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【読書記録】『世界史のリテラシー「ロシア」は、いかにして生まれたか タタールのくびき』を読んだ話

『世界史のリテラシー「ロシア」は、いかにして生まれたか タタールのくびき』を読んだ話をします。

割と薄い本なので、軽く読めるのかな……と、ちょっとなめてました。
人物名や地名が結構ややこしくて、なかなか理解するのにてこずりました(というか、ちゃんと理解できてるか怪しい……)。

チンギス・ハーンの孫のバトゥが、今のロシア、ウクライナ、ベラルーシなどに攻めていって、モンゴル帝国の一部としてのジョチ・ウルスを建国した。
そして、タタールのくびきと言われる間接統治を、かの地に住む人々に対してやった。
その支配に反発する公国と従順に従う公国とがあり、諸公国同士の諍いもあった。

というような状態から、いかにしてくびきを脱し、ロシアを名のるようにあなっていったか、その過程を説明して下さっているのが、この本となります。
取り上げられているのは、だいたいイヴァン3世までですね。(イヴァン3世は高校世界史でもやったので、名前だけは憶えてる)

しかし、冒頭でもちょっと愚痴りましたが、結構ややこしい!
出てくる君主名が似たり寄ったりだったり、全部の時代を網羅する地図がないので、公国名を言われてもそれがどこにあるのかわからない。
歴史の本って、家系図と地図は全時代分必須だと思うんですよ~。まあ、ググれよと言うことなのかもしれないけれど。その分、本代上がるよ? はいそうですね。

それで、いつごろタタールのくびきから脱したのかというのも、研究者によって曖昧だったり……というあたりが驚きでした。
もちろん、この本では著者の宮野裕さんが、論理的な結論を出して下さってますが、この合戦の勝利で独立に沸いた! みたいなのがないっぽいんですね。
なんとなくゆるゆると脱しつつ(税金滞納しつつ)、タタール軍を撃破しつつ、それでもタタールの顔色を窺いつつ、そろそろと力を蓄えて、対等な国家の雰囲気を出していった……みたいな感じ?

これ、関ケ原とか大坂夏の陣とか、戊辰戦争や江戸城無血開城で、社会や支配者がきっちり変わるのが当たり前だと思っている我々には、なんか煮え切らない感じがするんじゃないでしょうか。
いや、日本史に限らず、世界史でも「○○の戦い」で決着がつく……というような例が、たくさんありますよね。
なんでロシア(というかモスクワ公国)は、おそろおそろなの? おそロシア。

いや、まあ、目の前のタタール軍を倒したって、本国の大軍を呼び寄せたら元も子もない、と考えたのかもしれないけれど、モンゴル帝国そのものが既に解体してるって、知らなかったわけじゃないだろうし。
ただ、調子に乗るのは禁物、と思っていたのかもしれない。

で、くびきを脱して国家をつくっていくんですけど、体制が即中央集権化なんですね。身内の分領を認めず、弟も臣下として扱う。だから君主の権力がどんどん強まっていく。
強い権力で周辺諸公国を併呑し、ますます権力を強める。
旧貴族・諸公たちも、寒冷地の農業経営では富を蓄えることもかなわず、困窮・零落する者続出。団結して君主に対抗する発想が生じにくかった模様。

ああ、なんか、ロシアの権力神話ってこの辺? とも思ってしまいます。
まあ、強大な国家であることに対するこだわりは、反タタール(モンゴル帝国に支配された屈辱)でしょうけど。
国家の黎明期に、他国の軍事力に屈して支配を受けたというのは、そりゃアイデンティティ傷つくでしょう。それでも他国を侵略しない元被侵略国が大半なんですけど。

それで、問題の「全ルーシの支配権」をロシアがどの文脈で主張するようになったかなんですが、この本によると、キリスト教正教会の体面的な話が発端? そこを、モスクワの君主がうまいこと利用しただけの話?
そもそもキエフにいた府主教が、戦乱からウラジーミル、モスクワに避難して、そのあとウクライナの地をリトアニアが占領したことでリトアニア府主教ができて、まあすぐ廃止されたらしいんですけど、「キエフもうちの管轄区域だから」とモスクワの府主教が主張したとかなんとか?
それにモスクワの君主も、乗っかったと?

ロシア史を高校世界史レベルでもかじると、キエフはすぐに歴史の舞台から消えて、政権の中心がモスクワに移っていったことがわかります。
キエフという街のこと、ずっと全然眼中になかったでしょ⁉ と、ツッコミたくなります。
権力の中枢はウラジーミルやモスクワで、遠いキエフまで視野に入れる余力なんてなかったろうし、軍事力的にも。タタールやリトアニアに占領されたときも、黙って見てたしね。

どうも、ルーシがロシアを名のるようになるのも、キエフの支配権を主張しだすのも、文献にきっちり残っているわけではなく、なし崩し的にずるずるという感じがしました。
まあ、日本が「日本」と名乗りだすのも、天武天皇の木簡が出土したからその辺、ぐらいの感じですもんね。
「世界史」に対する意識が確立する前なんて、そんなものかもしれないし、こと領土問題に至っては、そういうのがあるあるなんでしょうな。北方領土も含めて。

ということで、教科書的に歴史物語を教えてくれる部分もありますが、タイトルにもなってるテーマや、今、世界が考えるべきことについて、研究者としての意見を提示してくれている本でもあります、この本は。
ロシアは隣国なので、まあ「知らん」というわけにはいかんやろと思い、手に取りましたが(モンゴル帝国史も好きなので、東アジア人の責任も気になったし)、ちょっと一筋縄ではいかんし、対抗するには農業力・産業力の向上かな。(結局そこか~い)

ごつい歴史書には手が出なくても、ワンテーマの薄い本なら手が出やすい。
こういうところから、いろいろ知見を深めていくのもありですね。

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