【竹田の姫だるま】しあわせの微笑みを未来につなぐ縁起物(大分県竹田市)
たおやかに微笑む「竹田の姫だるま」。竹田市で約400年前に生まれた女性のだるまは、家庭円満・商売繁盛の縁起物として親しまれ、旧岡藩時代には下級武士の内職として作られていたが、戦時中に途絶えた。このだるまを戦後に復興したのが、ごとう姫だるま工房。2代目の後藤明子さんは「初代・後藤恒人が、皿に描かれた姫だるまを見て、『この地の文化を復活させたい』とわずかに残るだるまや資料を頼りに作り始めたのが、今の姫だるまです」と話す。19歳で後藤家に嫁ぎ、義父である初代から製法を習って半世紀以上、この文化を守ってきた。
製作には16もの工程がある。初代が改良を重ねた木型を元に、短冊状の和紙や新聞紙を貼り重ね、背面に切れ込みを入れて木型から取り外す。底に重しを入れ、胡粉塗りで艶やかな白肌にしたら、泥絵の具と墨で仕上げる。各工程で乾かし、また季節や天候で乾き具合が異なるため、娘を育てるような気持ちで時間をかけて完成させる。
「竹田では正月に姫だるまを各家に届ける風習『投げ込み』があり、昭和の時代は、深夜まで製作した大量の姫だるまを、近所の人と協力して隣町まで配達していました。今でも一般家庭や飲食店に届けています」と明子さん。現在はお嫁さんの久美子さんも3代目として携わり、大事なお顔は明子さんが長年の勘を頼りに描いている。
豊かな自然に恵まれた竹田では、近年県外からの移住者も多い。旧酒蔵を改装した染色工房「紺屋 そめかひ」の職人、辻岡快さんは学生時代に藍染めに魅了され、10年前に移住。畑で藍を育て、古来の藍染め技法で製品づくりを行ってきた。店内には藍染め製品とともにオリジナルの姫だるま柄の手ぬぐいや巾着も並ぶ。縁起物として、竹田で産声を上げた姫だるまは、現在、町おこしの役割も担っているという。お嫁さんが作る、この町の〝微笑み〟は、これからもしあわせの心をつないでいく。
文=佐藤美穂 写真=佐々木実佳
▼連載バックナンバーはこちら