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【現地ルポ】特別展「空也上人と六波羅蜜寺」の見どころをご紹介!(東京国立博物館)

仏像イラストレーターの田中ひろみさんが、東京国立博物館で開催中の特別展「空也上人と六波羅蜜寺」の見どころをご紹介します!
[会期:2022年3月1日(火)〜5月8日(日)]

文=田中ひろみ

2022年は、空也上人の没後1050年にあたります。空也上人立像が東京で展示されるのは半世紀ぶりとあって、開幕前から非常に注目されていましたが、じつはこの特別展、空也上人立像以外にも、六波羅蜜寺に安置されている運慶作の地蔵菩薩坐像や、伝平清盛坐像など数多くの鎌倉肖像彫刻の傑作が展示されているんです!

空也上人と六波羅蜜寺

空也上人は「市聖いちのひじり」とも呼ばれ、「南無阿弥陀仏」ととなえることで極楽往生を願う“阿弥陀信仰”を広めた平安時代中期の僧侶です。六波羅蜜寺はその空也上人が951年に創建した古刹で、創建時は西光寺さいこうじといいました。周囲は、鳥辺野とりべのという葬送の地で、あの世とこの世を隔てる信仰の場でもありました。本展では、その独特の立地による信仰の蓄積を見ることができます。

空也上人立像は、普段安置されている六波羅蜜寺の宝物館では、後ろ姿を拝観することができません。今回の特別展は、そのお姿を360度拝観することができる非常に貴重な機会なのです。

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重要文化財「空也上人立像」 康勝作 鎌倉時代・13世紀 
京都・六波羅蜜寺蔵

右手に持つ橦木しゅもくで首から提げた鉦鼓しょうこを叩き、京の町を歩きながら念仏をとなえている様子を表わしています。写実的な作風が好まれた鎌倉時代の仏師、運慶の四男・康勝こうしょうの作で、とてもリアルです。細い足には血管も浮き出ています。

半開きの口から出ている6体の阿弥陀如来は、空也上人が「南無阿弥陀仏」ととなえると、その声が阿弥陀如来の姿に変わったという伝承を立体的に表現したものです。

前後、左右、上下と観る角度によって、表情も違って見えます。水晶が入った目(玉眼)がキラッと見える角度もあり、まるで生きているようにも感じられます。

左手には、鹿のつのを頭につけた杖を持っています。それはなぜかというと、空也上人がかわいがっていた鹿を、猟師の平定盛(他説あり)に殺されてしまいました。そのため、空也上人は殺された鹿の角を杖の頭につけ、皮をはいでなめして衣にして着ているそうです。のちに、平定盛は空也上人の弟子になったとされます。きっと、空也上人って慈愛に満ちた人だったんだろうなぁと思います。

杖には小さな蓮の花のつぼみも彫られています。よく目を凝らしてご覧ください!

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田中ひろみ画「空也上人立像」
仏像イラストレーターが作った 仏像ハンドブック』より

貧しい少女を救った僧侶の正体

左手に髪の毛を持つのが、別名「鬘掛かつらかけ地蔵」とも呼ばれる珍しい地蔵菩薩立像です。

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重要文化財「地蔵菩薩立像」 平安時代・11世紀 京都・六波羅蜜寺蔵

その昔、父親が留守の間に母親が亡くなり、葬儀も出せず困っている娘がいました。すると旅の僧侶が尋ねて来て、弔ってくれたといいます。娘は貧しかったので、お布施に母親の鬢(頭髪)を渡しました。その後、六波羅蜜寺にお参りすると、地蔵菩薩の手にその鬢が握られており、「あの親切な僧侶は、この地蔵菩薩の化身だったのか……」と気づいたそうです。この像は、そんな言い伝えに基づいて造られました。衣には、菊の花などを模した美しい截金きりかね文様が施されています。

“アヒル口”の薬師如来坐像

万病を癒す薬が入っていると言われる薬壷やっこを手に持ち、真ん中に座っているのが「薬師如来坐像」。伏し目がちで、アヒル口をしたかわいい像です。

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中央:重要文化財「薬師如来坐像」 平安時代・10世紀 京都・六波羅蜜寺蔵
左右:重要文化財「四天王立像」 平安時代・10世紀 京都・六波羅蜜寺蔵(増長天のみ鎌倉時代・13世紀)

甲冑を身につけ、その両脇を固めているのが四天王立像。四天王像は足元に邪鬼を踏んでいることが多いのですが、この四天王立像はどの像も邪鬼を踏んでいません。

この四天王立像は、空也上人が西光寺の本尊である十一面観音立像(現在の六波羅蜜寺の秘仏本尊)を造立したときに造像されたと考えられています(※増長天のみ、鎌倉時代の補作)。

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空也上人ファンクラブ公式サポーターのみほとけちゃんと、私。みほとけちゃんは、口から6体の阿弥陀様を出してます。うしろに写っているのがアヒル口の「薬師如来坐像」(重要文化財/京都・六波羅蜜寺蔵)

運慶の“夢の中”に現れた美しい地蔵菩薩

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手前:重要文化財「地蔵菩薩坐像」運慶作 鎌倉時代・12世紀 京都・六波羅蜜寺蔵

鎌倉時代の仏師、運慶作の「地蔵菩薩坐像」。手には、あらゆる願いを叶えるといわれる宝珠ほうじゅを持っています。ほおが張り若々しいお顔。こちらも玉眼で、輪っかの耳飾りをしています。流れるような衣のひだがとても美しいです。運慶が夢のなかに現れた地蔵菩薩の姿を彫ったとされ、別名「夢見地蔵」ともいわれています。

運慶、湛慶、平清盛がズラリと……!

