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#42 映画監督・須藤蓮「『逆光』の熱い夏」(2021.7.9&16)

この夏、広島と尾道はいつもの年よりアツかった。

尾道を舞台にした映画『逆光』が全国に先駆け先行上映されたのだ。監督・主演を務めたのは須藤蓮。NHK朝ドラや大河にも出演した「おい、ハンサム!!」な24歳(放送当時)である。

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あら、ハンサム。それにしても、なぜに尾道で映画を?

僕が以前出演した『ワンダーウォール』映画版の封切りが「シネマ尾道」さんがやってる尾道映画祭だったんです。僕はもともと尾道という場所に興味があって、「どんなところなんだろう?」って気になってて。僕は東京生まれで東京育ちなので、尾道の昭和の原風景に触れたことがなくて。で、映画祭で初めて尾道に来たけど、すごく楽しかったんです。人があったかいのが印象的で、居心地いいなぁって思って

実はこの『逆光』という作品を語る前には、『ワンダーウォール』という作品について語らなければならない。2018年にNHKでドラマとして放送され、2020年に劇場版公開。

この作品の脚本を書いたのが日本を代表する脚本家のひとりである渡辺あや。須藤はそこに役者として参加した。そして彼は渡辺という存在に人生がひっくり返るほどの衝撃を受ける。彼女に心酔したのだ。

ただ、撮影が終わって、このままほっておいたら、渡辺あやさんという脚本家が書いた作品には自分はもう出られないって思ったんです。渡辺あやさんは同じ役者を何度も使う人ではないので、『ワンダーウォール』が最初で最後になりそうだ、と。「あれ? 俺、役者になって一番最初にめちゃめちゃ美味しい汁を吸っちゃった? この先、もうないの?」って。
でもそこで思ったんです。あやさんに脚本を書いてもらって、それを自分で監督すれば出られるんじゃないかって。それでお願いしてみたけど、最初は門前払いされて。それから2ヶ月後くらいに、突然渡辺さんから「尾道で撮ったらどう?」って連絡が来たんです。僕は全然ビジョンがなかったけど「いいっすねぇ! それやりましょう!」って乗っかった感じです

実はこの『ワンダーウォール』という作品のタイミングで渡辺さんには当会議にも出てもらっている。そのときの議事録がコチラ。私も私で盛り上がっているが、まあ、それくらいの御方である。

では、そこからいかにして若造が巨匠・渡辺あやを口説いたのか?

最初はノープランですよ。「1970年代の尾道が舞台で――」って言われたけど、時代モノを撮れる自信なんて全然なくて。「尾道でこういう画が撮りたい」っていうビジョンもなかったけど、このチャンスは絶対逃しちゃいけないと思ったから、とにかく「いけると思います!」って答えました

ノープランでも堂々と「いけると思う」。がんばれ若造。その調子だ!

渡辺あやに脚本を書かせたら勝ちだと思ってたけど、途中で「やーめた」って言われるのが一番不安で。だからすぐ「尾道でシナハン(=シナリオハンティング)しましょう」って行って、あやさんも尾道に呼んであやさんが脚本を書かざるを得ない状況を作ったんです(笑)。あとは、とにかくボールを投げまくりました。「ここでこういうシーンあったらよくないですか?」とか「俺、あやさんの脚本のこういうもの読みたいです」とか、100球くらい投げて3球くらい届けばいいや、って。で、3日間のシナハンがあって、その4日後に脚本があがってきたんです。だから脚本は1週間で完成したんです

涙ぐましい努力と意外と姑息な戦略で見事、巨匠から脚本をゲットした須藤蓮。もうこの段階で成功したも同然でしょ!

ただ、できあがった脚本は物語の起伏も少なく、解釈も多様な難しい内容で。「俺がこれを撮るのか……」と思うと胃がちぎれそうでしたね。舞台が70年代で、ネットで調べても情報全然出てこないし。
苦労したのは渡辺さんが書いた脚本を自分事にすること。映画自体撮ったことないし、これをどう自分の作品にするのか、、、。ただ、1週間くらいひたすら脚本を読んで夜中歩き回ってたら、突然「これまで自分が考えていたことを、この脚本を使って表現すればいいんじゃないか?」って思えたんです。脚本をどう撮るかより、自分が撮りたいものを撮ろうって思ったら、なんだか撮れる気がしてきて。そしたら「脚本には書かれてないけど、こういうことをしてみたい」ってアイデアが浮かんできて。それを渡辺さんに投げたら「面白いじゃん」って言ってくれて。それで「これでいいんだ!」って、、、あれはまじホッとしましたね

敬愛する作家に脚本を書いてもらったはいいが、よくよく考えたらそれを自分が監督しなければならないというプレッシャー、ていうか監督なんかしたことないし……いやぁ、若いって素晴らしい。ひとまずここでヘンなポーズの小休止。ニンッ!

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さて、いよいよ映画撮影。制作資金として須藤と渡辺はお互い持続化給付金を出し合った。つまり『逆光』は自主映画である。

それにしても初監督ということで、現場で迷いはなかったのだろうか?

撮影現場で迷うことはなかったですね。っていうのも、現場に入る前にスタッフひとりひとりと超話し込んでるんです。美術1点1点まで一緒に選んだし、衣装も高円寺の古着屋まで行って一緒に選んだし、カメラワークも照明も全部のスタッフと事前にかなり話しました。自分の現場に自分の知らない情報があるのが許せなかったので

現場では役者としての経験も反映された。

自分を信頼してもらえない恐怖もあるけど、自分がスタッフを信頼できなくなる恐怖もすごくあるんです。役者やってて、自分が「このスタッフ信頼できないな」って思った瞬間、そこから自分の表現が崩壊していったりするんです。「この映画、面白くならないだろうな……」って一人でも思ったら現場が崩れていく。その状態が切ないんです
主演で監督って実はめちゃくちゃ恥ずくて。それって超面白くないとダサいじゃないですか? 「4番でエース」を自分で名乗ってるわけですから。でもだからこそ他の役者が輝いてないと絶対成立しないというか。ものづくりとして「この作品を面白くしたい」ってことに情熱が燃えていると自分の自意識とかどうでもよくなるので、そこまで持っていきましたね

ちなみに『逆光』は作品自体も興味深いが、配給手法も興味深い。自分たちで撮った映画を、自分たちの言葉で宣伝し、自分たちの手で配給・上映する。そこに至ったいきさつについて須藤はこう答える。

これも渡辺あやさんの影響ですけど、クリエイションっていろんなところでねじ曲がるじゃないですか。「そういうねじ曲がりが一切ない作品をひとつでもいいから観てみたい」という理想で最初は走ってたんです。それで創作は走りきれたのに、配給になった瞬間、急にウソが混じってくるのがどうしてもイヤで。「この映画が孕んでる純粋さを配給でもやりたいな」と思って映画を届けることも大事にしたいと思ったんです

ここで言う「純粋な配給」の顛末に関しては、こっちを読んでもらいたい。実はこの映画『逆光』の広島上映にあたって、私は配給ドキュメントで追いかけた。2021年の広島の熱い夏。めちゃくちゃ読み応えあるぞ~。

ちなみに、この項で何度もお名前が出てきた渡辺あやさん、ラジオの収録にも保護者として同席してくださいました。先生もカメラを向けると、こんなにオチャメ! この麗しき師&弟の年の差タッグ、今後も「ブンクリ」は追い続けます。

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2021.6.14@HFM





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