![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/72387964/rectangle_large_type_2_74cc66b9ce7320f221fbb2eca1f012c8.png?width=1200)
SHYASOU
生きることに疲れた僕は
『一度』死んでしまった。
亡霊の僕は生前の記憶を辿るようにあの景色を見に行くことにした
当たり前のことだが亡霊も電車に乗るのだ
車窓から流れゆく家々やどこまでも続く蒼や碧は生きていた頃より美しく写り魂が震えた
生前の僕は、世間の目ばかりを気にして着飾ってみたり高級な料理の写真をSNS投稿したりとにかく良い大人を演じるのに必死だった。
美味しい料理を食べても美しい景色を見ても、写真を撮れば満足してすべて忘れてしまうのだそして五感は鈍くなり、とうとう錆び付いてしまった。
ただ、ひとつだけ
忘れられない景色があった
夕暮れ時、電車がトンネルに入り自分の正面に浮かび上がるもう1人の自分。
その顔は生きているのか死んでいるのか分からない真っ白な顔で目も虚、とても生命力なんて感じられない。
「これが僕なのか…」
手に持っていたケータイすら支える力が抜けてしまい腕を下げ電車に揺られる。
まるで、でんでん太鼓だ
その時、電車がトンネルを抜けた
眩い生命の光が差し込み、僕は細目でその景色をみた
辺り一面が橙色に染まり、まるでダイヤモンドのような光の乱反射、そして果てしなく広がる景色。
僕は息を呑んで五感の全てでそれを感じた。
時間にして、およそ5分程度だっただろうか、
その景色が魂に焼き付いて今でも忘れられないのだ。
最後にもう一度だけあの景色をみたい
その一心でここまで来たのだ。
そして、いよいよ見覚えのあるあのトンネルが見えて来た。
電車がトンネルへ差し掛かる時
ふと、気づいたのだった
息苦しい。
僕は息をしていたのだ…
そして暗闇に包まれた時、目の前には大きなスクリーンが現れ今までの記憶がまるで回想シーンのように映し出された
暮らしや見栄え、決めつけられた価値観。
他人の評価に怯え必死だった
自分が誰なのか分からなかった
生きている意味を感じれなかった。
そして電車がトンネルを抜けたその瞬間
全ての感情を吹き飛ばす生命の力がそこにはあった
涙が溢れ出てきた。
そうか、
『僕はまだ生きていたんだ』