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【読書記録】『ファシズムの教室』を読んで考えたこと

田野大輔さんの『ファシズムの教室』を読みました。

この先生が書かれた本は以前も読んでいるので、ある程度の内容と方向性は予測して読み始めたんですがね。
ファシズムについて、わかったつもりでいて、あんまりわかってなかったんだなあ……と突きつけてくれる本でした。

著者の田野先生は甲南大学の先生で、専攻は社会歴史学。
社会意識論の授業の一環で、学生さんたちにファシズムを体験してもらい、ファシズムがいかに身近なもので、ダメとわかっていても気づかぬ間に流されてしまうことを自覚し、踏みとどまるためにどうすればいいのかを考えてもらう、その記録をまとめられたのが、この本です。

独裁に必要なもの

独裁に必要なものは、以下の通り。
・指導者(中心人物)
・規律、団結→共同体の力
(それらを可視化し永続化させるための道具)

そんなのわかってるじゃん! なんですけど。
あらためて提示されると、統一された制服やら持ち物やらが、いかにファシズムに近いかがわかります。
でも、制服ってラクなんですよね、考えなくていいし。便利。
便利だけど、「指定だから従う」と考えるのをやめることは、危険。

ルールは必要だし、みんなで団結して何かを成し遂げるって、すごく高揚感あふれて気持ち良かったりするんだけど(例えば学園祭で盛り上がったときとか)、そういう学校で良しとされていることも、一歩踏み外したらファシズムにいくのか。そんなに身近なのか。
でも無法地帯でバラバラに生きてたら、人間なんて死滅するじゃん、野生では弱い生き物なんだからさ。

ファシズム=ナチス=虐殺……みたいに考えていたので、外国人の命も障害者、高齢者、LGBTの方々、社会主義者や共産主義者の命も全部大事! と考えていれば何とかなる……なんてのは、甘かったわけですね。

みんなで団結して目標に向かうことの怖さ……かよ。
責任に無自覚になっているんじゃないか、という危機意識アラームが、必要ということですかね。

ナチスを応援してたかもしれない怖さ

戦後社会に生きてると、ナチスを応援するなんて絶対ありえないじゃんって思うんですけど。

「階級のない、公正な社会を目指す」とか。
「労働者(庶民)も、旅行に行ったり趣味を楽しんだりできる社会にする」とか。
そういう「庶民の生活を良くします」的政策を打ち出す政党は、当然支持するよね。
既存の政党じゃらちが明かない、若い政党でもやる気にあふれてるところを応援しよう! って、なるよね。

90年前に大人でドイツ人だったら、私もナチ党に投票してたかもしれない。
これは、無茶苦茶怖い。

ナチスは政権取ったあとに、反対派や障害者ら社会的弱者を粛清するようになりましたが、暴力で国民に支持を強要したわけじゃないんですよね。
国民を、マジョリティのドイツ人とそれ以外のマイノリティに分断して、マジョリティの支持を得つつ、党にとって不都合な人たちを排除していった。

日本も外資系企業がどんどん増えて、外国人資本家に富が吸いあげられているんじゃないかとなったとき、感情的にならずにいられるだろうか。
今でさえ、社会の分断が進んでいるのに。

歴史は簡単に繰り返しそうになる。
この本を読んで、その怖さがぐっと近づいた気がします。

「責任からの解放」なんてない

本書内での「ファシズムの体験教室」では、指導者の指示に従い、皆で同じ行動(リア充カップル糾弾)をすることで、罪悪感の消失が示されています。
集団に囲まれで糾弾されるカップルがかわいそう、ではなく、団結してことを成し遂げた達成感・高揚感が残り、指示されたことを皆でやったから自分ひとりの責任じゃないという「責任からの解放」感があり、清々しい。

これらは、実際に体験教室に参加してみないとわからない、と思う向きもありますけど。
でも「上司の指示だから仕方ない」として、下請け企業に圧力かけたり、最終的に顧客の不利益になることを見過ごしたり、そういうことをやっても「自分は悪くない」と逃げちゃうことって、そこかしこに溢れてたりしません?

それはファシズムとは違う?
でも責任逃れに無自覚なままだと、団結による高揚感にぴゃっと飛びつきそうだし、無自覚なまま、何か(例えば社内いじめとか)をやらかしても、そのあと反省しなさそう(責任から解放されてるから)だし。
ユダヤ人虐殺も、文化大革命も、この延長線上にあるのでは?

自己責任論者の言う「自己責任」とは、意味が違うと思うんですけど、自分の立場や言動に対する責任から解放されることって、まあないと思うんですよね。
問われる問われないじゃなくて。
罪に当たるとか違法とかじゃなくて、人としての心構えとして。

と考えたら、あの戦争に対する振り返りも、全部一直線につながる気がします。
この本ではそこまで言及されていませんし、戦前の日本なんて「指導者の透明化した帝国主義」だったので、ファシズムとしてはさらにぐでんぐでんだったのかもしれない。
ならばなおさら、責任って何なのか、意識し続けないとまずいよなあ。

おわりに

「ファシズムの体験教室」には賛否両論あったようですけど、寝た子を起こすなというより、これを読んで自分の経験(運動会とか)を振り返ったら、「社会はファシズムの種に溢れすぎている」と自覚せざるを得ないので。

この本は、読んでよかったです。
敵を知り己を知らば百戦危うからず、じゃないですけど、ファシズムってなんなのか、その感覚を知ることが大事。

多くの方に読んで欲しいなと思います。

ちなみに過去に読んだ田野先生の本の記事はこちら⤵


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