「デキる人だったけど大嫌いだった39歳上司に」
以前、仕事でご一緒させていただいた上司は絵にかいたようなデキる男だった。
金をもってる。余裕をもってる。部下の面倒とみる。叱ることができる。情報を集める。
人に言えない過去がある。
若い社員は彼を慕っていた。学びがあるのだという。
ベテランの社員は彼を一目置いていた。素晴らしいのだという。
でも自分とはうまくいかなかった。
結果をだせと急かされ、褒められ、怒られ、励まされた。
きっと彼も焦っていたのだろう。組織をつくろうとポジションを狙っている人だったから。
「いつになったら独り立ちできるんだ?」
「若い転職組の家族持ちが入ってきたら、そいつらは死にもの狂いで仕事するぞ。あなたは居場所をなくしていくぞ」
「出来てないって言葉は聞きたくない。YESかNOだけ言え」
「くたばれ」
「お客さんを不安にさせるな、何の嫌がらせだ」
「センスがない」
「その言葉はオレに能力がないって聞こえる」
「貧乏人がくるところじゃない」
努力したつもりだった。
雨の日には一日中現場にいた。休みの日には土地を見てまわった。資料をそろえた。ライバル企業を覚えた。自分の声を録音してテンポをとる練習をした。
そして空回っていった。ベランダに出るのが怖くなっていった。飛び降りたくなかった。
結局、心身を病気扱いにして辞職した。短すぎる期間だった。
自分への情けなさと同時にほっとした。もう無理しなくてもいいんだと、別の方法もあるのだと、田舎者でいいんだと思えた。
自分も上司のようになりたかった。でも頭が働かなくなっていた。
すみません。不甲斐ない部下でした。お仕事させていただけたこと嬉しかったです。
暑すぎる夏の日に、会社の未来を夕暮れのなかでお聞きできたことが脳裏に焼き付いています。ただただ、申し訳ありませんでした。お役に立ちたかったです。
・・・転職して1年がたった。やっと振り返れるほど心にかさぶたが出来てくれた。
無理しても続けられる仕事はなかったって話をしたかっただけ。
読んでくれてありがとう。いっしょの気持ちになれる部分があったら少しうれしいです。