急傾斜の海食崖を活かした昭和レトロな大型ホテル「ホテルニューアカオ」|甲斐みのりの新幹線で建築さんぽ(熱海駅)
多賀火山の山体の東側半分が侵食されてできた熱海は、起伏に富んだ温泉地。坂道が多く、一見すると散歩向きではないように思えるけれど、傾斜や展望を活かしたユニークな建物が点在し、建築さんぽには事欠かない。熱海市が管理する「旧日向家熱海別邸」や「起雲閣」の他にも、さまざまな名建築を楽しめる。
中でも特別な温泉宿としておすすめしたいのが、1973(昭和48)年開業の「ホテルニューアカオ」。土産店や旅館を経営していた開業者は、景勝地ながら荒れ果てていた熱海の名勝・錦ヶ浦の海食崖を巧みに利用して、リゾートホテルを造ろうと奮い立つ。最初は関係省庁から許可が下りず難航したが、国内有数のチームに設計を依頼し課題をクリア。数万本のピアノ線を基礎岩盤に固定する工法を用いることで、国内でも珍しい海上に迫り出すようなホテルが完成した。
昭和のレトロな趣が残る海上20階建てのオーシャン・ウイングと、ローマ風の装飾が施された崖の上のホライゾン・ウイングの2棟の宿泊棟は、全350室がオーシャンビュー。海と空が目の前に広がる露天風呂や、カヤック、射的、約80種類の缶詰が揃うバーと、屋内外のアクティビティーも充実している。2023(令和5)年のリニューアル以降、2000平米もの広大なシアターレストラン「メインダイニング錦」はランチのみの利用も可能に。大きな窓の外には、30万年前まで繰り返された噴火や荒波が形成した奇岩と洞窟の絶景が迫る。ローマ宮殿を思わせる華麗な空間で地元の食材を味わいながら、躍動的な岩肌を眺めるのは貴重なひととき。レストランの屋上の庭園から真下を見ると、海食崖と一体化する建物の様子(写真下)がよく分かるので、食後に立ち寄ってはいかがだろう。
文=甲斐みのり
写真=鍵岡龍門
出典:ひととき2024年9月号
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