#23 歌手&ラジオパーソナリティ・土岐麻子「ラジオ抱きしめる」(2020.9.11&18)
半年遅れのラジオ議事録、このときちょうど番組スタート満1周年の記念週だったんですね。ああ、なつかしい。ということでスペシャルゲスト。ウチのDとPのあこがれの歌姫&ラジオパーソナリティの「トキシック」土岐麻子さんです!
実際はリモートだったので……土岐さん、ちっちゃ!
今回はFMラジオの先輩として、番組を長くやっていく秘訣のようなものを聞くのが目的。コレですよコレ「トキシックラジオ」。2009年スタートなので、今年でもう12年目。
最初は自分のパーソナルな部分を出すことに慣れなくて。特に私がやってる番組は「ひとり語り」なのでどうしても自分が出てしまって、最初の1年くらいはスタジオに行くのが怖かったんです。自分のラジオ番組が持てるって夢だったし、すごく嬉しくもあったけど、その反面しゃべるのが怖いっていう気持ちもあって。当初はリスナーのみなさんに対してもよそよそしかったと思いますね
なんと、最初はラジオが苦手だった土岐さん。しかし本当は10代の頃からのラジオ好き。土岐さんに広い世界を見せてくれたのがラジオでした。
中学生のとき初めて親や先生以外の大人の話を聞いたのが、ラジオってメディアだったんです。中学生って家と学校と部活の3ヶ所を往復するくらいで、行動範囲が狭いじゃないですか。だから外の世界を知らないし、テレビは見るけどあれは作られた世界で、大人の本音や雑談を聞いたことがなかったんです。そのとき電気グルーヴが夜中の3~5時で深夜ラジオをやってて、家のラジカセにイヤホン挿して親に隠れて布団の中で聴いたら、これがすごく面白くて。当時中学生に接する大人って「子供の前で話す態度」で話すのに、電気グルーヴは子供の耳なんてまったく意識してないふざけた話で、だけど本音も聞けたんです。それを聞いて「世界って自分が思ってるよりもっと広いんだな」って思ったり、「どういう大人になっていきたいか」ってビジョンができてきた気がして。電気グルーヴの番組にはハガキも出したりしましたよ(笑)
世界を見せてくれる大人が電気グルーヴというのはどーかと思うが、土岐さんにとってラジオは世界に向けて開かれた「窓」だった、と。その想いは2019年のアルバム『PASSION BLUE』に収録された「RADIO」にも歌われてます。ウチの番組でもかけましたよ。しかも2回も!!
「RADIO」はこういう歌い出しからはじまります。〈真夜中のラジオを聴き終えたら/なんとか夜を/生き抜いた気がしてた/ああ あの頃/友達より/イヤフォン越しの大人/わかってくれる気がした〉。まさにさっきの話と重なりません?
なんであの歌詞を書こうと思ったのか……大人になった今だと「世界は広い」って知ってるからこそ、なんとかやっていける部分があって。でも世界にいろいろあるということを知らない、小さな世界に生きてる子供にとっては、すごく希望を持ちにくかったり、小さな挫折で大きな絶望にまみれてしまう状況でもあると思うんです。自分が中学生の頃も、いま思えば大した挫折ではないのに「この世の終わりだ!」と思ったりして。で、その事実って大人がチラつかせてあげなきゃいけないものだと思うんです。「それだけじゃないよ。世界に楽しいものはもっとあるよ」って。歌詞は自分が感じたことしか書けないので、「いつかの自分の答え合わせ」みたいな感じで書いてるところはあるんですよね
Radio saves your Heart. そして時間は流れ、いつしか聴く側から話す側へ。ラジオパーソナリティ・土岐麻子の誕生です。
最初の頃は「同録」っていう放送されたテープをもらって聞いてたんですけど、恥ずかしくて恥ずかしくて。「なんでこんなこと言っちゃったんだろう」とか「声がイヤだ」とか(笑)。自分の歌ったものを聴き直したとき、反省はしても恥ずかしくなることはなかったんです。でもラジオはものすごく恥ずかしくて、その恥ずかしさに耐えきれず聞かないことにしたんです。でもそうしたら自由にしゃべれるようになって、自分も楽しめるようになった感じです。なんかラジオって、聞いてると自分の性格そのものを変えたくなっちゃうんですよ(笑)。だから今は普段自分がラジオでしゃべってることをあまり意識しないで生活してますね
わかる!――って言うのもおこがましいですけど、ほんと電波に乗った自分の声を聴くと穴に入りたくなりますよね。だから、聴かない。気にしない。まずそれが長く続ける秘訣なんでしょうか。
じゃあ、ここでラジオっぽく1曲聴いてもらいましょう。最新カバーアルバム『HOME TOWN』からEPOのカバーで「Rendez-vous in ’58」。土岐さん無双のシティポップ!
後半はこの時期の最新曲である「HOME」のお話。しかしこの曲、いま聴いた方がグッとくる気もします。メロウだわ。
私にとってHOMEとは「離れていてもこの場所があるから大丈夫」っていう自分にとっての重石となるような場所。いろんな世界に行くけどちゃんと戻ってこれる場所がある。そういう意味で音楽は絶対裏切らないという想いがあるんです
その土岐さんのHOMEのひとつがラジオでもあるのでしょう。さあ、そろそろラスト、長くラジオと付き合っていける秘訣、教えてくださいよ!
それが私もわからなくて……スタッフと「なんでなんだろうね?」ってよく話すんです。そしたら作家のフクダくんが「土岐さん、大きなヒットとかしてないじゃないですか。普通は売れたタイミングで番組卒業とかになるけどそれもないし、かといってすごく落ちてるわけでもないから安定してる。自分の本業が安定してるから、ラジオも安定してるんじゃないか」って言ってて。そういう分析に落ち着きました(笑)
「そこそこの安定」が長続きの秘訣!? 夢がないような気もしますが、しかしゆるりとしたそのテンションこそラジオ的な気もしますね。
だから肩の力を抜きつつ、お互いそんなにブレイクしないよう見張り合いながら頑張っていきましょう(笑)。スタジオの温度がずっといい温度感でいれると、低温調理みたいになりますから。もし相方がブレイクして、着てる服とかオラオラな感じが出てきたら、「(オラオラ感が)出てるよ!」って教えてあげるくらいじゃないと
実はゆるめが魅力のシティポップの女王、最新作はカバー集の『HOME TOWN~Cover Songs』好評発売中。FMラジオをしょって立つオンナ、ヘッドフォンでその声聴いてるだけで至福な時間でした。耳福!
「2年目の文化系クリエイター会議もよろしく!」って半年遅れで言うセリフかね? こちらもゆるめで、何卒よろしゅうございます。
2020.9.4@HFM(remote)