見出し画像

知恵と工夫で和紙の隆盛期を築いた土佐和紙(高知県吾川郡いの町)

日本全国の“地域の宝”を発掘する連載コーナー「地元にエール これ、いいね!」。地元の人々に長年愛されている食や、伝統的な技術を駆使して作られる美しい工芸品、現地に行かないと体験できないお祭など、心から「これ、いいね!」と思える魅力的なモノやコトを、それぞれの物語と共にご紹介します。(ひととき2024年4月号より)

高知県いのちょうで「土佐とさ七色紙なないろかみ」という名の美しい紙が生まれたのは戦国時代末期のこと。桃色、柿色、浅黄あさぎ色とさまざまに染め上げられた、しなやかで丈夫な紙だ。七色紙をきっかけに土佐では製紙が盛んになり、やがて一大産地となっていく。いの町が「土佐和紙発祥の地」と呼ばれる理由である。七色紙の製法は失われたが、「いの町紙の博物館」では現代の研究により復元、展示している。

尾﨑伸安さんのカラフルな紙皿は小物入れにぴったり。道の駅 土佐和紙工芸村で購入可 撮影協力=吉井源太翁生家
土佐和紙の歴史と文化を学べる「いの町紙の博物館」。実演コーナーでは手漉き職人・友草喜美枝さんの熟練の技も見学できる

「伝統を繋いでいきたい。紙漉きの家に生まれたんですから」

 手漉き和紙職人・尾﨑伸安さんが力強く簀桁すけたを振る。この大型の簀桁も、幕末から明治にかけていの町で製紙業の発展に尽力した、吉井源太が発明したものだ。

尾﨑伸安さんの作業風景。原料の繊維を均一に、しっかり絡ませるために簀桁を揺する。力だけでなく技術が必要

 大正期頃を境に和紙産業が徐々に衰退するなか、1976(昭和51)年「土佐和紙」は伝統的工芸品に指定。また県内ではこうぞなどを栽培、用具の製作技術も継承し、地域で伝統を守ろうとしている。

「でも守るだけではだめ。今の時代に必要な紙をつくらなければ」

 和紙でなくてはならない場面は今でもある。日本画、表具、文化財修復……透けるほど薄いものから壁画を飾る大判まで、漉ける種類の豊富さも土佐和紙の特長だ。

 田村晴彦さんが1枚ずつ、いの町で漉かれた紙を染めていく。自身が編み出した「夢幻染むげんぞめ」という手法だ。ちぎり絵の材料として人気が高いが、豊かに彩られたその紙自体がアートでもある。

田村晴彦さん。にじみ止めの礬水〈どうさ〉を使う「夢幻染」は田村さんオリジナル
グラスアート作家とコラボしたタペストリー。田村和紙工房にて注文受付

「作家さんが自由に使ってくれるのがありがたいですよ」

 田村さんもかつては、祖父と父が営む和紙工房で紙を漉いていた。その傍ら20代から染色を始めた。紙漉きはやめても、和紙の魅力から遠ざかることはない。

尾﨑さんが漉き、田村さんが染めた和紙でできたぽち袋

 この町には上質の紙が生まれる条件が揃っている。良質の水、温暖な気候、日照。なにより和紙にかける、ひとびとの真摯な想い。

 七色の紙が生まれた町。“新しい色”を生み出す歩みは、今も続いている。

良質な水は和紙づくりには欠かせない。和紙産業を支えてきた仁淀川は、近年ではその美しさが「仁淀ブルー」として注目されている

文=瀬戸内みなみ 写真=佐々木実佳

ご当地INFORMATION
いの町のプロフィール
高知県中央部に位置するいの町は、愛媛県と県境を接し高知市へと続く県の北玄関口。標高1800メートル級の山々から平野部まで、自然環境は変化に富む。その歴史は「奇跡の清流」仁淀川とともに育まれてきた。ミネラル豊富な土壌で育つ野菜・果物のおいしさも魅力だ
●問い合わせ先
いの町紙の博物館
☎088-893-0886
田村和紙工房
☎088-892-0460
道の駅 土佐和紙工芸村 和紙体験実習館(尾﨑さんの和紙と作品を販売) ☎088-892-0127
吉井源太翁生家
☎088-893-1922
(いの町教育委員会事務局)
土佐和紙プロダクツ
https://tosawashi-products.com/

出典:ひととき2024年4月号

▼連載バックナンバーはこちら


いいなと思ったら応援しよう!

ほんのひととき
最後までお読みいただきありがとうございます。いただいたサポートは、ウェブマガジン「ほんのひととき」の運営のために大切に使わせていただきます。