「べにふうき」は人を夢中にさせる力があるらしい。枕崎に隣り合う知覧の田中京子さんファミリーはTEALAN薩摩英国館というティーサロンで紅茶文化を発信するだけでなく、「べにふうき」を無農薬で自園自製し、「夢ふうき」の商標登録を取得。さらに前記と同じコンテストに出品し、三つ星金賞を受けている。
リーダーはグレイトマザーの京子さん。地元の開業医夫人として知覧活性化計画に関わっていた頃、三女が留学中のロンドンへ家族旅行し、長女・真紀さんともども紅茶にはまってしまう。そこで、幕末以来の薩摩と英国の深い関係に紅茶が結び付いた。知覧特攻平和会館と武家屋敷群* に新たな集客要素が加わり、知覧の観光客誘致にもプラス……とひらめくや、京子さんの行動は素早かった。すぐに資金を工面して薩摩英国館を開いたのだ。
軌道にのった頃、枕崎の茶試の研究者から「べにふうき」を試飲させてもらう機会があった。なんと力強くかつエレガントな味! 即座に店で使いたいと願い出たが、研究機関の茶試では種を販売できないとの回答。代わりに自家栽培を勧められたのだ。
さて、今年は開館30周年とのことで庭先の赤いロンドンバスも風格たっぷり。館内は真紀さんのコーディネートでリトル英国の趣。自家製スコーンはさっくり香ばしく、紅茶は羽化登仙の境地へ誘う。和みのさざ波にうっとりと身をゆだねていたいところだが、京子さんは茶園へ。わたしも従った。
敷地の片隅に小さい加工場があり、製茶用の道具が美しい。京子さんはさっさと茶樹の畝に入り、跳ねるように新芽を摘んでいる。その晴れ晴れとした笑顔が今年のセカンドフラッシュ(夏摘みの二番茶)の上出来を語っていた。
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旅人・文=向笠千恵子
写真=荒井孝治
――この旅の続きは本誌でお読みになれます。現在の和紅茶ブームのきっかけを作ったともいえる紅茶の品種 “べにふうき” 。その産地である鹿児島県枕崎、そして生産者たちが独自の紅茶作りに切磋琢磨する熊本県の水俣を訪ねます。おいしい和紅茶を探す旅、ぜひお楽しみください。
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出典:ひととき2022年11月号
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