【井原冬ぶどう】くだもの王国・岡山の熱意の結晶 “宝石のような果実”(岡山県井原市)
日本全国の“地域の宝”を発掘する連載コーナー「地元にエール これ、いいね!」。地元の人々に長年愛されている食や、伝統的な技術を駆使して作られる美しい工芸品、現地に行かないと体験できないお祭など、心から「これ、いいね!」と思える魅力的なモノやコトを、それぞれの物語と共にご紹介します。(ひととき2020年11月号より)
岡山県井原(いばら)市では、立冬(今年は11月7日)以降に出荷するぶどうを「冬ぶどう(*1)」と名付けて、10年前から売り出している。
岡山県以外では、ほとんど栽培されていない品種「紫苑」。十分な甘みがあるが、さっぱりした後味
*1 冷蔵保存ではなく、木に実らせたまま樹上で品質を管理する
「遅出し、というだけではありません。岡山では、赤秀(あかしゅう)、青秀(あおしゅう)、優、良、その他(無印)の5段階でぶどうを格付けしていて、〝冬ぶどう〟として出荷できるのは、このうち秀品だけなんです」
昨秋、市内の選果場を訪ねると、ぶどう農家の中塚正彦さんが、そう教えてくれた。
糖度、硬度、色付き、粒の重さ、房の形など、各項目に岡山独自の基準を設けて、産地全体で信用と技術を高めてきた。冬ぶどうも然り。珍しさだけでなく、味よし、姿よし。だからこそ、贈答品として引き合いが強いのだ。例年12月中旬頃まで出荷があるので、お歳暮としても喜ばれているという。
中塚正彦さん・況吏子(まりこ)さんご夫妻
冬ぶどうには、さらに「樹成(きな)り熟成」と称する特秀クラス(*2)のプレミアムもある。「特秀」とは、近年追加された最高級の等級のこと。たとえば粒の重さだと、赤秀はすべての粒が15グラム以上だが、特秀クラスなら18グラム以上! 立冬以降に特秀の基準をクリアするのは非常に難しく、「昨年は地域全体で20房ほど。作ろうと思っても作れないんですよ」。とびっきりの希少品なのだ。
*2 技術向上で、より品質の高いぶどうが栽培できるようになり新設された
樹成り熟成の冬ぶどうは井原市専用の化粧箱入りで販売。1房10,000円程度
井原市は、60年ほどの歴史を持つ「ぶどうの里」。里の未来のために、さまざまな可能性を探るなかで、若手が中心となってチャレンジを決めたのが冬ぶどうだった。若手を牽引する一人、 三宅信次さんは、「祖父の代が頑張ってきたから今がある。自分たちの代で終わらせるわけにはいかないですから」と力を込めた。
三宅信次さんのぶどう畑
冬ぶどうの品種は、爽やかな黄緑色のシャインマスカットや晩生(おくて)で薄紫色の美しい紫苑(しえん)などが中心。それぞれ試食をしてみると、これが昇天の味わい……! 幸せが口中、否、全身に広がった。「色々な品種の食べ比べができるのも〝ぶどうの里〟の強みですね」
シャインマスカットは糖度の高さが特徴で、皮が薄く種なしで食べやすい
「迷ったら下位等級へ」が基本。厳しい目で選別することでブランドを維持している
文=神田綾子 写真=福本 旭
ご当地◉INFORMATION
●井原市のプロフィール
岡山県南西部に位置する西日本有数のぶどうの産地。シーズン中、地元産のぶどうや野菜を販売する「葡萄浪漫館」は、たくさんの人で賑わう。市内の美星町〈びせいちょう〉は、天文学者が選ぶ星空ベスト3「日本三選星名所」の一つ。また、井原産のデニム生地は、品質の高さで世界的に認められており、「デニムの聖地」とも称される。
●問い合わせ先
JA晴れの国岡山 井原アグリセンター
☎0866-62-1433
井原直売所「いばら愛菜館」
☎0866-62-1539
JAタウン
https://www.ja-town.com/shop/f/f0
*オンラインショップ、直売所共に冬ぶどうの入荷は不定期で数量限定
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