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【イベントレポ】『ディノサン』×『ディノペディア』SPディノ愛トーク(後編)

クリスマスを数日後に控えた2023年12月22日、オンライントークイベント
《『ディノサン』5巻発売&『ディノペディア』重版記念トーク ホーリーディノナイト〜聖なる夜にディノ愛を語ろう〜》
が開催されました。
 
令和に生まれた“2大ディノ本”の著者陣、木下いたるさん×G.Masukawaさん×ツク之助さんによる一夜限りのスペシャルトークの模様を、前編と後編に分けてお届けします。

『ディノサン』×『ディノペディア』SPディノ愛トーク(前編)を読む

イベント告知時の画像です

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恐竜を描くとは? 恐竜絵師3人が語るディノ本制作現場と、それぞれが歩んだ絵への道




推しがなければ描けばいい

ーー『ディノペディア』著者のG.Masukawaさんも、実は恐竜の骨格図などを手掛けられているということで、本日はタイプの異なる恐竜絵師さんがそろっているわけですが、ここからは絵を描くお仕事についてお聞きしていきたいと思います。
まずはルーツからうかがいたいのですが、ツク之助さんは小さい頃から絵を描くのがお好きだったんですか?

ツク之助(以降、ツ):順番にお話しすると、まず、中学の時の美術の成績は5段階評価の2でした。高校の時は美術が選択科目だったので、取りませんでした。という感じで、絵は全然描いてこなかったですね。

ーーそうなんですか! いつ頃目覚めたのでしょうか。

:恐竜が好きで、恐竜時代から生きている(註:グループとしての歴史をもつ)古代魚を飼っていたんですけど、次にそこから上陸した爬虫類に興味が移るっていうのが、まあ一般的な流れでして、爬虫類を飼い始めたんですね。でも、こんなに可愛い生き物なのに、爬虫類のグッズってまったくないんですよ! 仕方なく自給自足を始めたところがスタートです。

ーー推しのグッズがないなら描こうということですね。そこからプロになるにはまた分岐点があったと思うのですが、どんなきっかけがあったのですか?

:SNSで皆さんに好んでいただきまして、そこからお仕事もいただくようになって、という、これが表向きのきっかけですね。裏向きのきっかけとしては正社員になれなかったので、絵描きでやっていくしかありませんでした(笑)。

木下いたる(以降、木):それはそれですごいですよ。

ーー恐竜の絵は、プロになってから描かれるように?

:ほぼほぼ同時期なんですが、サイエンスライターの土屋健さんの本で恐竜の絵を描かせていただいて、そこからですね。昔は恐竜博士になりたかったんですけど、こういう形で恐竜の仕事に携わることができて、今はただただ幸せです。

ーーいいお話ですね!

:大学に行って研究者とか、美大に行って絵描きとかではなく、こういった邪道な道からも古生物の世界に携わることはできる。私の周りにもいろんな経歴の方がいます。この世界の夢ですね。


この物語を形にしたかった

ーー木下さんは、ずっと漫画家を目指してこられたのでしょうか。

:僕はずっと映画を作りたくて、大学へは映画を勉強しに行っていたんですけど、休学した時にお金が欲しくてジャンプの手塚賞に応募してみようと思って。

ーーえ!? すごい!

:お金と、あと、鳥山明先生と岸本斉史先生のコメント欲しさに、そういう下心で漫画を描いて。お金はもらえなかったんですけど、そこから漫画っておもしろいなって思って、映画の勉強も続けながら、漫画も描いてました。で、大学を卒業する時に、漫画って映画と違って一人で描ける、よく言われるんですけど紙とペンさえあれば自分の好きな世界を描けるので、もうそれでやっていこうと。そこからバイトをしながら10年弱くらい、ネームを描き続けていました。なので、「漫画家になるぞ」というよりは、ずっと『ディノサン』の世界を描きたくて続けていたって感じですね。とにかくこれを形にしたかった。それが実現できるなら映画でもよかったんですけど。

ーー絵はどこかで勉強されたりしたんですか?

:そうですね……高校は美術の強いところに行ったんですけど、それでもあまり真面目には取り組んでなかったですね。

ーーそこからこんな緻密な絵を描かれるようになるなんて。

:前作で恐竜を描いた時は自分の好きなように描いてたんですけど、その後に山本聖士さんの恐竜復元教室に行ったり、ちゃんと勉強するようになって、今わかっていることだけでもちゃんと知って描くということのおもしろさを知ってからだんだん恐竜の絵が変わってきたって感じですね。今は(『ディノサン』監修者の)藤原先生の強力な助けも得て、日々精進しています。


自給自足の楽しみ

ーーMasukawaさんは恐竜の骨格図を主に描かれていて、図鑑や恐竜展などで見たことがあるという方も多いと思うんですけど、肉付きの恐竜ではなく骨格図を描こうと思われた理由を教えてもらえますか?

