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【八千代 寿し鐵】駿河のにぎり(静岡県静岡市)|柳家喬太郎の旅メシ道中記

当代一の落語家・柳家喬太郎師匠。お声がかかれば全国あちこち、笑いを届けに出かけます。旅の合間の楽しみは、こころに沁みる土地の味。大好きなあのメシ、もう一度食べたいあのメシ、今日もどこかで旅のメシ──。この連載「旅メシ道中記」では、喬太郎師匠の旅メシをご紹介します。

 脂質と糖質にまみれているこの連載ですがね、今回はヘルシーよ。お魚ですもの。それもお鮨。静岡は駿府城公園近くにある「八千代 寿してつ」の握り鮨です。

 普段は大概回ってくるお鮨を食べてるあたしが、なぜこちらにうかがうのかといいますと、店の座敷で「寿し鐵寄席」という落語会を開いてくださってるからなんですねぇ。会の後でご馳走になる握りがおいしくって、お呼びがかかると嬉々としてうかがってます。

 ネタは焼津やいづ港から毎朝仕入れる駿河湾の地魚。その新鮮さも魅力ですが、御年80歳の大将・大鹽おおしお正一さんがとてものいい方で、まさに竹を割ったような性格。そんな大将と、ご子息で5代目の敦之さんが握ってくれるお鮨は、おふたりの人柄通りのてらいのない真っ直ぐなおいしさです。

 真っ直ぐなのは「寿し鐵寄席」にお越しになるお客様も。時にすし詰め状態になりながらもよく聴いて、よく笑ってくださる素直なお客様で、とってもりやすい。この会自体が地元の方に愛されているのがよーくわかります。あたしは3〜4回お世話になりましたが、落語家以外にも、講談、浪曲、紙切り、漫才、歌謡漫談まで、じつにさまざまなジャンルの芸人が出ているんです。過去の根多ねた帳を拝見したら懐かしい名前をたくさん見つけました。ハーモニカ漫談の源氏太郎先生、浪曲の国本くにもと武春おにいさん、先代の入船亭扇橋せんきょう師匠も。扇橋師匠なんて3席中2席が長いまくらと唄入りの「二人旅*1」ですからね。のんびり楽しそうに喋っている姿が目に浮かびます。それにしても大将、随分演芸好きなんですねぇ。

「いやいや、好きになったのは地域寄席を始めてからなんですよ。もっとも、奉公先が日本橋人形町の料亭でしたから、すぐ近くに人形町末廣*2があってね、座布団持って朝から晩まで入り浸ったもんです」って大将、その時点で十分演芸好きです! 

 日本橋の料亭で腕を磨き、魚と芸人を見る目を養った大将。実家の鮨屋を継ぎ、地域を盛り上げようと始めた落語会は今年で25年目を迎えます。

 今は由比ゆいの桜エビが旬ですし、「昔の浅草海苔に負けないくらい香りがいい」と大将が太鼓判を押す、浜名湖産の海苔を使ったすきみトロの手巻き寿司も絶品よ。

 静岡おでんや鰻もおいしいけどね、みなさんぜひ、駿河に来たら、八千代 寿し鐡で「すし食いねぇ」。(談)

談=柳家喬太郎 絵=大崎𠮷之

*1 古典落語の演目のひとつ。仲の良い江戸っ子二人ののどかな道中噺 
*2 日本橋人形町3丁目にかつて存在した寄席。1970(昭和45)年1月閉場

【八千代 寿し鐵】
焼津小川港直送の地魚をはじめ、御前崎のカツオや由比の桜エビ、用宗〈もちむね〉のシラスなど、駿河湾の旬の魚介を使った鮨を良心的な価格で提供。山葵やお茶、海苔に至るまで静岡産にこだわる。2カ月に一度、奇数月の第3月曜に2階広間で「寿し鐵寄席」を開催(変更の場合あり)。

八千代 寿し鐵
☎054-255-5511
[所]静岡県静岡市葵区八千代町63-4
[時]11時~14時、16時30分~22時
[休]水曜
[料]駿河のにぎり(駿河湾近海物10貫盛り合わせ)3,300円
http://www.y-sushitetsu.net/

柳家喬太郎(やなぎや・きょうたろう)
落語家。1963年、東京都世田谷区生まれ。大学卒業後、書店勤務を経て89年に柳家さん喬に入門。2000年真打昇進。好きな鮨ネタはイカ。「イカは刺身、フライ、天ぷら、松笠焼きにしてもうまい。つまりイカが好きなのよ」

出典:ひととき2024年4月号

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