【超短編】口下手な僕のかわりに愛を歌えロサ・ダマスケナ
新しい香水が欲しくなるのは、天秤がが内省的にかたよるときと決まっている。うちがわの空虚をどこかに結び付けたくて、言い表しにくい感情、名伏しがたい思いの機微を埋める物語を、睡眠薬でも貪るように手さぐりしたくなる。ひと癖もふた癖もある名を享けたドラマチックな香りの旋律を、誰かの人格を歩みなおすように、首筋にまとう。けさ僕を選んだのはダマスクローズの甘辛いパルファムだった。トルコ原産の華やかさと背中合わせに、涙のにじむ煙の気配が、粘膜を軽くいぶす。いいようもなく肌馴染みが良い。生