#31 都市研究家・鈴木綜真「音楽×場所=Placy」(2021.2.5&12)
本日の会議相手はなんと表現したらいいんでしょう? 京都大学工学部を出て、MITメディアラボ、ロンドン大学で学び、3年前に日本に帰国。そして音楽で場所を探せる地図サービスを提供する「Placy」を創業……弱冠27歳のスーパーエリートデジタルデザイナー・鈴木綜真さんの登場です!
そもそもPlacyとは何なのか? コレっちゃコレなんですけど、鈴木さんの口から説明をお願いします。
Placyは地図サービスですけど、普通の地図サービスってキーワードを入力して検索すると思うんです。たとえば「広島 喫茶店 おしゃれ」「広島 旅館 隠れ家」とか。でも僕はキーワードでは場所を特定しにくいと思ってて。それに「おしゃれ」と入れても何をおしゃれと思うかは人それぞれで。それを突き詰めていくと、キーワードや文字での検索ってブログなどの文字情報には適してるけど、空間・場所・店舗は言葉でできてないから難しいと思ったんです。それでもう少し感覚的な指標で場所を探せたらと、好きな音楽・好きな映画・好きな写真を入れるとそれに合った場所が出てくる地図サービスを作りました
言葉で検索するんじゃなくて、音楽や映画といった「感性」で検索する。それってどういうことでしょう??
まず、サービスにログインするときSpotifyやApple Musicなど音楽に関係するプラットフォームでログインしてもらって。そうするとユーザーが訪れた場所にその人の音楽情報が蓄積されていくんです。そうすると音楽の趣味が近い人が、同じ場所を見つけることができるっていう
今は2つの検索の仕方があって。1つは思い浮かんだ音楽を入力するとそれに適した喫茶店などが出るやり方。ただ、毎回音楽を入力するのは面倒なので、普段聴いてる音楽データやプロフィールに入れたジャンルで検索できるようにしていきたいと思ってます
鈴木さんのチャレンジの裏には、すべてが点数表示でわかりやすく評価されてしまう世の風潮への反発があります。
僕は批評もあるべきだと思いますが、今のテクノロジーやインターネットが提供する批評はシンプルすぎると思うんです。すべてのものが点数でジャッジされてしまう。10人がその場所に行って、1点の人や5点の人がいても平均点で表示されてしまう。便利なものを作ろうとして生まれた評価システムなのに、場所のカルチャーや文脈を削ぐ方向に働いていると思って。それでもっと場所の豊かな魅力を表現できる媒体・指標を作りたいと思ったんです
Placyはまだユーザー獲得数に課題がありますが、鈴木さんの活動はすでにさまざまな場所で注目を集めています。たとえばJR東日本と組んだ「音楽で巡る山手線|東京感動線」企画。
山手線30駅ぶんのパンフレットを作成させてもらったんですけど、駅を訪れた人たちが聴いてる音楽に基づいてパンフレットの色や形状が違うんです。JRとしては、普段なかなかな訪れない西日暮里や田端といったマイナーな駅の魅力を音楽を使って表現できないかという想いがあって。ちなみに西日暮里はハウスミュージック多め(笑)。色で言うと新宿は真っ赤で、渋谷は青の中に黄色が混ざった感じです
さらに岡山市と組んだ「岡山音度感」プロジェクト。
岡山ではさっきのJRさんと同じようにエリア性を音楽で表現しつつ、「プレイスリスト」を作りました。「Playlist」じゃなくて「Place List」。たとえばある岡山出身のアーティストがいたら、その人が幼少期に訪れた駄菓子屋や大学のときに通った居酒屋などをリストにまとめ、ユーザーはそれを聖地巡礼などガイドマップ的に使うんです
はー、音楽と地図、異なる2つのジャンルを結び付けることで、新しいサービスが生まれるんですね!
そんな鈴木さんには今、広島でやりたい企画があるのだとか。
昔、YUIさんが広島のアーケードで路上ライブをされたことがあって。Placyはユーザーが場所に音楽を置けるので、逆にユーザーが「この場所はこの音楽じゃね?」って置いておくと、実際アーティストがその場所で路上ライブをする仕組みがあると面白いと思ったんです。それって自分が街の雰囲気を作っていくことにもつながるというか
これか~。2008年の本通り。さらに鈴木さんの夢は膨らみます。
今は「聖地を探せるサービス」だけど、いずれは「聖地を創れるサービス」まで持っていきたいと思ってて。ある場所にある音楽を紐づけると、そこで路上ライブが起こるってことを広島からはじめて日本全国に展開していければ、コロナが収まった後の観光需要も創出できるんじゃないかって
たとえば「ポケモンGO」は素晴らしいサービスだけど、ひとつだけ淋しいのは、ポケモンを見つけにその場所に行った人が、その場所には興味を持たないことなんです。全然場所と接続されず、携帯を見るだけで終わってしまう。でもこの路上ライブのやり方だと、そこを訪れた人はその場所にどっぷり浸かれるんです
鈴木さんの夢を広げていくと、その先には街と音楽を同時に楽しめる「街中フェス」という新形態が生まれるのかも。おまけに音楽だから外国人でも参加OK。ちなみに鈴木さんの好きな音楽は、奥田民生、細野晴臣、はっぴいえんど、YMO、テクノ、環境音楽……と多種多様。
インスタグラムでメッセージをくれた方がいて、「レビューとか点数で場所を見つけるのがイヤなときに、何か違うものがないかと思ってたらPlacyがあった」と。超音楽好きで超都市論が好きな方じゃなく、普通に街を楽しみたい方がそう言ってくれたのは嬉しかったです
「音楽 × 場所」、見たことのない革命はこうした異ジャンルの融合からはじまるのかもしれません。Placyの今後に注目です!
2021.1.21 on-line