艶やかな春の花と調和する建築空間とは|笹岡隆甫 花の道しるべ from 京都
今年も、いけばな展の季節がやってきた。関西では、大丸京都店で「華道京展」(29流派)、大阪髙島屋で「日本いけばな芸術展」(98流派)が4月に開催される。こうした諸流合同展覧会は、利便性を考慮し、デパートで開催されることが多い。これに対し、各流派の展覧会は、様々な場所で行われる。いけばな展の会場選びで私が大切にしているのは、いけばなに興味がない方にもご覧いただく機会を提供すること。招待客だけでなく、不特定多数の方が足を運んでくださる場所を選ぶようにしている。
流派の東京支部は、私の家元継承を記念して翌2012年に発足した新しい支部だ。その分、若い師範代も多く、いけばな展を開催する際も精力的に動いてくれる。初めての展覧会の際、会場に選んだのは「椿山荘」だった。宴会場では一般の方が入りづらいので、ロビーや廊下などホテルにいらした方が通りすがりにご覧いただける場所を選んで作品を飾った。壁紙一つとっても味わいがあり、建築と花の調和が美しかった。
その後も東京支部展は都内のホテルで開催していたが、昨年、重要文化財「築地本願寺 本堂」にいけばなを奉納する機会を得た。伊藤忠太博士の最高傑作と言われるこの建物は、インドの古代仏教建築を模した外観が特徴で鉄筋コンクリート造。シルクロードを経由して大陸から日本に渡った仏教のルーツを感じさせ、建築史家である伊藤忠太博士ならではの建築だ。本堂入り口のステンドグラスや動物の彫刻など見どころも多い。建築史を専攻勉強していた私にとっては垂涎もの。
ときは、仏様の誕生日にあたる「はなまつり」。インド大使館やスリランカ大使館も共催という形で関わっておられたこともあり、仏教伝来の物語を感じさせる花を奉納したいと考えた。インドの花器を使った作品を用いたり、シルクロードを伝ってやってきた茶の木をいけたり、それぞれ工夫をこらした作品が、築地本願寺の本堂を彩った。春の花は艶麗だ。桜、藤、牡丹、いずれも主役級の花たち。築地本願寺本堂の独特の建築空間と春のいけばなの競演は艶やかで、花たちも幸せそうだった。
僧侶の方に雅楽を奏していただく中で、献華式も行うことに。何をいけようかと、まっさきに思い浮かべたのは、仏様の花である蓮。インドの花の王とも言われる蓮をいけたいと考えた。ただ、残念ながら蓮は夏の花で、4月に入手するのは難しい。そこで、木の蓮という字を当てるモクレンと、睡る蓮と書くスイレンを選んだ。
今年は、4/26~29まで築地本願寺で「親鸞聖人御誕生850年・立教開宗800年慶讃法要」が催行される。初日には私が献華式を担当、4日間、東京支部が、いけばなを奉納させていただくことになっている。
京都・洛西で「西行桜」を愛でる
ふりかえって、春の京都。いけばなを飾る場としても魅力的な寺社だが、やはり時宜を得た自然の花々と共に楽しみたい。中心部は混みあうが、少し足を延ばせば、ゆっくりと花を愛でることができる。
洛西に古刹がある。西京区大原野の「勝持寺」。西行法師がこの寺で出家し、自ら植えたと伝えられる八重桜「西行桜」があることから、花の寺として親しまれている。能にも同名の演目があり、花見客に悩まされた西行が、美しさゆえに人をひきつけるのが桜の罪なところだ、と詠んだところ、夢に老桜の精が現れ、桜には罪がなく、煩わしいと思うのは人の心だと西行を諭す。
願はくは 花の下にて 春死なむ そのきさらぎの 望月のころ
つとに世に知られるこの歌は、いかにも桜を愛した西行らしく、日本人の琴線を衝く。
他にも洛西には、花の名所が多い。長岡京市の「乙訓寺」は2000株の牡丹が大輪の花を咲かせる「牡丹寺」として知られるし、長岡天満宮は八条ヶ池畔のキリシマツツジは圧巻だ。まだまだ続く花の季節。京の住人である私の心も踊る。
文・写真=笹岡隆甫
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