すべてが芝居につながっていく(女優・南沢奈央)|わたしの20代|ひととき創刊20周年特別企画
旅の月刊誌「ひととき」の創刊20周年を記念した本企画「わたしの20代」。各界の第一線で活躍されている方に今日に至る人生の礎をかたち作った「20代」のことを伺いました。(ひととき2021年8月号より)
20代のはじめは学業と仕事で結構忙しくしていました。翳のある役が多かったですが、笑いのある役も大好き。高校生のときから落語が好きで、卒業論文のテーマも落語でした。寄席で落語を聴いていると、ただただ笑っていられる。噺の中にはダメ人間がいっぱい出てくるけど、欠点も肯定してくれる。失敗したっていいと励まされるんです。20歳のとき、高座に上がらせていただいたこともあります。いざやってみたら、お客様の前に一人っきり。人生で一番緊張しました。噺を終えて、足がしびれてプルプルしたときが、一番ウケました(笑)。
20代半ばまでは悩みも多かったです。自分の中ではどこかに新人みたいな気持ちがあるのに、周りからは「10年やってるんだから、できて当たり前」と思われている。自分の中身が役に追いついていない気がして苦しかった。大学卒業時、友人たちが就活する中で、ほかの職業に就くなら今だと真剣に考えたこともありました。それでも女優を続けようと思えたのは、いろいろな方々や作品に出会えたからだと思います。
映像が仕事の中心だった当時、舞台を経験して気付いたことがあります。稽古に時間をかけることで磨かれるものや、生の本番だからこそ出せる演技があるんだって。稽古の合間にサッカー好きの先輩とボールを蹴り合っていたら、「サッカーも芝居に役に立つんだよ」と言われました。はじめは分かりませんでしたが、そのうち自分がどこにいて、どのタイミングで相手にセリフを渡すか、周りが見えるようになって後で驚きました。
自分が好きな登山やクライミングも体の動かし方が大事なので、これは演技に生かせます。落語にも所作や〝間〟の取り方など、大切な要素がたくさんあります。趣味で続けてきたことも役に立つと思うとうれしかったし、お芝居にも貪欲になれました。
最近、タップダンスを始めました。いずれは歌もやってみたい。おとなになっても成長できるんですよね。30代になって楽になった、楽しいと感じます。それは10代、20代に蓄積したものが今につながっているから。悩みながらも続けてきてよかったと思います。
談話構成=ペリー荻野
舞台がどんどん面白くなってきた28歳、台本を手に稽古中
南沢奈央(みなみさわ・なお)
女優。 1990年、埼玉県生まれ。2006年BS-TBS「恋する日曜日 ニュータイプ」の主演でデビュー。「ビクター・甲子園ポスター」イメージキャラクターなどを経て、ドラマや映画、舞台で活躍中。趣味は読書と落語鑑賞。読売新聞読書委員もつとめる。舞台「羽世保スウイングボーイズ」(〜7/27博多座、8/28・29新歌舞伎座)に出演中。
出典:ひととき2021年8月号