G.Masukawa(以降、M):私はもともと、絵というよりも模型を作りたい人で。荒木一成さんっていう、この界隈でめっちゃ有名な方がいるんですけど、荒木さんの本などを読むと、骨格図を芯にして模型を作ると具合がいいということが書いてあるんですね。で、骨格図だと海外に有名なアーティストがいたりするんですが、自分が作りたい恐竜の骨格図が、その中にないんです。そこでツク之助さんのお話にも通じるんですが、骨格図から自給自足するしかないぞということで、骨格図を描き始めたのが高校生ですね。そのうち、骨格図を描くだけで満足するようになって、そうこうするうちにお声をかけていただけるようになり、ご縁が繋がって、今という感じです。

ーー骨格図がないから作るのを諦めよう、とはならなかったんですね。

M:自給自足して作る楽しみがあったというか。コイツの模型を作るために、骨格図から描いてやるぜっていう。だからツク之助さんの自給自足の話も聞いていてよくわかるなと思いましたし、木下さんのおっしゃっていた「形にするためなら映画でもよかった」というお話もよくわかります。

ーー実はお三方とも、恐竜愛というものが最初にあって、絵はさほど……というところから、自分の推しや思い描く物語を表現する手段として、絵に行き着いて、今に繋がるんですね。 


赤ペンはMAX希望

ーーただ、いざお仕事となったら苦労されることもたくさんあるかと思います。例えば、恐竜や古生物の復元画などには監修が入ると聞きますが、『ディノペディア』ではどのような監修のやりとりがあったのでしょうか。著者であるMasukawaさんが絵の監修もされたとのことですが。

:ラフを描いて送ると、その上から赤ペンで「鼻筋をスッキリ」とか「目の位置はもう少し上」とか具体的な指示が入って戻ってくるって感じですね。

(画面共有で、実際の赤ペンの様子を表示)

M:監修する前のツク之助さんの絵が間違っているとかではなく、どちらかというと、その恐竜に対する私とツク之助さんの解釈違いを、私の好みの解釈に寄せてもらうというタイプの監修でした。

ーー『ディノペディア』は絵の点数もとても多いですが、そのすべてにこのような赤ペンが!?

:でも、私自身はどんどん監修してもらいたいんですね。こんなんじゃ生ぬるいんですよ。というのも、私はちゃんと勉強してきたわけではないので、こうして絵を描きながら間違ったところを直してもらえるというのはすごくありがたいんです。

ーー言葉だけの説明じゃなくて、実際に絵の上から赤ペンで描き足して修正指示を入れるんですね。

:実際に描いてもらえるとすごくわかりやすいですし、Masukawaさんの場合は自作の骨格図もつけてくれるのでありがたいです。でももっと真っ赤に直してもらっていいです。

M:私もツク之助さんの持ち味を殺すわけにはいかないので、結構悩みながら赤ペンを入れたりしたのですが、でもまあ、ちょっと赤ペン入れすぎたかなと思っても、修正されたものが届くとちゃんとツク之助さんの絵になっているし、あの悩んだ30分はなんだったんだ!ってなるんですけどね。

ーー『ディノサン』では名古屋大学博物館の藤原慎一先生が監修を務められていますが、藤原先生はどんな方ですか?

:本当に恐竜に真っ直ぐで、熱量が高いですね。でもあまりかしこまっていないというか、コラムを読んでもらえるとわかると思うんですけど、お茶目でイタズラ好きなところもあったり。そのバランスが接しやすいです。

ーー漫画ではどの段階で監修が入るんですか?

:『ディノサン』の場合は、まずプロットの段階でどういう恐竜が出てどういう動きで描くというのを確認していただいて、それを踏まえてネームを描いて、それに対してまたコメントをもらって、その後ペン入れ前のものに赤ペンを入れてもらう。その3段階です。

ーー月刊誌での連載だと、時間との戦いになりそうですね。

:そうですね。でも僕もツク之助さんと同じで、MAX赤ペン入れてくださいというタイプですね。それは1話の時から藤原先生にお伝えして、そしたら遠慮なく入れてくださったので、そのまま続いている感じです。

ーー監修にまつわる、印象に残っているエピソードはありますか?

:締切ギリギリのタイミングでディノランドのシステムに関するところに致命的な欠陥が見つかって、パニクりながら大幅に軌道修正をしたということがありました(笑)。藤原先生の指摘で気がついて。でも、あのタイミングでもスルーせずに指摘してもらったのはすごくありがたかったです。

ーー恐竜ならではの、描く難しさ、監修してもらう難しさもありますよね。

:恐竜って情報が限られているので、その中で実際の生き物としてどう描くか、どう物語にするか、リアルとフィクションのところで悩みながらというのが常なんですが、藤原先生はとりあえず全力でボールを投げるので取捨選択をしてくださいって言ってくださるし、僕も全力でボールを投げてくださいって言ってます。だから監修作業のやり方としては、ツク之助さんとMasukawa氏のやりとりとそんなに変わらないというか、同じだなと思いながら聞いてました。恐竜に挑む感じというか。

ーー恐竜に挑む……!

:時々、あーなんてめんどくさいんだ、恐竜は!って思いますけど(笑)、でもだからこそおもしろいなって思います。めんどくさくておもしろい。


(聞き手:星詩織 / 編集:藤本淳子)

 
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⚫︎登壇者プロフィール⚫︎

木下いたる(きのした・いたる)
『ギガントを撃て』(講談社)でデビュー。イチオシの恐竜はギガノトサウルス。

G. Masukawa(G・ますかわ)
サイエンスイラストレーター、ライター。
博物館やイベントの展示制作のほか、学術論文や専門書の図版を多く手がける。最近は流しの何でも屋。著書に『新・恐竜骨格図集』(イースト・プレス)、訳書に『アフターマン』、『新恐竜』(ともにGakken)。茨城大学大学院博士前期課程修了(地質学・古生物学)。イチオシの恐竜はトリケラトプスとドリプトサウルス。

ツク之助(つくのすけ)
いきものイラストレーター。 爬虫類や古生物を中心に生物全般の復元画や商品デザインを描く。 著書に絵本『とかげくんのしっぽ』、『 フトアゴちゃんのパーティー』(共にイースト・プレス)。イチオシ爬虫類はフトアゴヒゲトカゲ。


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