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391 創作 はじめ
はじめ
手を左にやると、彼女は最初は逃げるようにさらに左へ体を傾けた。ほとんど同じ温度の皮膚同志で密着する方が、指先のようなそれよりも少し冷たい部分で触るよりも気持ちがいいのではないか。体を寄せて腹部で背中に密着する。
おれの指は普段、コンクリートや砂利や土を掴んでいるから、ゴツゴツしていてきっと嫌なのだろう。
それなのに、彼女は右足を軽く持ち上げると、おれの両手をその間に挟み込んだ。固いだけではなく、爪もあり、いくら風呂に入っても汚れの取れない指を、滅多なことでは他人に触れさせない部分で挟み込む。
「冷たい」と呟くが、それは非難ではなく、笑みを含んでいる。
そうか、この指が欲しいのか。
恐る恐る指を奥へ進めていくと、彼女は少し体をよじるものの逃げたりはしなかった。
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