水槽に泳ぐ魚を見ながら泊まることができる水族館「国立海洋生物博物館」|『旅する台湾・屛東』より
台湾人の魅力のひとつに、柔軟な発想がある。「泊まれる水族館」、いかにも台湾らしい。屏東県車城にある「国立海洋生物博物館」がそれだ。通年のサービスなので、夏休みや冬休みになれば、いつも子供たちでいっぱいになる。
屏東でしか経験できないことだ。早速申し込んでみた。
閉館後の館内に到着すると、ガイドが丁寧に水槽を泳いでいる魚たちを紹介してくれる。縦長の大きな水槽は、海の深度によって生息する魚の種類が異なることがわかる。夕食を挟み、今度はバックヤードの見学。巨大な水槽を真上や裏側から見る。餌やりもでき、子供たちは大興奮。私は、初めてサメの卵が硬い殻でできていることを知って驚いた。
ひと通り解説が終わると、自由時間になる。シャワーを浴びたり、気になる水槽をもう一度見に行ったり、外に出て星を眺めたりして、思い思いに過ごしているうちにいよいよ就寝時間だ。
寝る場所は、申し込み時に、サメやシロイルカ、ペンギンのいる北極など、希望のゾーンを決める必要がある。私は、頭上に魚が泳ぐ姿を眺められる海底トンネルゾーンを希望した。
敷布団と布団、枕がワンセットになった大きなビニール袋を渡され、指定の場所に行き、各自寝床を準備する。これだけでも、なんだか修学旅行みたいでワクワクする。横になると、真上でいろんな種類の魚が忙しく泳いでいた。みんな同じ向きなのに、流れに追いつかず、我が道を泳ぐ魚もいる。ひときわ優雅に泳いでいるのはマンタだ。ポコポコと流れる水の音が心地よい。深夜に目を覚ますと、魚たちも眠たいのか、泳ぐ速度が遅くなっていた。偶然にも、お腹に小判鮫を付けた大型魚がずっと止まっていた。絶対に離れまいと吸盤のようにへばりつく姿が気になって眠れなくなった。
博物館の目の前は台湾海峡だ。翌朝は、ガイドと一緒に潮間帯を散策し、珊瑚礁やヤドカリを探しに出かけた。季節によっては、陸ガニにも出会えるというが、今回は脱皮したものしか見つけることができなかった。
告白すると、あまり動物に興味がない私だが、海底トンネルでの一泊は、まるで海の中で過ごした気分になり、魚と一緒に眠るという非日常は、屏東での忘れ難い思い出となった。
文・写真=一青妙
◇◆◇ 本書のご紹介 ◇◆◇
『旅する台湾・屏東』
一青妙 , 山脇りこ , 大洞敦史 著
2023年11月20日発売