【姫路の白革小物】1000年の伝統を誇る工芸品、白い革に豊かな色彩(兵庫県姫路市)
軽くてしなやか、そして明るい。こんなポップな革製品が手元にあれば、いつでも晴れ晴れとした気分でいられそうだ。
姫路でなめされた白い革を使う製品「姫革細工」を手がけるキャッスルレザーの社長・水田久司さんは、
「伝統を守りつつ、さらに新しさも追求しています」
と話す。コロナ禍で売り上げが落ちた際には、あえて新しい柄を発表するなど、意欲的な挑戦を続けている。
型押しで模様をつけ、彩色をし、表面保護の加工をする。これが古くからつくられてきた革細工の手順だ。姫革細工は兵庫県指定の伝統的工芸品だが、現在製造しているのはここだけ。以前は漆で塗っていたところをカラフルな顔料に替えるなど、時代の流れにも柔軟だが、基本は変わらない。
姫路市の東を流れる市川のほとりでは、1000年以上も前から皮がなめされてきたという。川の水にさらし、塩と菜種油のみを使って人間の手足でもまれた革は、不思議なことに白くなった。そのなめらかな白さこそが、姫路の白革の最大の特徴だ。もちろんその強靭さも。
キャッスルレザーに白革を提供するタンナー*企業・坂谷の製品は、硬式野球のボールにも使われている。社長の入江幸男さんによると、
「もともとアメリカから入った野球ボールには、きめが細かく、しっとり指になじむ馬の革が使われていました。馬革の入手が困難な今の日本で唯一、その代わりとなったのが、姫路の技術でなめした牛革だったんです」
甲子園で高校球児たちが追いかけるあの白球を思い浮かべれば、それがどれほど白いか、そして強いかがわかるだろう。
芯まで白い姫路の革。その強靭さは、技術を受け継いできた先人たちの営みと、歴史の重さに等しい。手に取れば驚くほどの軽さも、伝統の深みあればこそだ。
文=瀬戸内みなみ 写真=須田卓馬
出典:ひととき2023年9月号
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