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左から:
重要文化財「伝運慶坐像」 鎌倉時代・13世紀 京都・六波羅蜜寺蔵
重要文化財「伝湛慶坐像」 鎌倉時代・13世紀 京都・六波羅蜜寺蔵
重要文化財「伝平清盛坐像」 鎌倉時代・13世紀 京都・六波羅蜜寺蔵

向かって左は、運慶と伝えられている坐像です。頭頂部が尖っていて個性的です。私は、運慶が好きすぎて『マンガでわかる天才仏師!運慶』(JTBパブリッシング)という本まで描いています。真ん中は、運慶の長男である湛慶の坐像と伝えられています。やや四角い顔をされています。そしていちばん右が、平清盛と伝わる坐像。経巻を手にし、にやりとほくそ笑んでいるようにも見えます。

特別展「空也上人と六波羅蜜寺」会場特設ショップは、グッズも充実しています。

特設ショップへご入場の際、欠品または完売している商品がある場合があります。フィギュア「六波羅蜜寺公認 空也上人立像」の販売については、展覧会公式サイトをご確認下さい。

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「空也上人立像」初の公式フィギュア「六波羅蜜寺公認 空也上人立像」(海洋堂制作)<税込9,800円>

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特別御朱印「空也」<税込700円>

口を開くと阿弥陀仏が出てくるオリジナルインスタグラムエフェクト「なりきり空也上人」が公開されていて、誰でも空也上人になりきれます。
https://www.instagram.com/ar/842113443119855/

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「なりきり空也上人」を実践する私

京都の六波羅蜜寺のお宝を、東京の上野で間近でじっくりと拝観できるというまたとない素晴らしい展覧会です。

*写真は、特別な許可を得て撮影

特別展「空也上人と六波羅蜜寺」
会期:2022年3月1日(火)~2022年5月8日(日)まで開催中
会場:東京国立博物館 本館特別5室
住所:東京都台東区上野公園13-9
電話番号:050-5541-8600(ハローダイヤル)
開館時間:9:30〜17:00 
休館日:月(3月21日(月・祝)、28日(月)、5月2日(月)は開館)、3月22日(火)
観覧料(税込):一般 1,600円、大学生 900円、高校生 600円、中学生以下無料
※事前予約(日時指定券)推奨
https://kuya-rokuhara.exhibit.jp

▼田中ひろみさんのご著書

◉『仏像イラストレーターが作った 仏像ハンドブック
仏像拝観が好きでたまらない人、拝観してみたいビギナーに向けて、仏像イラストの先駆者である田中ひろみさんが、“仏像旅"のコツや、仏像を前にしたときの必要な知識(仏像の種類や手にする道具、装飾など)のキホンを、漫画とイラストで紹介。仏教の世界観や仏像そのもの、お寺の配置など、ちょっとした知識が増えるだけで、仏像拝観は10倍、20倍の深さと面白さに変化します。

◉『東京・鎌倉仏像めぐり
日本各地を歩いた仏像イラストレーター・田中ひろみさんが絶賛する東京・神奈川の仏像とは? 田中さんが常日頃、ふらっと見に行く素敵な仏像を、すべて書き下ろしていただきました。その数50以上。イラストにすることで細部までよくわかること、また仏像のお顔や体型、衣の着方、指の形など、見て楽しいポイントも丁寧に解説しています。 お守りなども載せてあるので、お土産の参考にも。また、仏像の基礎知識もわかりやすく丁寧にまとめました。仏像初心者の方も、本書をおともに、ぜひ気楽に仏像めぐりへ。

◉『東海仏像めぐり
仏像というと、京都や奈良、鎌倉といったイメージがありますが、
じつは東海エリアも仏像大国。仏像初心者の方も、仏像がお好きな方にも楽しんでいただけるよう、イラストとエッセイでわかりやすく解説。これからの時期、本書を片手にぜひ東海地方へ。

田中ひろみ
イラストレーター&文筆家。大阪府堺市出身。幼い頃から絵の仕事がしたいと願うが、両親の希望に添いナースになる。お金をためてから退職し、「セツモードセミナー」で絵を学ぶ。仏像本をたくさん出し、講演や仏像ツアーも行なう。女子の仏教レジャーサークル「丸の内はんにゃ会」代表や、奈良市観光大使も務める。

▼仏像について、初心者向けにわかりやすく解説した記事はこちら


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