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和紅茶に浸る旅 鹿児島・知覧でアフタヌーンティー(TEALAN薩摩英国館)

近年注目される国産紅茶。「和紅茶」や「地紅茶」とも呼ばれ、日本各地で多様な紅茶が作られています。温かい一杯が恋しくなる季節、日本のおいしい紅茶を探しにフードジャーナリストの向笠千恵子さんが向かったのは鹿児島県。知覧にある「TEAティアLANラン薩摩英国館」にて、紅茶のためにつくられた品種 “べにふうき” のおいしさを堪能しました――。(ひととき2022年11月号特集「鹿児島・熊本 和紅茶に浸る旅

「べにふうき」は人を夢中にさせる力があるらしい。枕崎に隣り合う知覧の田中京子さんファミリーはTEALAN薩摩英国館というティーサロンで紅茶文化を発信するだけでなく、「べにふうき」を無農薬で自園自製し、「夢ふうき」の商標登録を取得。さらに前記と同じコンテストに出品し、三つ星金賞を受けている。

 リーダーはグレイトマザーの京子さん。地元の開業医夫人として知覧活性化計画に関わっていた頃、三女が留学中のロンドンへ家族旅行し、長女・真紀さんともども紅茶にはまってしまう。そこで、幕末以来の薩摩と英国の深い関係に紅茶が結び付いた。知覧特攻平和会館と武家屋敷群* に新たな集客要素が加わり、知覧の観光客誘致にもプラス……とひらめくや、京子さんの行動は素早かった。すぐに資金を工面して薩摩英国館を開いたのだ。

武家屋敷群* 18代知覧領主・島津久峰時代の武士小路区割の名残で、武家屋敷通りと屋敷庭園がある国の重要伝統的建造物群保存地区

薩摩英国館から徒歩で10分ほどの知覧武家屋敷群へ。生垣にはチャノキが植えられており、撮影中に住民の方から「庭の茶樹で自家用のお茶を作る」とうかがう。お茶が暮らしに密着しているのだ

 軌道にのった頃、枕崎の茶試の研究者から「べにふうき」を試飲させてもらう機会があった。なんと力強くかつエレガントな味! 即座に店で使いたいと願い出たが、研究機関の茶試では種を販売できないとの回答。代わりに自家栽培を勧められたのだ。

 さて、今年は開館30周年とのことで庭先の赤いロンドンバスも風格たっぷり。館内は真紀さんのコーディネートでリトル英国の趣。自家製スコーンはさっくり香ばしく、紅茶は羽化うか登仙とうせんの境地へ誘う。和みのさざ波にうっとりと身をゆだねていたいところだが、京子さんは茶園へ。わたしも従った。

赤いロンドンバスが目印。英国側から見た薩摩の幕末史を学べる歴史資料館でもある
人気の「2段のコージーアフタヌーンティー」。スコーンやケーキ、サンドイッチはすべて自家製で絶妙な味!

 敷地の片隅に小さい加工場があり、製茶用の道具が美しい。京子さんはさっさと茶樹の畝に入り、跳ねるように新芽を摘んでいる。その晴れ晴れとした笑顔が今年のセカンドフラッシュ(夏摘みの二番茶)の上出来を語っていた。

セカンドフラッシュを丁寧に手摘みする田中京子さん 
夢ふうきティーパフェ(左)は、あっさりとしたティーゼリーと濃厚な夢ふうきのソフトクリームがベストマッチ! 右は肝付町つか集落の辺塚だいだいという柑橘のジュースを合わせた爽やかなアイスティー(TEALAN 薩摩英国館にて)

第20回全国地紅茶サミット in 南九州市
薩摩ティーフェス
鹿児島県では初開催となる全国地紅茶サミット。紅茶の飲み比べのほかフードコートやワークショップも開催。
[期間]11月5日(土)・6日(日)
[時間]10~16時(6日は15時終了)
[場所]知覧平和公園(南九州市知覧町郡17880)
入場無料 *全国地紅茶飲み比べには、チケットが必要となります(2,200円、写真の専用の薩摩焼ティーカップ付き)。

▼詳細はホームページをご覧ください

旅人・文=向笠千恵子
写真=荒井孝治

――この旅の続きは本誌でお読みになれます。現在の和紅茶ブームのきっかけを作ったともいえる紅茶の品種 “べにふうき” 。その産地である鹿児島県枕崎、そして生産者たちが独自の紅茶作りに切磋琢磨する熊本県の水俣みなまたを訪ねます。おいしい和紅茶を探す旅、ぜひお楽しみください。

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目次
[紅茶紀行1] 
“紅” 茶は南方のぼくなり 鹿児島(枕崎・知覧)
[コラム] 
おいしく楽しむ和紅茶の世界
[紅茶紀行2] 
みなまた和紅茶の “いま”  熊本(水俣)

向笠千恵子(むかさ・ちえこ)
フードジャーナリスト、食文化研究家。グルマン世界料理本大賞グランプリ受賞の『食の街道を行く』(平凡社新書)や本誌連載をまとめた『ニッポンお宝食材』(小学館)など著書多数。和食文化を食の俳句から解き明かす『Festin de haiku』(国際交流基金メキシコ文化センター)など海外にも発信。NHKラジオ「ラジオ深夜便」に出演中。

出典:ひととき2022年11月号

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