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ぜんざいを巡る冬のあったか旅【前編】[丹波大納言小豆ぜんざいフェア](兵庫・丹波市 )
本格的に寒くなってきた12月の初旬、兵庫県の丹波市に行ってきました。丹波市へは、新大阪駅から特急こうのとりで約70分。特急が停車する主な駅は、「柏原駅」となります。丹波市内では2025年2月18日まで、「丹波大納言小豆ぜんざいフェア」が開催中です。
「丹波」と聞いて思い浮かぶのは、観光に明るい「丹波篠山」なのかもしれません。ですが、今回は丹波市。丹波市の名物は、丹波栗・丹波黒豆・丹波大納言小豆、3つ合わせて「丹波三宝」と呼ばれています。丹波市は、栄養豊富な土壌、美しい水、寒暖差のある気候で、作物が育つには適した土地なのです。
なぜ、いま丹波市か。それは筆者が「丹波大納言小豆ぜんざいフェア」に行くためです。「丹波三宝」のうちの、丹波大納言小豆が主役のこのイベント。筆者は、和菓子やあんこ、ぜんざいが好き。今回は、大好きなぜんざいを目指してめぐる道中、そして、この甘いもの好きにはたまらないイベントをご紹介したいと思い、筆をとりました。
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丹波市の小豆をぜんざいに!
あずきはどれも同じだと思われる方もいるでしょう。しかも煮てしまっては区別がつかないのでは、と。いいえ、そんなことはありません。丹波大納言小豆と普通のあずきとは似て非なるものです。
丹波大納言小豆の大きさは、1粒がおよそ5.5mm以上と規定がきまっています。ほかのあずきに比べても大きい俵型の粒は、重ねると縦に積みあがることでも有名。しっかり粒だっている証拠です。さらに、赤くつやのある美しい紅色。皮は薄いのに煮くずれにしにくいという特徴があります。薄い皮は、口の中に含んだときの舌ざわりの良さを生み出します。もちろん、風味や香りの豊かさは言うまでもありません。丹波大納言小豆とは、あんこやぜんざいを作るには最適なポテンシャルを持つあずきなのです。
「丹波大納言小豆ぜんざいフェア」とは、そんな丹波大納言小豆を使った冬の恒例イベントです。今回は11月1日の「丹波大納言小豆の日」から始まって、2025年2月18日まで。今年は丹波市政20周年ということもあり、丹波市内に点在した34店舗の飲食店で、丹波市でとれた丹波大納言小豆を使った各店の個性あふれるぜんざいが味わえます。
中には、ココナッツミルクベースの中華風ぜんざい、丹波栗の入ったぜんざい、わらびもちと一緒にいただくぜんざい、そばがきのぜんざいなども。どの店も工夫を凝らしており、数軒巡っても違いを楽しめるラインナップ。
今回はその中でも、特急が停まり、徒歩でまわれるJR福知山線の柏原駅周辺で、オーソドックスなスタイルで提供する2店舗を食べ比べてみました。
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「レストラン山の駅」
最初に立ち寄ったのは、1988年創業の「レストラン山の駅」。柏原駅に併設された食事処で、アクセスのいい立地から自然と人が集まるレストランです。電車を待つ間の腹ごしらえはもちろん、観光案内所の役割も果たしているので、丹波市の情報収集や手軽なお土産を購入できたりと、訪れた客にはとてもありがたい場所。地元の方にとっても憩いの場になっているので、常連客がのんびり談笑している様子から、地域の日常が垣間見れます。
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そんなレストランは、メニューのボリュームもかなり良心的。もちろん「丹波ぜんざい(880円)」も、例外ではありません。シンプルながら、どんぶりのような大きさのお茶碗になみなみと注がれていて、これで一食以上を賄えるのではないかというほどの量に驚きます。
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主となる丹波大納言小豆は、丹波市春日町の「なかで農場」で作られたものを使用しています。春日町と言えば、「丹波大納言小豆発祥の地」。なかで農場は丹波で300年続く専業農家で、丹波市の名産で山芋の30倍の粘りが特徴の「山の芋」などを育てている、地元に根付いた農家です。
ぜんざいを口に運ぶと、やさしい味わいが広がります。そのやさしさの秘密は、シンプルな食材にあります。丹波大納言小豆は、一日水につけて下ごしらえ。ゆっくり水分を含ませたあずきを、さっくりと炊いていきます。きび糖のみで味付けすることで、まろやかでいてやわらかな口当たりに。素朴に作られているからこそ、あずきの風味や旨みが際立ちます。後味もさっぱりとしていて、食べ進めていくほどに、着丼したときの量への驚きは、気にならなくなっていました。
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そしてぜんざいに入っている具と言えば、お餅。こちらの大判のお餅は、丹波市柏原の和菓子店「銘菓井上」さんの特注の杵つき餅。関西と言えば丸餅が定番ですが、たくさん作れるという理由から、こちらでは関東風の角餅を採用しているそうです。逆に、角餅が関西で提供されるのは珍しいかもしれません。のびがよく弾力があるお餅は、丹波市の水稲餅米を使用しています。口に入れても歯切れは抜群で、ぜんざいのお汁がよく絡みます。
丹波大納言小豆がもちろんメインですが、そのほかの食材もしっかりと「ここにいるよ!」と主張しています。食材や調理工程はシンプルだからこそ、食材の底力がよく伝わる一杯。「ようこそ丹波へ!」とおもてなしを受けた気がして、心がほっこりとあたたかくなりました。5年前にメニューに加わったぜんざいは、1日10杯以上は注文が入る人気メニュー。11月~3月までの限定販売とのことです。
「レストラン山の駅」オーナーの奥畑和也さんは、「丹波は生産者や農家が多いのも特徴。人との距離が近いので、顔が見える人たちから仕入れができる。そういったお付き合いができるのが丹波の魅力」と語ります。
もともと奥畑さんは神戸出身。結婚を機に丹波に移住してきて、このお店のオーナーとしては2代目とのこと。かつて元気があった丹波市は、奥畑さんが移住した30年前は、元気がない地方都市となっていたそうです。このまちをどうにかしたいと、まちをPRする団体を立ち上げて、丹波市のために積極的にまちづくりに参画してきました。その活動でつながった同じ志を持つ人たちから食材を仕入れ、メニューに取り入れているとのこと。今では、丹波を訪れる人が産直グルメを気軽に食べられるお店になっています。
そんな話を聞いて、丹波市の「丹」は"まごころ"と読むことを思い出し、「人と人は丹でつながって、まごころがこのぜんざいを作るのだなぁ」などと考えながら、お店を後にしました。
レストラン山の駅
住所:兵庫県丹波市柏原町柏原1146-1 ( JR柏原駅構内 )
電話:0795-72-4402
営業時間:8:00 ~ 18:00※日により、変動する可能性があります
定休日:火曜日
アクセス:JR柏原駅構内
HP:https://www.instagram.com/tambayamanoeki/
ぜんざいを求めるグルメ旅はまだまだ続きます。
(後編につづく)
文・写真=濱口真由美
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