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37 ヒゲを剃ると思い出す

月曜日にヒゲを剃る

 それほどヒゲは濃くない方だとは思う。少なくとも朝剃って、夕方にまた剃る必要は感じない。いや、翌日も剃る気がしない。翌々日にはさすがに剃ろうかなと思う。だから、月、水、金みたいな感じになりがち。祝日などがあると月、水のみになることもある。
 いま使っているのは充電式のフィリップス。かれこれ10年は使っている。皮膚を痛めないというので試してみて、それがあまりにもソフトすぎて、剃るのに時間がかかった。それが嫌で、それまで30年ぐらい使っていたブラウンに戻る。ところが、ブラウンは短時間で深ぞりできるけれど、なぜか私はどこかの皮膚を削ってしまい血が滲むのだ。
 それが、替え刃の必要があり、それを手に入れるまで、再びフィリップスを使ったらそれっきりずっとフィリップスになってしまった。
 こちらが慣れたのだ。感覚的に3分ぐらいで終わるひげ剃りが、そこから8分ぐらいになった。朝の、この8分は貴重であるが、皮膚が削れることはないので、その方が気分がいいことに気付いたのだ。

貝印とジレット、シック

 はじめてのひげ剃りは、貝印の安全カミソリを、金属製の柄にセットして使っていた。もちろん、最初は血だらけになった。血が出るとオロナインをつけてちり紙かティッシュを当てて、出掛けるまでに止まることを祈った。
 高校時代に、ジレットとかシックの製品を使うようになった。2枚刃の登場である。1970年代になって2枚刃であるとか、カートリッジ式(カミソリの交換が簡単)など画期的な進歩があったものの、やっぱり下手をすれば血が出た。
 そもそも「切れてない」というセリフは、シックのカミソリの宣伝で初登場したもので、その後、長州力によって「切れてないですよ」とぜんぜん違う意味で使われ、それを長州小力がマネをして一般化した、と私は解釈している。
 それぐらい当時は、「なんでヒゲを剃るだけで血を出さないといけないんだ」と思う人が私だけではなかったのだ。

ブラウンの信奉者

 大学に入るときに、父親からブラウンの電動ひげ剃りを貰った。これは便利だった。深ぞりできる。短時間で終わる。滅多に血は出ない。最初のブラウンは、当時、銀座三越の上の方の階にあったサービスセンターで修理までしてもらい、「大切に使ってくれてありがとうございます」とか言われたりしつつ10年以上使った。
 替え刃が手に入らなくなり、次のブラウンを購入したあたりから、ブラウンに対する絶対的な信頼感が薄れていく。悪くはない。悪くはないが、やっぱりたまに皮膚が削れてしまう。
 初代はコンセントに差し込むタイプだったが、二代目からは充電式になる。このあと、当時、もっとも優れた洗浄装置付きのブラウンを使ったものの、洗浄装置はおカネが掛かりすぎるので途中でやめたし、以前ほど剃り味に満足できなくなってしまっていた。皮膚が削れることは減ったものの、なんだか思った感じではないのだ。
 そこにスッと入ってきたのがフィリップス。ブラウンとフィリップスはヒゲを剃るメカニズムが違う。そのため皮膚を痛めないという。ついに、浮気をしたのだ。ついつい。
 そのあまりのソフトさに腰が砕けるほどであったものの、なんといっても時間がかかる。それで再びブラウンを引っ張り出した。が、やっぱり皮膚が削れることがある。自分も悪いのだろうが、どうしてもそうなる。
 そしてフィリップス。以後、ずっとフィリップスになって今日に至る。
 今朝も、のんびりとフィリップスを使う。最初から時間はかかるものだと思っているので焦らない。焦らない時間にやるように注意すればいい。それに、以前ほどそり残しを気にしなくなった。
 こうしてブラウンの信奉者をあっさりとやめてしまったのである。きっと最新のブラウンは気持ちよく短時間に剃れるだろう。それは疑わない。疑わないのだが、いまの自分にはフィリップスでいい。
 たぶん、フィリップスの信奉者にはならない。それは出会いと年月の差であろうから、仕方が無いことだとフィリップスには諦めてもらおう。
 

 
 

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