[本のおはなしvol.5 ] ここは
ミモザが咲いて、沈丁花が咲いて、こぶしと木蓮が咲いて、とうとう桜の花が開きました。春です。木々のかわいい新芽もぐんぐんと成長しています。
本のおはなしは5回目。木曜お昼の30分が、私たち二人の一週間にすっかり定着してきました。おはなしが春を迎える準備運動になっていたようで、この春は良いスタートを切れそうな。
さて、そんな5回目に選んだ一冊は『ここは』(文 最果タヒ 絵 及川賢治)
昨年発行されたこの絵本、『最果タヒ×及川賢治=ほんわかオシャレ絵本』なんてなめてかかったらいけません。グッと、ジワッと、ボコボコにされます!
1歳9ヶ月になる息子も(電車のおもちゃや街の風景など、絵の中に息子が好きな要素が多いのもありますが)この絵本が大好き。膝にのって、じっと見ています。そして途中離脱することがほとんどない。読み手になる私も穏やかな気持ちになるから?伝わっているのかな?不思議です。とにかく読み聞かせが優しい幸せな時間になる絵本です。
表紙の「ぼくとお母さん」は動かないまま、縦横無尽に視点が飛んでいきます。あちこちに大小様々な人や物がいて、動いて、何かが起こっている。絵の中に出てくる風船やロケット、天気の変化によって空間移動だけでなく時間経過も示しています。そして最後は「ぼくのまんなか」。世界はどれだけ広くてどれだけ狭くて、ぼくもあなたもここにいる、それだけでいい。もうこれは赤ちゃんから大人まで楽しめる絵本であり詩集であり哲学書、でもあります。
そんな話から、視点移動の話に。
『ここは』での視点は縦横無尽に動きますが、同じ場所から動かないままどんどんとズームアウト・ズームインするものとして、イームズの映像作品「パワーズ・オブ・テン」の話に。YouTubeにオフィシャル映像が!あったので、下にリンクを置いておきます。(FLIPBOOKとDVDもあります。DVD持ってたはずなのに行方不明。誰かに貸したままかな…)
ズームアウトしていくと10億光年先へ、ズームインしていくと細胞の中へ。
もうひとつ視点が広がる絵本を。イシュトバン・バンニャイ作『ZOOM』(こちら絶版とお話ししてしまいましたが、Amazonにありました…!)
こちらはズームイン・ズームアウトの手法を使って描かれた、言葉のない絵本。今まで見ていた景色がどんどん小さくなって、最後は地球も点になってしまうダイナミックな絵本。
おはなしの後に思い出したjunaida作『の』もある意味で視点を広げているもの?
こちらはまた別の機会でも紹介したい美しい絵本。
そして、たまたま先週図書館でジャケ借りしてきた絵本の話に。
『あな』(作 谷川俊太郎 絵 和田誠)
この表紙の和田誠さんの絵(ボールかと思いきや「あな」なのです)に惹かれ、何気なく手にとったのですが、今回選んだ『ここは』と通じるところを感じて紹介しました。そう、これも絵本であり詩集であり哲学書。
始まりからして最高。
ー にちようびの あさ、なにも することがなかったので、ひろしは あなを ほりはじめた。ー
「谷川俊太郎×和田誠」が作り上げるこの世界観、良い意味で継承して超えていくのは「最果タヒ×及川賢治」なんじゃあないかなんてことまでもりあがってお話ししてましたが、『あな』『ここは』の絵本の持つ世界観はどこか近くて遠くて、どちらも優しい。物理的な居場所だとか意味だとか大人にも子どもにもいろいろあるけれど、「ここにいる」それだけでいい。一見無駄なことのようでも自分自身が満たされたらそれでいい。なんだかこの2冊、「ライナスの毛布」のように、ちょっと弱った時に安心するための大事な本になりそう
『あな』『ここは』は空の色と見返しの色もポイント。ぜひ実際に本を手に取ってみてください。
それでは、ここからは選曲・歌い手 扇谷一穂の「今日の子守唄」
『ここは』に「いま、ここ here and now」の精神を感じて、そんなスピリットの宿った歌はないかなあと考えていたところ、「here」で思い出した歌。
「Love is here to stay」
作曲:ジョージ・ガーシュイン/バーモン・デューク
作詞:アイラ・ガーシュイン
多くのポピュラー、クラシック、jazzの作品を世に送り出しアメリカ音楽を作り上げたと言われるガーシュイン兄弟による1938年の作品。
調べてみると、この曲は作曲したジョージ・ガーシュインの遺作となった曲。「たとえロッキー山脈やジブラルタル海峡が崩れ落ちても、私たちの愛はここにある」という歌詞には、兄のアイラ・ガーシュインの「いま、ここ」に居なくなってしまった亡き弟への大きな愛を感じます。
あらためて「いま、ここ」に大切な人がいてくれること、とても貴重で幸せなことですね。
「Love is here to stay」
作曲:ジョージ・ガーシュイン/バーモン・デューク
作詞:アイラ・ガーシュイン
It's very clear, our love is here to stay
Not for a year but ever and a day
The radio and the telephone
And the movies that we know
May just be passing fancies
And in time may go
But oh, my dear, our love is here to stay
Together we're going a long, long way
In time the Rockies may crumble,
Gibraltar may tumble
They're only made of clay
But our love is here to stay
私たちの愛がここに、ずっとあるってことは分かりきったこと。
一年とかじゃなくて、いつまでもずっと。
ラジオや電話、映画なんかはすぐ消えてなくなってしまうだろうけど。
でも、ねえ、私たちの愛はここにずっとある。
ずっとずっと私たちは一緒にいる。
そのうち、ロッキー山脈やジブラルタル海峡も崩れ去ってしまうかも。
粘土で出来てるし。
でも、私たちの愛はここにずっとある。
次回は扇谷一穂選書で『オーケストラの105人』 カーラ・カスキン 著
マーク・サイモント 絵
原題は 『The Philharmonic Gets Dressed』
(1985年にジー・シー・プレスより『オーケストラの105人』として出版されていましたが、2012年にすえもりブックスより『105人のすてきなしごと』として新訳により再出版された本です。)
それではまた、木曜お昼にお会いしましょう。
↑1985年すえもりブックス版
↑2012年あすなろ書房版