見出し画像

【ココロコラム】暑いとイライラしやすくなるのは心理学的にも本当?

夏は開放感にあふれる季節ともいえますが、同時に、蒸し暑さからイライラしやすくなる季節とも言えます。暑いとイライラするのは、実感としても理解できますし、心理学的に見てもその通りなのです。【高温仮説】という理論があり、さまざまな調査の結果、人は気温が高い時期に攻撃的になりやすいことがわかっています。

なぜそうなるか、決定的な解答は出ていません。暑さが不快な感情を引き起こし、不快な感情のやり場として、攻撃的になるという理論が有力です。学生に夏休みが設定されているのも、不快な感情を持ったまま勉学にいそしんでも効率が悪いからです。社会人はそうは言っていられませんが、残業を減らしてみるなどの心がけはあっていいと思います。

高温という攻撃的になりやすい環境では、当然仕事の能率も落ちてしまいます。もちろん、夏休みに旅行にいくなどして、物理的に心理状態にリセットをかけるのもよい方法でしょう。しかし、それでも夏はイライラしやすいもの。イライラしているときのメカニズムを少し知っておき、無駄にイライラしたり、怒りっぽくなることを減らしたいものです。

イライラしているときには、いくつか共通した考え方があります。まず、自己中心的になります。自分さえ満たされればいい。他人の都合を考えない。その結果、「とにかく、理屈抜きであれはイヤだ」とか「これは絶対にほしい」など、極端な考え方になりやすいのが特徴と言えます。

自己中心的なので、自分は悪くない、相手が自分の思うように動いてくれないほうが悪いというような思考にもなります。ところが、世の中そうそう自分の思うように動いてくれません。すると、欲求不満ばかりがたまり、ますますイライラ感を加速させてしまいます。

次に目立つのが、都合の悪いことは人のせいにする思考です。「出世しないのは上司の見る目がないからだ」とか「精神が不安定なのは、親の育て方が悪いからだ」というたぐいです。犯人探しです。こういう考え方は、時々するぶんには差し支えありませんが、常時思っていると、精神状態をいちじるしく悪くします。犯人がわかったところで、処罰するわけにもいかないし、自分の問題が解決するものでもありません。

また、イライラ感は他人に伝染します。ついイライラして他人に冷たい態度を取ってしまう。すると、されたほうの人もイライラしてしまい、また別の人に当たってしまう・・。という連鎖が生まれがちです。

一つ知っておいてほしいことは、イライラしているときに、何か重大な物事を考えても、まずロクな結論にならないということです。イライラ感が伝染して、ケンカもおきやすいですし、極端な結論になりがちです。イライラしていると、本来理性的に充分な決断をして考えるべきことでも、「もうこれでいいや」とばかりに、投げやりな答えが出やすいのです。

夏はどうしてもイライラしやすい。職場のちょっとしたトラブルが必要以上に気に障(さわ)ったり、恋人の何気ない一言がふだんよりずっと心を傷つけることも少なくありません。しかし、それは気候という生理的な原因がそう感じさせている側面もかなりあるということは知っておいて損はないでしょう。

夏は暑さのせいで、実際よりものごとを不愉快に捉えがちということを知っていれば、「もうこんな会社辞めてやる」とか「別れよう」というような、イライラ感に引き込まれた極端な結論を出さずに済みます。逆に言えば、離婚や転職など、自分にとってマイナスを生みやすい重大な判断は、夏の暑いさなかには、ひとまず保留にして、秋を待つほうが、後悔が少なくて済むように思えます。

(精神科医・西村鋭介)

お読みになって面白いと思ったり、参考になったら下記からサポートをお願いいたします。 サポートでご支援いただいた収益につきましては、今後の記事の執筆料や運営費に充当させていただきます。