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332 詩 フィクション
ないものねだり
奥さん、そんなことを調べてどうするつもりなんです?
探偵は渋る。結末を想像しているからだ。あるいは最後まで調べきれないかもしれないからだ。
どこまで調べたら気が済むのか、それがわからない。何日、何週間、何カ月。
もしかすると、日当計算をしたらとんでもない費用となるかもしれない。そんなに払ってまで知りたい結末なんてあるのだろうか?
知らない方がいいことなど、ない。知った上で知らないフリをする方がいい。そう奥さんは言う。
それは違いますよ。知ってしまったら、知らなかったフリなんてできなくなる。知らなかった頃の自分には二度と戻れないんですからね。
戻りたくない。
それは。
探偵はもう少しで引き受けそうになる。それは同情だろうか。金勘定だろうか。あるいは一種の恋。恋に種類があるならば。
依頼人に恋をするのは探偵稼業について多くの人たちが関心を持つようになってから、常識となっていた。その結末は悲恋。
心を痛める分だけ、前払いして貰わなければ割りに合わない。
お互い、ないものねだり。
ここに答えはありません。答えを探してどこへでも行かなければなりません。その答えは、きっと奥さんの気に入るものではありません。
知りたい。それだけですよ。それだけなんですよ。
冷たい気持ち
おれの心はここにはない。きっと、どこか遠くの山の中にある、とても深い池の底に沈んでいる。
そうでなければ、探偵稼業をしているはずがない。
心がないと少し不便なので、仮になにか適当に詰め込んでいる。そこには血は通わない。池の底と同じぐらい冷たい。
それなのに恋などするのだろうか。
それを考えながら、もう何日、答えを探しているのだろう。相変わらず、奥さんは諦めていない。おカネならいくらでも払います、と言う。おカネで片づく段階は最初から飛び越えていたのに。
経費は足りていますか。次はどこへ行くつもりですか。誰と会うつもりですか。答えを見つける方法は見つかりましたか。
遠くから届く奥さんからの言葉を噛みしめながら、いつまでも冷たいままの心を抱えて、おれはまた歩く。走る。そして歩く。タクシー、飛行機、列車、船。
雨に濡れて、風に煽られて、雷に脅えて。
どこにもないものを、どこにもないと証明するために。
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