別冊「ぼくたちが好きな本の話」(2020.4.17&24)
時はまさにコロナ禍下。「文化系クリエイター会議」も予定していた会議がバンバン飛んでいきました。カミさんもオリジナルマスクしてるし、そういう時代に突入したんですよ。
ということで、今回は原点に戻ってカミガキ&清水が影響を受けた本の話をしております。そもそも「ホントーBOYS」って本屋応援ユニットであり「本トー」が語源なんですよ。カミさん、小さい頃、何読んでました?
僕、妹がいるんです。妹は優秀で勉強ができて、僕は全然勉強ができなくて。ぎりぎりで呉工業高校に入って、呉工業でもクラスで後ろから3番目。だからずっと自分は勉強できない人間っていうコンプレックスがあって、でも社会人に入ってすぐ、月に10冊本を読むことにしたんです。月に10冊読もうと思ったらテレビなんて観る時間なくて。それを1年以上続けたら、気が付けばボキャブラリーが増えてきたんです。あと本屋に行くことが習慣になると好きな小説以外にもいろいろ手を出すようになって、ドストエフスキーとかカミュとか読むようになったんです
ヤング・カミガキの意外な過去。そこで出会った1冊が、コレ。
・ジェフリー・アーチャー『ケインとアベル』(新潮文庫)
これはすごい衝撃を受けて。ジェフリー・アーチャーってイギリスの作家で国会議員もしとった人だけど、自分の体験をベースに書いた『百万ドルをとり返せ!』(新潮文庫)がデビュー作で、うんちくの入ったミステリーを多く書いたんです。『ケインとアベル』は立場の違う2人が、お互い会ったこともないのにライバルとして競い合う話で、アベルは貧しい移民でホテルのレストランでバイトしてて、その中で「もし料理がまずかったら貧乏人は文句を言って、だけどまた来る。お金持ちは何も言わず料理を残して、二度と来ない」って言うんです。僕、そのことは小説から学びました(笑)。やっぱり小説って他人の体験を自分のものにできるから、いろんな人の秤が自分の中に入ってくるようなところがあるんですよ
今回のお題は「わたしが影響を受けた本」ってことで、デザインや絵を描く部分で大きかった本ってありますか?
デザインの本は格好つけるためにムリヤリ読んでたけど、学校を卒業するときに後輩からダダの本をもらって、そのとき自分の根幹にダダが入ってきたんです。ダダっていうのは、価値観の転換。それまでの芸術は王様の肖像画や宗教画を描くものだったけど、それを全部ブチ壊したというか。たとえばマルセル・デュシャンは美術展に男性用便器を展示して「これはアートだ!」って言ったんです。デュシャン以降「ヘタでも芸術って言っていいんだ!」って気分が拡がっていったんだと思います
カミさんのルーツにダダイスムがあったとは! ダダイスト・カミガキヒロフミ。ちなみにこれは関係ないけど、もう一個のダダ。宇宙人ダダ。
さらに、こんな話も。
僕、フランスのマンガ(=バンドデシネ)がすごく好きで。有名な人だとメビウス(ジャン・ジロー)とか(ジャック・ド)ルスタルとかいるんですけど、すごくおしゃれなんです。大学の時に衝撃を受けて、そこが完全にベースになってますね。本の主人公の名前をピエールにしたのも(『迷路探偵ピエール』)、アメリカ人はフランスのものをハイカラに感じるって話を聞いたからで
確かに、このへんの雰囲気は今のカミさんのタッチと共通するかも! やはり本棚を知るとその人のことがよりわかる、影響っていうのは脈々と続いているものですね。ちなみに下の写真は今のKindleの中身。剣豪物やスパイ物に混じってエッチ物があるのはご愛敬!(笑)
そしてお次は、私・清水のターン。
今回自分が影響を受けた本を持ってくるっていう話で、すごく迷ったんです。たとえば自分が10代とか20代のとき読んで面白いと思って、いま50歳を前に読んでもやっぱり面白いと思えるものって少なくないですか? 齢とって読むとあれほど感動した本なのに恥ずかしく思えたりして
という前フリの後に出したのが、これらの本。
まずは2冊、沢木耕太郎『一瞬の夏』(新潮文庫)と 宮本輝『春の夢』(文春文庫)。こちらは文章&小説の面で影響を受けたもの。
まず、自分にとって小説の面でルーツになってる作品。どちらもハタチ前後の頃に読んで、いま読んでも「いいなぁ」と思える作品。沢木さんは『深夜特急』の人で、もともとノンフィクションの人だけど、「私ノンフィクション」って手法を開発した人でもあるんです。書き手が主人公として物語の中に出てきちゃう。あと沢木さんは文章が硬派だけどロマンチックな部分があって、カッコイイと思ったんです。宮本輝さんはストーリーテラーとして日本の第一人者。話の展開にドキドキわくわくしつつ、その一方で純文学的な「人生とはなんぞや?」「幸せとはなんぞや?」という命題もちゃんとあって。そのエンターテイメントと哲学性のバランスは理想的ですね
続く2冊は 川勝正幸『ポップ中毒者の手記(約10年分)』(河出文庫) と ポール・オースター編『ナショナル・ストーリー・プロジェクト』(新潮文庫)。こちらは編集者的な視点で影響を受けたもの。
カミさんは世界文学全集を読んで、その挿絵から絵に興味を持ったけど、僕は本の中でも雑誌に影響を受けたんです。80~90年代は雑誌が元気で、『ポパイ』『オリーブ』『スタジオボイス』『NUMBER』、数々の音楽雑誌……その中で川勝正幸さんは『テレビブロス』でコラム書いたり、映画・音楽の紹介に尽力された人。川勝さんの素晴らしいはとにかく興味の幅が広いこと。たとえば音楽だけに詳しい音楽評論家の人や、映画だけに詳しい映画評論家の人ってたくさんいるけど、川勝さんはいろんなものに造詣が深くて、ジャンルを横断した見立てや気分を提示してくれたんです。物事をどう見て、どう切り取るのか、「見立て=編集」ということを教えてくれたという意味で、心の師匠的なところはありますね
会議では紹介できませんでしたが『ナショナル~』は、普通の人たちが自身のエピソードをラジオに寄せた一冊。本当に面白い話は市井の人の心の中に眠っているということを気付かせてもらいました。
いかがだったでしょう? 本を知るとその人が知れる。このシリーズ、7月からはゲストを迎えて進めますので、みんなー、たまには本屋いこうぜ!
2020.4.12@HFM
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