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【旧中埜家住宅】商業、交通、教育、インフラ事業と地域に貢献した名家の洋風別荘|甲斐みのりの新幹線で建築さんぽ(三河安城駅)

日本各地の建築に詳しい文筆家の甲斐みのりさんと一緒に、開業60周年を迎えた東海道新幹線に乗ってすてきな建築を巡る連載「新幹線で建築さんぽ」。新幹線駅の近くで購入できる、甲斐さんおすすめの手土産もご紹介!

 愛知県知多半島に位置する半田市は、江戸時代から海運業や醸造業で栄えたまち。今も半田運河の周辺には、黒壁の醸造蔵や歴史的建造物が残り、趣ある風景を織りなしている。

 三河安城みかわあんじょう駅を起点に、東海道本線から武豊たけとよ線へと乗継ぎ半田駅へ。駅から10分ほど歩くと、1911(明治44)年築の「旧中埜なかの家住宅」に辿り着く。施主は、代々当主が中埜半六の名を受け継ぐ地元名家の10代目。イギリス留学中にヨーロッパの住宅の美しさに心惹かれ、当時は衣浦きぬうらや三河湾を望むことができた小高い丘の上に、山荘風の別荘を築いた。うろこ形と角形の天然スレートをいた急勾配の屋根と、白い漆喰壁に木骨が露出するハーフティンバー様式を用いた木造2階建の洋館を設計したのは、夏目漱石の義弟にあたる鈴木禎次ていじ。東京駅を手がけた辰野金吾に師事し、名古屋の近代化に貢献した東海建築界の重鎮だ。

 玄関の扉は円形で、ベランダの柱飾りにはバラの花。外壁下部に埋め込んだ小石は水玉模様のよう。外観を見回しただけでも愛らしい意匠が見つかるけれど、内部ではさらに宝探しが楽しめる。1階の客室はことに流麗な設えで、天井や張出し窓の周囲には華やかな漆喰彫刻が。4室に設置された全て異なるデザインの暖炉も、ガス灯も往時のものが残る。戦後は中埜家が設立した女性の自立支援を目的とする洋裁学校の本館として使用。そのとき、裁縫の仕立室や茶華道の実習室だった2階に続く階段の床材には、貴重な天然リノリウムが使われている。

 徒歩圏内には、中埜家の本邸「旧中埜半六邸・半六庭園」も。日本家屋の母屋は発酵調味料を取り入れたフレンチレストランとして営業。いつか食事を味わいながら和洋の邸宅建築を比べてみたい。

文=甲斐みのり 写真=米谷 享

旧中埜家住宅
☎0569-23-7173(半田市立博物館)
[住]愛知県半田市天王町1-30-2
[休]外観見学は年中無休で可。
年に数回、春と秋を中心に建物内公開日あり
[料]無料
[交]三河安城駅より東海道本線、武豊線を乗継ぎ「半田」駅下車後、徒歩約10分
▼公開日・詳細はこちら
https://www.city.handa.lg.jp/bunka/bunkazai/1002774/index.html

駅チカ手土産「安城一番」

安城市の伝統工芸品で縁起物の「桜井凧」をモチーフにした最中。たっぷりの粒餡と羽二重餅が入っている。1個150円

◉御菓子司 北城屋百石総本店
[所]愛知県安城市百石町2-19-15
[時]9時~18時
https://kitashiroya.co.jp/

出典:ひととき2025年2月号

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