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【イベントレポ】「伝説の古生物学習まんが」を語りつくす!第1部

多くの古生物ファンを生んだ、伝説の学習まんがをご存知でしょうか?
1988年から1990年代にかけて刊行された、全10冊からなる「まんが 化石動物記」シリーズ(理論社)です。
小学生のヒロキと姉のユミ、そして彼らが慕う国立科学博物館の先生が「歴史探偵」に扮して化石の謎に迫る物語に、日本中の子供たちが熱狂しました。
そして30年以上の時を経て、このうちの3冊が「まんが 伝説の化石ハンター」シリーズとして復活! その最新刊である『まぼろしのくびながりゅう』の刊行を記念し、復刊の発起人であり監修も務めた国立科学博物館の木村由莉先生、作者であるまんが家の吉川豊先生、大の恐竜好きで同シリーズのファンである声優の新田恵海さんをお迎えして、オンライントークイベントが開催されました。

まんが制作陣とファンによる同窓会と化した5月19日のイベントの模様を、吉川豊先生をゲストに迎えた第1部、新田恵海さんをゲストに迎えた第2部に分けてお届けします。

イベント告知時の画像です


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〈第1部〉木村由莉先生が明かす復刊版の監修秘話 & 吉川豊先生に聞くまんが誕生秘話



ついに登場!ファン待望の2大珍獣回

ーー2022年夏に国立科学博物館の特別展「化石ハンター展」の開催に合わせて、まず1冊目の『きょうりゅうのたまごをさがせ』の改訂版が刊行されました。そして秋に『きょうりゅうなぞのはかば』、2023年2月に『まぼろしのくびながりゅう』の改訂版が刊行されて、ひとまず復刊のシリーズはこちらで出揃ったということですが、最新刊である『まぼろしのくびながりゅう』はどんな本ですか?

木村由莉(以降、木村):フタバスズキリュウの名で知られている首長竜フタバサウルスと、哺乳類の中でも「束柱類」と呼ばれる非常に珍しいグループのデスモスチルスという、日本が誇る2大古生物が登場する刊です。当時のシリーズのファンで、この刊が一番好きという方はおそらく多いんじゃないかなと思います。

ーーフタバスズキリュウはご存知の方も多いと思いますが、デスモスチルスについてもう少し詳しく伺ってもいいでしょうか。

木村:デスモスチルスは、柱を束ねたような独特の形の歯を持っていた「束柱類」と呼ばれるグループの哺乳類で、このグループは日本ではよく化石が見つかっているんですが、世界的に見たらすごく珍しい、グループの寿命としてもとても短い期間だけ生息した生き物です。日本以外ではアメリカから出ているだけで、まさに日本を代表する珍獣ですね。

ーー今回の復刊にあたって、フタバスズキリュウの発見者である鈴木直さんに改めてチェックをしてもらったと伺いました。

木村:そうですね。新たに「化石ハンターファイル」というコーナーを設けて、そこで鈴木直さんをご紹介しているのですが、そのページをチェックしてもらうと同時に、まんがの方の発掘のストーリーも見ていただいて、これで間違いないというお墨付きをいただいています。実は鈴木さんだけじゃなくて、国立科学博物館でお仕事をされていた長谷川善和先生もキーパーソンとして出てくるんですけど、今回、長谷川先生にも内容を見てもらいました。論文には書かれていない当時のエピソードが載っていて、しかもそれがビジュアルで見られるというのがこのまんがのすごいところですね。

ーーフタバサウルスとデスモスチルスの復元に関しても、現在のものに合わせて新たに描き下ろされたとか。

木村:まんがの中に登場する当時の復元はそのまま生かしているんですけど、コラムページを追加して今の復元を入れています。

ーー復刊とはいえ、とても丁寧に作り直しているんですね。


資料集めに奔走、寝ずにまんがを描いた日々

ーー「まんが 化石動物記」シリーズが刊行された1980年代後半から90年代は、木村先生は小学生でした。当時、このまんがをどのように楽しまれていましたか?

木村:学校の図書室に入っている数少ないまんがの一つだったんですよね。文字だらけの本があまり得意じゃなかったので、まんがで読めるじゃんと思って、何度も借りて。セリフもシーンもすごくよく覚えています。今でも大好きです。

ーーというわけで、ここで一人目のゲストをお呼びしたいと思います。このまんがの作者、まんが家の吉川豊先生です。よろしくお願いします。

吉川豊(以降、吉川):よろしくお願いします。

ーーイベント開催にあたって、先生方への質問や本の感想をたくさんいただいたのですが、なかでも登場人物であるヒロキやユミに感情移入しながら読んだという声がとても多かったです。登場人物がどのように生まれたのか教えていただけますでしょうか。

吉川:大した裏話でもないんですけど、自分の奥さんがユミっていうんですよ。で、奥さんの弟がヒロキっていうんです。名前をそのまま使わせてもらって。

ーーあ、そうなんですね!

