【東京銀器】江戸職人の伝統の技がモダンに息づく(東京都台東区)
かつて世界有数の銀産出国だった日本における、銀器の歴史は古い。平安中期の『延喜式』には銀製の食器や酒器の名が登場する。
それは長く特権階級のものだったが、江戸時代中期になると、経済力をつけた町人たちの間で広く銀製品が使われるようになった。
仏具や神輿の金具、煙管の雁首、櫛にかんざし……。銀座役所*が置かれた江戸ではさまざまな製品がつくられ、地場産業として定着していった。これが現代まで続く工芸品「東京銀器」の始まりである。
なかでも台東区に当たる地域は浅草寺をはじめ寺院が多く、また吉原遊廓や芝居町がある江戸随一の盛り場でもあった。銀製品の需要は大きく、職人が多く集まった。
「彼らはその時代の最先端をつくっていたんです。ぼくも、いま求められているものをつくりたい」
銀師*・上川宗達さんが2021(令和3)年にオープンした店舗には、湯沸かしやぐい呑みなどだけでなく、指輪、バングルといったアクセサリーが並ぶ。それらがみな伝統的な技法でつくられているのだ。
「東京銀器」は1979(昭和54)年、国の「伝統的工芸品」に指定された。
製作工程はほぼ手作業だ。主な技法は、地金を鎚で打ち出して成形する「鍛金」、たがねで絵柄を彫り出す「彫金」、模様を切り出して嵌め込む「切嵌」など。
伝統に裏付けられた卓越した手技は、超絶技巧につながる。泉健一郎さんの代表作のひとつ、般若心経262文字を彫り込んだブレスレットはその好例だ。なんと2ミリ四方に漢字1文字!
「銀という素材は、無限に姿を変えることができる。作品を手に取ったひとの心にも寄り添ってくれればいいですね」
月光のもとで渋く光る銀。日々使い込まれ、落ち着いた輝きを帯びる銀。東京銀器は、民衆の生活から生まれた江戸好みの美をいまに伝えている。
文=瀬戸内みなみ
写真=阿部吉泰
出典:ひととき2024年8月号
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