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【農民美術】大正モダニズムとともに生まれた長野県上田の伝統工芸品

日本全国の“地域の宝”を発掘する連載コーナー地元にエール これ、いいね!。地元の人々に長年愛されている食や、伝統的な技術を駆使して作られる美しい工芸品、現地に行かないと体験できないお祭など、心から「これ、いいね!」と思える魅力的なモノやコトを、それぞれの物語と共にご紹介します。(ひととき2021年2月号より)

 素朴でかわいらしい、小さな「こっぱ人形」。ロングセラーとして愛される実用品「鳩の砂糖壺」。洗練されて現代的なキューブ型の「上田獅子」……。

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尾羽の部分がスプーンになっている鳩の砂糖壺。白樺の木をろくろで成形し、色を塗る。手前の小さな鳩は小物入れに(アライ工芸にて)

 長野県指定の伝統的工芸品「農民美術」は、ちょっと不思議だ。こんなにも幅広い作風を受け入れてどんと成り立っている。

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コゲラの里工房(徳武さん) 植木屋さんがスマホを持っていたり、女の子がマスクをしていたり。身の周りを題材にするのが「こっぱ人形」の基本だ。世相も写す

 そもそも美術なのか、工芸なのか?

「自分では、どちらかというと職人だと思っています」

 と話すのは、長野県農民美術連合会会長の徳武忠造さんだ。50年近く木彫一筋に打ち込み、現在では「こっぱ人形」作りの指導や普及にも奔走している。

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近年は作られていなかった「こっぱ人形」を復活させた徳武さん。「山本鼎の理想をいちばん表しているものだと思う。感じたことを表現するのは楽しい」

「ただ、農民美術に決まった型はありません。自由な発想で作っていいんですよ」

 農民美術という〝運動〟を提唱したのは、洋画家の山本鼎(かなえ)*である。ロシアで農民たちが手がけた手工芸品に出合って感銘を受けた山本は、「日本でも農閑期にこういうことができれば、農家の人たちが創造の喜びと副収入を同時に得られるのではないか」と思い立つ。両親が医院を開いていた神川(かんがわ)村(現上田市)で1919年(大正8年)、第1回講習会を開いた。ときは大正、自由とモダニズムの空気に満ちていた時代に、その種は蒔かれたのだ。

*山本 鼎(やまもと・かなえ)
1882〜1946年。洋画家、創作版画家、美術教育運動家としても活躍

 鳩の砂糖壺は、農民美術の販売店・アライ工芸が取り扱う商品のなかでも特に人気。

「農民美術は地元の人にとって、とても愛着あるもの。昔から引き出物や会社の贈答品としても使われてきました」

 店主の荒井治代さんがいう。

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アライ工芸:2階には山本鼎の直弟子だった初代・荒井貞雄さんの作品を展示 

 伝統を残していこうと、若い後継者も手をあげ始めている。クラサワ工房もそのひとつ。倉澤満さんと弟・鈴木良知さんの〝木彫兄弟〟が彫る作品に、倉澤さんの娘・亜子さんが彩色をする。

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信州の山並みを見渡せる、明るいアトリエで作業をする倉澤さん。自然の豊かさが作品にも息づく

「上田獅子の衣装に梅の花を描いて『令和獅子』と名付けたり、パステルカラーのアマビエ*を作ったり。娘ならではの若い感性です」(倉澤さん)

*疫病除けとして日本に伝わる妖怪

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 今は農家の副業ではなく、作り手は専業者ばかりだが、「農民美術とは、現代でいえば『庶民の美術』ということではないか」と徳武さんはいう。

〈自分が直接感じたものが尊い〉――山本が残したこの言葉は、上田の人々の心に脈々と受け継がれ、刻み込まれている。

文=瀬戸内みなみ 写真=佐々木実佳

ご当地◉INFORMATION
●上田市のプロフィール
戦国時代の智将・真田昌幸が築いた上田城を中心とし、城下町の落ち着いた面影が残る上田市。古く奈良時代には信濃国の最初の国府が置かれたともいわれている。明治期から大正期にかけては蚕糸業で隆盛を極めた。寒暑の差が大きい内陸性気候であり、晴天率の高い少雨乾燥地帯で、現在は果物や高原野菜の栽培が盛ん。スポーツを楽しめる高原や由緒ある温泉など、観光資源も豊かだ。
●問い合わせ先
アライ工芸
☎0268-22-2961
http://araikogei.com/
コゲラの里工房
☎0268-84-1311
http://kogera.art.coocan.jp/
クラサワ工房
☎0268-42-4685
http://kurasawakoubou.main.jp/

出典:ひととき2021年2月号
※この記事の内容は雑誌発売時のもので、現在とは異なる場合があります。詳細はお出かけの際、現地にお確かめください。


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