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【東京銀器】江戸職人の伝統の技がモダンに息づく(東京都台東区)

日本全国の“地域の宝”を発掘する連載コーナー「地元にエール これ、いいね!」。地元の人々に長年愛されている食や、伝統的な技術を駆使して作られる美しい工芸品、現地に行かないと体験できないお祭など、心から「これ、いいね!」と思える魅力的なモノやコトを、それぞれの物語と共にご紹介します。(ひととき2024年8月号より)

 かつて世界有数の銀産出国だった日本における、銀器の歴史は古い。平安中期の『延喜式えんぎしき』には銀製の食器や酒器の名が登場する。

 それは長く特権階級のものだったが、江戸時代中期になると、経済力をつけた町人たちの間で広く銀製品が使われるようになった。

 仏具や神輿みこしの金具、煙管きせる雁首がんくび、櫛にかんざし……。銀座役所*が置かれた江戸ではさまざまな製品がつくられ、地場産業として定着していった。これが現代まで続く工芸品「東京銀器」の始まりである。

* 銀貨の鋳造などを行う役所 


宗達アートクラフト 上川宗達さんのアクセサリーは99.99パーセントの純銀を主に使用。同じ形のものを大量生産することはできず、唯一無二

 なかでも台東区に当たる地域は浅草寺をはじめ寺院が多く、また吉原遊廓ゆうかくや芝居町がある江戸随一の盛り場でもあった。銀製品の需要は大きく、職人が多く集まった。

 「彼らはその時代の最先端をつくっていたんです。ぼくも、いま求められているものをつくりたい」

しろがね*・上川宗達そうたつさんが2021(令和3)年にオープンした店舗には、湯沸かしやぐい呑みなどだけでなく、指輪、バングルといったアクセサリーが並ぶ。それらがみな伝統的な技法でつくられているのだ。

* 銀細工の職人

銀師一家に生まれた上川宗達さん。「伝統工芸の魅力をどう発信するか、日々考えています」


宗達アートクラフト 鍛金の鎚目と「市松ござ目模様」を組み合わせたタンブラー

 「東京銀器」は1979(昭和54)年、国の「伝統的工芸品」に指定された。

 製作工程はほぼ手作業だ。主な技法は、地金をつちで打ち出して成形する「鍛金たんきん」、たがねで絵柄を彫り出す「彫金ちょうきん」、模様を切り出して嵌め込む「切嵌きりはめ」など。

鍛金の工程。地金を炎で温め、鎚で叩いて密度を高める

 伝統に裏付けられた卓越した手技は、超絶技巧につながる。泉健一郎さんの代表作のひとつ、般若心経262文字を彫り込んだブレスレットはその好例だ。なんと2ミリ四方に漢字1文字!

「銀という素材は、無限に姿を変えることができる。作品を手に取ったひとの心にも寄り添ってくれればいいですね」

銀泉いづみけん 般若心経のブレスレットはローマ字版も。正確さに驚く
泉健一郎さんは画家を志した後、銀工芸の道へ。作業場と彫金教室を兼ねる店舗で製作に打ち込む。

月光のもとで渋く光る銀。日々使い込まれ、落ち着いた輝きを帯びる銀。東京銀器は、民衆の生活から生まれた江戸好みの美をいまに伝えている。

銀泉いづみけん 「高肉〈たかにく〉彫り」という彫金技法で、小鳥の姿を打ち出す(左)、ペットの似顔も得意技。愛犬・愛猫がアクセサリーに(右)

文=瀬戸内みなみ 
写真=阿部吉泰

ご当地INFORMATION
●台東区のプロフィール
東京下町情緒を色濃く残す台東区。今もさまざまな伝統工芸の技を受け継ぐ職人が活躍する。東京都区部の中心よりやや東側に位置し、浅草寺やかっぱ橋道具街は観光地としても人気。また上野は博物館・美術館などが集まる芸術と文化の発信地だ。行事も盛んで、隅田川花火大会や酉の市など、1年を通して活気に溢れる。
●問い合わせ先
宗達アートクラフト
☎03-6231-7954
https://www.soutatsukamikawa.com/
銀泉いづみけん
☎03-3841-7361
https://www.izumiken.com/

出典:ひととき2024年8月号

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