#28 アニメーター・浅野恭司「動かしたい」(2020.12.11&18)
今回の会議は初のアニメーター登場。プロダクションIGから現在はWITスタジオに所属し、アニメ『進撃の巨人』の総作画監督を手掛けた浅野恭司さん。おお、原画集も出てる人だ! すごい!
これにもキャラクターデザインで関わってるんだな。
さらに故郷・古河市で「浅野フェス」が行われたって。郷土の星ですよ!
アニメ的にはシロウト状態のBOYSの2人、まずは基本的な話からお聞きしました。そもそもアニメーターってどんな仕事をするんですか?
アニメーターっていうのはアニメ作品の動いてる絵を描く職業です。昔は紙に絵を描いて、それをトレースマシーンっていう機械でセルに転写して、そこに色を付ける作業をしてました。今はアニメ業界でセルは使ってなくて、全部デジタル彩色です。僕が入った25年前からそんな感じでしたね
じゃあ、アニメの作り方ってどうなってるんですか?
作品自体が企画として動き出すと監督が世界観を作り、脚本が決定稿になったら絵コンテの作成に入ります。テレビシリーズ22分だと300カットくらい必要なので、それを手分けして描いていくんです。キャラクターの動きを演出するのは基本的に監督ですけど、テレビシリーズになると監督が全話演出することは不可能なので、各話に演出家が入ります。それでまず監督が各演出家に「この話はこうなります」「このキャラクターはこういう設定です」っていうのを伝えて、アニメーターは各話の演出家と個別に打ち合わせしながら絵を描いていくんです
浅野さんは『進撃の巨人』で総作画監督っていう立場ですけど、これはどういうもの?
作画の絵の統一を任されてる感じです。たとえばアニメーターが10人いると、キャラタクター設定があっても絵柄がバラバラになるんです。そこで作画監督が立って絵柄を統一するんですけど、ただ『進撃の巨人』は作画監督も何人もいるんです。そうするとそこでもまたバラつきが出るんで、僕が総作画監督という立場でさらに統一するということをやってます。僕の上には監督がいて、監督は作画以外の部分も見なきゃいけなくて。だから総作画監督は作画に関する最高責任者といったところです
つまりこちらの作画に関する総責任者を務めたんですね。
そもそもアニメーターに必要な要素って何でしょう? 同じ絵を描く職業でも、イラストレーターとは違いますもんね。
ベースは「絵が上手い」ってことですね。ただ人それぞれ得意分野があって。もちろん何でも描ける人は重宝されるけど、得意な部分を伸ばした人はそれ専用のアニメーターになっていったりします。僕の場合は、とにかく動かしたくてアニメーターになりました。自分がアニメを観てたときも、動きのあるシーンに熱くなることが多くて。若い頃はその「動かしたい!」って気持ちだけで突っ走ってきたんですけど、年齢を重ねるとガムシャラに動かすだけではしんどくなって(笑)。だから『進撃の巨人』では僕はもう動きは全然描いてません。キャラクターデザインと、原作の印象をアニメの絵に落とし込むという役割に徹しました
アニメ業界というと長時間重労働のイメージがあります。浅野さんが制作を手掛けたコチラのアニメーター応援歌「サクガサク」でも〈描く/ただひたすらに/24時間の時が尽きるまで〉〈襲う眠気に/つきまとう疲労感に/風呂に入れてないニオイに〉ってなかなか壮絶な描写がされてます!
昔と比べると業界全体を改善しようという動きは間違いなくあって。WITスタジオはちゃんと固定給を提示して、収入の面は安定させようと動いてます。ただ、僕がこの世界に入ったときは、収入が低いのもわかってて飛び込んだところもあって。自分的に待遇はどうでもよくて、とにかく「動きを描きたい」という気持ちだけで頑張れたんです。自分が目立つ動きを描くことをモチベーションに乗り切れた。だけど今の時代はそれでは通じないので、社員に対しては「泊まるな」「帰って休め」と言ってますよ
アニメーションの世界でも働き方改革。今や日本を代表するカルチャーに成長してますからね。
さて、後半は浅野少年がアニメーターを目指すまでの物語。浅野さんは何に触発されてこの世界に入ることを決めたのでしょう?
小さい頃は子供向けアニメとか観てたんですけど、中学生のときにもう「自分はオタクだな」っていう意識があって。その時期に同じアニメ好きの友達ができて、いろんなアニメを観まくったんです。その中で『機動警察パトレイバー』の世界観とリアルな描写にドはまりして。映画版『パトレイバー』は実写を採り入れたカメラワークを使ったり、カメラのレンズを意識した構図をとったりしてたんです。そのメイキングブックを買って、のめり込むように読んで。もちろん当時は素人なんで書いてることはわからないけど、アニメーターになって読み返すとわかる部分がたくさんあったんです
そして浅野少年は、ただひたすら好きなアニメの絵の模写に没頭する。それだけで十分幸せだった。そしてプロの世界へ。多くの人が業界を去っていった中、浅野さんが残った理由は何だったのだろう?
僕の場合は、アニメに関われるんだったら何でもいいという気持ちだったので低収入でも乗り切れたんです。アニメーターって最初は原画を描く方が描いたものを清書する作業をするんですけど、「自分の絵が描けない」って辞めていった人も多かったです。僕は根本的にアニメが好きっていうのが大きいんでしょうね。もともと「黙々とやる職業だろう」と思ってたんで、ただそれを繰り返してて。プロダクションIG時代「作画が崩れたようなものは作らない」って言われて、それをひたすら心に留めてやってたら見てくれてる人がいて、「次、この作品をやってくれない?」と声掛けしてもらって今に至る感じです
浅野さんから感じるのは、仕事に対するピュアネスだ。アニメが好き。とにかくこの絵を動かしてみたい。その気持ちだけでここまでやって来た。逆に言えば、雑念に惑わされないのが浅野さんの才能かもしれない。そんな浅野さんの将来の夢は?
「サクガサク」とか『水曜どうでしょう』のOPアニメとか少人数で作れるものは今後もやりたいと思ってます。ただ、シリーズものや映画の監督は向いてないと感じてて。基本的に絵を描くことが好きなので、今後は絵を描くことに集中するつもりです。あと、最近は『進撃の巨人』とか『PSYCHO-PASS サイコパス』とか年齢層が高い人も観てくれる作品を作ってるけど、子供向けの作品を作りたいですね。自分も子供時代にアニメを観て影響を受けたし、今は自分にも子供がいるので
実は今回の会議には裏話があります。浅野さんはウチのディレクターの幼なじみの弟。昔からアニメが好きだった浅野さんとの再会に、ディレクターは「きょうちゃんは昔から~」と感慨深げでした。
アニメ好きだった友達の弟がその夢を信じて、あきらめずに進んで、こうしてちゃんと夢を叶えた。そしてDが放送でかけたのが、浅野さん所属するWITスタジオがMVを手掛けたこの曲。
〈君に世界は青く見えたかい/君に世界は赤く見えたかい/君の世界に色はあったかい〉……身内ながら泣けますよ。では最後に浅野さんから未来のクリエイターにメッセージを!
僕の会社にも地方から上京してがんばってる人がいます。これからコロナがどうなるかわかりませんが、いま会社はリモート推奨なので広島に住んでる方でも採用されれば自宅で作業できる環境が整えられます。なので広島に住みながらアニメーターでやっていく道もありますので、アニメーターになりたい人はWITスタジオのことも意識してもらえればと思います!(笑)
2020.11.25 on-line