[ヨシタケシンスケ展かもしれない]初の大規模個展で絵本作家が伝えたい、ひとつのこと|そごう美術館(横浜市)
ひとつのりんごからこんなにも閃き、語ることがあるということに驚く絵本『りんごかもしれない』をはじめ、日常生活を舞台に繰り広げられる独自の世界観が魅力のヨシタケ作品。「これらはどのようにして生まれたのだろう」。そんな問いに答えるべく、本展覧会では発想の源である小さなスケッチや絵本原画のほか、この展覧会のために考案した立体物や愛蔵のコレクションなど約400点を通して、ヨシタケさんの“頭のなか”が紹介されます。
そごう美術館の会場に訪れると、愛らしく、どこかとぼけた表情をしたキャラクターたちが迎えてくれます。歩みを進めていくと、左手にヨシタケさんが常に持っているという小さなノートに描かれたスケッチ2500枚(複製)がずらり。一万枚を超える膨大なスケッチの中から選んだものだそうです。これだけのことをメモし、それをきちんと保管されていることに驚かされます。
「子どもの頃、親に連れられて訪れた展覧会では、いつも早く帰りたくなってしまった」というヨシタケさん。本展覧会では、いかに子どもたちが楽しめるかを考えたといいます。撮影スポットはもちろん、絵本の中で鍵となるイラストがデジタルで楽しめる場、ボールを投げる場所なども。「展覧会で一番ありえないことってなんだろうと思ったのが、痛い、という叫び声が聞こえる展覧会で(笑)。そんな場所もご用意しました。子どもって、お父さんお母さんが困っている姿を見るのが大好きなのですよね」とヨシタケさん。
会場では、そこかしこでヨシタケさんのコメントが書かれた付箋を見かけます。「この部分は(観客の)想像でどうにか面白くしてください、たとえ面白くなくても、その内容によっては深くも見えるのではないでしょうか、そんな願いを込めています」
全国各地で行われている本展覧会。そごう美術館で行われることについて、神奈川出身のヨシタケさんは「僕が本当にまだ小さかった頃、日本最大の広さを誇る百貨店が横浜にできますって大々的な案内があって驚いてから、もう40年くらいですよね。自分がこの場でこんな風にやらせていただける日が来るなんて、当時は思いもしなかったです」と話します。
今年で50歳になるヨシタケさんは、イラストレーター、造形作家として活躍したのち、40歳で絵本作家としてデビュー。「どうしたら子どもの心を保っていられるのか」とよく聞かれるそうですが、子どもの頃は怖がりで、大人になるのも嫌だったそう。「自分が大人になり切れていなかった部分、できないところをダメだといっても辛いだけなので、どうにか面白がってもらえないだろうか、許してくれないだろうか」。こんな思いで絵本を描いたところ、ヨシタケシンスケブームが到来しました。
ヨシタケさんがこの展覧会を通じてひとつ伝えたいのは「何があるかわからないということ」。自分に自信を持てなかった子どもが、「社会の幅」のようなものの中で、自分の役割を見つけられるかもしれない。ひょんなことからその才能を周囲から認められ、必要とされる日がくるかもしれない。
ヨシタケさんは今後も絵本を通して、器用ではない人を見守るような、優しい空気を作っていきたいと言います。「そうすることで、かつての自分が報われるような気がするんです」。本展は9月2日まで。夏休み、ぜひお出かけください。
◆展覧会オリジナルグッズ
キャッチャーが描かれたミルクピッチャー
文・写真=西田信子
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