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父、脱出す。【ゴミ屋敷からのSOS】#2 

ほんの1カ月会わない間に、父は亡霊のようになってしまっていた。タクシーが辿り着いたのは、自宅から徒歩5分の病院。いつもならわけない散歩道が、今日は遠かった。

消化器内科での診断は、紹介状を書くからすぐに大きい病院に行ってくれ、ということだった。親切な看護師さんが手配してくれたタクシーに乗り込んで、わけもわからないまま大きい病院に向かった。当分帰って来れないであろうゴミ屋敷を眺めながら。

大きな大きな病院に辿り着いたわたしたちを待ち受けていたのは、ポッケに手を突っ込んだ若造とトッポジージョに出てくるような小柄の医者だった。代わるがわるに父のベッドを覗きに来ては、「糖尿かな」「ガンかもしれないね」なんて軽々に言いやがる。(ちっとは気を使え!)

そして一日がかりで検査したあと、即入院が決まった。その時点での診断は腹水と肝硬変。外から聞こえる救急車のサイレンが耳にこびりついて離れない。入院が決まった父は心細そうだったが、致し方あるまい。コロナ禍で付き添いもできないし、ひとまず入院用の荷物を取りに行くことにした。あのゴミ屋敷へ。



古い団地の扉は重たい。いや、わたしの気持ちが重いのか。扉の奥に広がっている惨状を見て、そんなことを考えていた。いつもなら夫に相談するが、こんな部屋の状態を見せられるわけがない。

「ひとりでやるしか…」
殺人犯って、こういう気持ちなのかもしれない。

ひとまず入院用の荷物を病院に届けて、翌日からひとり、ゴミ屋敷を片付けることにした。


後日、若造から下された診断は「胃がん、余命3カ月」であった。ポッケに手を突っ込んだ若造の姿がフラッシュバックする。すごく悔しかった。


つづく。



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