とか「70歳になったとき今みたいに仕事できないけどどうしよう?」とか、まったく考えない。でも休むやめるって、なんのためにやめるの? ミュージシャンみんなそうだと思うけど、もうこれしかできないわけじゃん? 呼ばれて、歌って、お金もらえるんだよ? だったらやめるタイミングなくない? これでバイトしたらもっと大変だし。歌ってお金くれるんだったら、全然やるよね
この潔さ、肚の据わり方が曽我部さんの強さなのでしょう。そして興味があるのは、今年50歳になる彼が自分のキャリアをどう考えているか。
今後の計画もまったくないし、「こういうことをやってきたな」っていう感慨もない。たとえば今日だったら「明日のライブの選曲どうしよう?」とかそういうことしかないよ。やっぱり鈴木慶一さんとか遠藤賢司さんとか70代の先輩を見てきたからね。70になって体力衰えるかというとそんなことなくて、全然勝てないというか。いま想像してる70~80って、もっとエネルギーのあるものかもしれないですね
曽我部さんは過去も未来もなく、常に目線が「今」にあります。とにかく今を一生懸命。
たとえばベルベット・アンダーグラウンドとか、あの有名なバナナのジャケットのファーストアルバムが最高傑作と呼ばれて、そのあとルー・リードがいくら頑張ってもそれを超える評価を得られないっていうのもわかるんです。でもルー・リードをちゃんと聴くと、全部いいんです。なぜならルー・リードは一生懸命生きて、その都度一生懸命音楽をやっていたから。でもバナナのやつは「特別いい」んです。「特別いい」のがいつできるかは生きてるうちは本人はわからない。だから一生懸命生きて、一生懸命作るしかないんです。サニーデイも世の中的にはセカンドアルバムの『東京』が最高傑作と言われるけど、そんなの全然気にならないです。それは二十何歳の自分だし、今は今で思いきりやってるし。一生懸命やってないとそう思えないかもしれないね
コレとコレは「特別いい」けど、でももっといいものができるはず。
それでは聞いてもらいましょう、サニーデイ・サービスで「NOW」。
ちなみにちょっと話はズレますが、曽我部さんが話してくれて面白かったのが「出会い方」の話。わかるわ~。
たぶん出会い方なんですよ。それは美術館でも、人の家に掛かってた絵でも、ネットでも全然よくて、出会いの衝撃が自分のチカラになるというか。だからネットに全部上げられてて、そこからかいつまんでいくような出会い方だと事故的な出会いは減っていくと思うんです。僕、セックス・ピストルズを初めて聴いたのが中1のときで。友達にカルチャー・クラブのアルバムをダビングしてもらって、それを聴こうとしたら間違ってセックス・ピストルズだったの(笑)。それがすごく衝撃で、本当に体中に電流が流れたみたいになって。ネットってそういう本来起こり得なかった出会いがないからね。定食屋でラジオから流れてきたボブ・ディラン、とかがなくなっていくのはちょっと淋しいね
では最後、今の曽我部さんの夢とは?
売れたいっていうのはあるよ。曲がヒットしてほしい。それはもう何十年も変わらずある。「どのコンビニ入っても俺の曲かかってるよ!」っていう状態(笑)。星野源くんとかそういう感じでしょ? 単純に最高な気分だろうな。歌ってそうなったらいいと思うんだよ
そしてクリエイティブに心を燃やす人たちへメッセージを!
やりたいことをやったらいいと思います。なんかネットとかあると気になるじゃん。この人は「これがいい」って言ってるとか、この人は「これが新しい」って言ってるとか。でもそういうの全然気にしない方がいいと思います。やりたいことを思いきりやった方がいい。僕はそれだけです。自分がやりたいことを、自分のために思いきりやってる人が結局はカッコイイと思うから。方法論でカッコイイ人もいっぱいいるけど、「この人、本気で好きなことやってるな!」って人が一番カッコイイし、誰かに勇気を与えると思うな
ちなみにこの日は僕の誕生日で、曽我部さんたちと知り合ったのはもう20年以上前。旧友との地元での再会で、忘れがたい誕生日&クリスマスになりました。まさしく「胸いっぱい」ですよ!
2020.12.24@IC4DESIGN