吉川:あと登場人物ひとりひとりにキャラクターを持たせてエピソードを膨らませたのは、自分はこの分野に関して素人だったので、学習まんがを描くことにずっと後ろめたさがあったんですね。化石や古生物に関しては専門家じゃないので、とにかく資料を集めて描くけど、それ以上のことはできない。だからその分、物語をおもしろくして、読者に感情移入してもらえるように。それが自分の役割だと思っていました。

木村:普通の学習まんがって、先生がいて、教わる生徒役がいて、一方向にストーリーが展開されるんです。なんですけど、吉川まんがは、どのキャラクターもイキイキと動いて、感じて、その掛け合いがストーリーを動かしているので、読む側もその中に入り込めるんだと思うんですよ。秩父を通れば、秩父の化石採集のシーン(『まぼろしのくびながりゅう』)がよみがえるし。

ーーまるで自分が経験した思い出かのように。

木村:そう!

吉川:でも今回、監修に木村先生が入ってくださったことはとても大きかったです。監修がつく学習まんがはこれまでにも描いてきましたけど、構成まで指示されてがんじがらめになることが多いんですよ。物語で遊べないというか。でも木村先生はこのまんがのテイストを極力生かしながら直すところは直す指示をくださったので、そこは本当によかったです。

木村:あの、専門家じゃないからそれ以外のところに力を入れたってお話をされているんですけど、実際は内容もすごく正しくて、私は古生物学者になってそれを改めて知って、本当にびっくりしていたんです。論文には書かれていないようなエピソードもちゃんと描いていて、当時どうやってこの資料を集めたのかなって。

吉川:もう覚えてないですけど、不安だったのでとにかくたくさん調べました。実際に現地にも足を運びましたし。それだけですごい時間がかかって、まんがは寝ずに描いてましたね。

木村:5年くらい前に科博の図書室にあるアーカイブでフタバスズキリュウの産状化石の写真を見つけたんですね。それがこのまんがに描かれているものと全く一緒で、「わ、すごいな」って感動して。このシリーズを復刊させたいと思ったのは、子供の頃に読んでいて大好きだったからというのももちろんあるんですけど、古生物学者になって改めて読んだときにこういう驚きが本当にたくさんあったからなんです。今の時代の子供たちにも絶対読んでもらいたいって思いました。

吉川:いや…ありがとうございます。もったいないお言葉です。

(聞き手:星詩織 / 編集:藤本淳子)


第2部:人気声優・新田恵海さんが語る!伝説の古生物学習まんがの魅力>へ続く


⚫︎登壇者プロフィール⚫︎

木村由莉(きむら・ゆり)
長崎生まれ。神奈川育ち。国立科学博物館地学研究部研究主幹。早稲田大学教育学部卒業、米国サザンメソジスト大学地球科学科で博士号取得。陸棲哺乳類化石を専門とし、小さな哺乳類の進化史と古生態の研究を行う。趣味はロード・トリップで、国内の化石産地や遺跡を巡っている。

吉川豊(よしかわ・ゆたか)
神奈川県生まれ。中央大学卒業後、永井豪のダイナミックプロダクションに所属したのちに独立。まんがを担当した書籍に『まんが化石動物記 全10巻』『まんが世界ふしぎ物語 全10巻』など多数。著書に、自身で世界中の謎を調べてまんが化した『まんが新・世界ふしぎ物語 全4巻』『まんがふしぎ博物館 全7巻』(以上理論社)などがある。

新田恵海(にった・えみ)
声優・歌手。長野県出身。音楽大学声楽コース卒業、専攻科修了。2010年声優デビュー。
人気アニメ『ラブライブ!』の主人公・高坂穂乃果役で知られる人気声優でありながら、実は「恐竜検定3級」を保持するほどの恐竜好き!
2020まで放送された冠番組『新田恵海の恐竜DEEP』のほか、近年も『デイナの恐竜図鑑』(Eテレ)のサーラ役や、長崎市恐竜博物館の音声ガイドを務めるなど、幼少期から育んだ「恐竜愛」で、さらにその活躍の場を広げている。


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