
【読書記録】『ようこそ、ヒュナム洞書店へ』を誤読した話
ファン・ボルムさんの『ようこそ、ヒュナム洞書店へ』(牧野美加さん翻訳)を読みました。
この本は、2024年の本屋大賞翻訳部門1位なんですね。
なるほど。まさしく本屋さんが推したい本なわけだ。
仕事をやめた30代の女性店主ヨンジュが、独立系と思しき本屋を始めて、バリスタのミンジュンを雇い、店が地域に根付くようにあれこれ行動する話。
と書くと、お仕事小説のような気がしますが。(諸説あります)
ヒュナム洞書店に集う人々の人間模様を描いた本、ということでしょうか。(でもそう言い表してしまうことも、ちょっと違う気がするんですよね)
最初のうちは、なんだかちょっと物語がかたくて、あれ? とっつきにくい? と思わせてしまう。
でもそれって、主人公ヨンジュの心理を表しているというか。
なので、だんだん物語が読者に心を許してきて、バリスタの青年ミンジュンが就活に失敗した過去の話が出てくるころから、ぐっと距離が縮まってくるし、面白さが増してくるんですよね。
変な人? 要注意人物? と、最初感じた各々登場人物たちが、悩みや考えていることを喋りだし、ヒュナム洞書店の仲間になっていく。
私は韓国文学も韓国ドラマもこれまでご縁がなかったので、これが初韓国文学なんですが、日本との文化の違い(年上の人の呼び方とか)や、逆に就活や職場環境で共通する部分(非正規雇用の使い捨てとか)を知り、なるほどこれは相手を知ることで分かり合えるんじゃないかと思いました。
正直、日本ほど労働者を大切にしない国はないだろうと思ってたんですね。バブルの貯金に胡坐をかいてるだけの先進国意識が、のさばってるわけですから。
でも、今の新自由主義な状態は世界的なもので、真面目な若者とか女性とかがあおりをくらってる。
世界共通の問題ならば、もっと分かり合えるんではなかろうか。
話がずれました。
以下、ネタバレになるかもしれませんので、ご注意ください。
物語の前半で、作者が「良い本とは何か」と問いかけ、「人生について語っている本だ」と仮の答えを出している部分があります。
この命題を、長い本文の中で具現化し、回収しています。
ミンジュンは「いい人が周りにたくさんいる人生が、成功した人生だ」と言う。
ヨンジュもあらためて良い本とは「人生について書いた本」としつつ、「作家の深い理解が読者の心を揺さぶるなら、そしてその揺さぶりが、読者が人生を理解するのに役立つなら、それが良い本ではないだろうか」と落ち着く。
我々は、小説にメンターを求めているんでしょうか?
生きづらい世の中だから、より人生訓が必要、ということ?
それとも、真面目に人生について考え、答えを探す人が増えてるということなんですかね?
ヒュナム洞書店については、個人的には一度行ってみたい本屋さんだと思うんですけど。
ベストセラーを置かない経営方針で、複数の社員を雇うことが可能なの? 常連がカフェ席に居座る状況で、新規顧客をどこまで取り込み続けられる?
イベント開催を中心に集客してたけど、コロナ禍は乗り切れた?(もう現存してる認識じゃん)
などなど、心配が先に立つのでした。
この本の世界は、夢だと思うんです。
こんな優しい空間があったらいいな、それはそう!
人生に迷ったときに、寄り添って、そっと背中を押してくれる。
そういう夢を描いた本。
なんて読み方をすると、ちょっと違わんか? とも思うんですよ。
小説を自己啓発書っぽく読むって、小説に対する冒瀆じゃない? とも。
う~ん。
小説とは何かと問い始めると、「人生を描いたもの」だと私も思うので、読者の心を揺さぶるような人生を描いた小説であれば、それは良い小説と言えると思うし、その揺さぶりが読者の人生にプラスに働くなら、結果として良かったね、だと思います。
この本の登場人物たちが、地位や名声より、人間関係ややりがいを優先した人生を選んでいるところにも、コミュニティとしての希望が伺えてほっとするし。
いい会社に入って、がんがん働いて、収入をどんどん上げて、それでも心が折れてしまったら、いい人生とは言えない。そのためだけの頑張りほど、虚しいものはない。
良い本とは何か。
人生の成功とは何か。
新自由主義社会が求める「金銭を生む価値」とか「資産形成」とかではない、人間らしい生き方とは何か、そういったものを丁寧に描かれているのだと思いました。
小説って、本当に面白いですね。
ここ数年、小説をそんなに読んでいなかったんですが、読めば読むほどいろんなことが知れて、世界が広がります。
もっともっと読んでみたい。
てか、最近、記事の終わり方がこんなんばっかりで、さすがに「どうよお前」ですな。
本当に、記事の終わり方って一番難しい!
以上!!
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