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……の中国旅行(4) 夫の実家、見渡す限りの平野 水産物と米の国(一)
Vol. 32 中国旅游
今年の9月下旬、私は4年ぶりに中国への里帰りし、事前の計画も目的地もはっきりしない行き当たりばったりの旅にしました。その道中で経験したこと、感じたことをここでシェアします。
上海で2日間滞在した後夫の実家に向かいました。
30年以上前の田舎
夫の故郷は江蘇省、塩城市、江湖県、収成村というところです。45年前、夫はここから大学に進学し、田舎を出てからどんどん故郷を遠く離れてしまいました。
30年以上前、私は夫の嫁となり、夫に連れられて初めて彼の故郷を訪れました。ご両親に会い、兄弟姉妹に受けられました。それ以来、何回か夫の実家へ行きました。
私は毎回、遠くからの大切なお客のように扱われ、家族全員にいろいろと世話になりました。親戚たちから順番で食事に招待されたあと、私はバッグいっぱいのお土産を持って住んでいる都会に戻りました。
夫の家族の一員になりましたが、夫の故郷のことはよく知りませんでした。
当時、夫の家までの道のりは、長江を船で約50時間、その後長距離バスを丸一日乗り継ぎ、さらに小舟で2時間ほどという長旅でした。
村の道は狭くぬかるんでおり、生活用水は川から汲み、水を透明にするためにミョウバンを常に水槽に入れてありました。
トイレは家の外にあり、田舎ではよくあるような、大きな糞のタンクの上のほうに両側の壁に固定され木の棒を「便座」にしたものでした。私は田舎へ行くたびにいやがるのは、そんな不気味なトイレでした。
夫が子供の頃の話をするとき、いつも口にしたのは、小魚やエビが無尽にとれる家の前を通る川、一面に広がる蒲畑やレンコン畑、どこまでも続く葦の湿地、秋になると越冬のために飛来する野鴨、そして時折見かける雁や白鳥......。 私は夫の実家の魅力はあまり感じられませんでしたが、夫の故郷の思い出から、詩的な江南の水郷の風景を想像したのです。
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別荘に住む農民
上海から高速鉄道に乗って2時間半で建湖県に着き、ここから車で30分ほどで収成村に到着。建湖に住む親戚が、夫の兄夫婦の家の玄関先まで車で送ってくれました。
兄夫婦はずっと故郷に暮らしています。かつて私が滞在したときに使っていた部屋は兄夫婦の家の一部でした。数年前、中国の「新しい農村推進」というプロジェクトのなかで、彼らは画一的に計画・建設された「新農民の村」の住宅に引っ越しました。
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2階建て家の居間、寝室、台所、浴室の内装は、都会と同じように快適で清潔で便利です。どの家にも庭があり、花や草、植樹木が植えられています。私たちが滞在したときはキンモクセイの花が満開で、村を歩いていると、キンモクセイの香りと、家々の庭に咲いているさまざまな花に惹かれ、とってもいい気分でした。
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村には小さな川が流れており、昔と変わらずその川で物を洗う住民もいれば、釣りをする人もいます。住宅地の端には黄金色の稲田んぼが広がり、その両側は外の幹線道路につながっています。
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その頃は大豆とゴマの収穫期で、農家は家の前で収穫した大豆とゴマを干していました。天日干しした大豆枝ごとを地面や橋の路面に置いて、往来する車の走りに任せ、豆がさやから外れるようにする人もいました。
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時折見られる農民の労働の光景がなければ、静かな新しい農村の住居と都会の別荘の違いはほとんどないでしょう。
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カニを食べるベストシーズン
10月初旬はカニの収穫時期でもあり、夫の実家はカニが豊富な地域です。毎朝、私たち散歩で川まで歩いていくと、養殖場からカニを積んだ漁船が葦の方角からやってくるのがいつも見えました。 漁師たちは停泊後、カニを村の集荷場まで運び、そこで一匹ずつセレクトされ、合格した蟹がすぐに出荷されました。
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ここにはカニにまつわる伝説があります。
江蘇省にある陽澄湖のカニは全国有名ですが、市場の需要に間に合わないのです。そこで、この村のカニを陽澄湖に運ばれ、数日間そこに養殖すれば、それらのカニは「陽澄湖」のブランドカニとして堂々と市場に回ることになります。
これは単なる冗談かもしれませんが、塩城・建湖のカニがブランドカニとして十分に通用することを示すものでもあります。
今回の帰国の間、どこに行っても、招待される料理の中にカニがありました。カニは最高級の旬の味覚であり、値段が高いだけにホストのもてなしがより一層感じられました。
兄夫婦の家では、毎食、新鮮なカニや当地の魚が食卓に並べました。上海から一緒に田舎に帰った親戚によると、これらの水産物が上海より安く、魚やカニの味も上海では食べられないほど美味しいと言いました。
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田舎の癒しを求める都会の人々から見ると、このような帰られる故郷があることはうらやましいことです。私は毎日これだけ贅沢に飲み食いしていることに、居食いするような一抹の不安を覚えました。
月さまを祀る中秋節
中秋節と国慶節の2祭日大型休みを兄夫婦の家で過ごしました。中秋節当日はずっと雨が降っていて、兄嫁は朝からいろいろ忙しそうにしていました。おこわを作ったり、市場でレンコンやいろいろ食べられる水生植物を買ったり、爆竹も買いました。 午後まで、それがすべて夜の月さまを祀るためと、私が気づきませんでした。
この地域に月さまを祀る風習があると初めて知りました。
旧暦の八月十五日には、月さまにお供え物をし、祀るという形で家族団らんと健康、幸福を祈るのです。
私は中秋節にすることは、月さまを眺め、月餅を食べ、嫦娥が月へ飛んでいたという伝説を繰り返すことだと思っていましたが、義姉の話によると、この日にはどこの家でもお供えを並べ、幼い頃から毎年の八月十月さまを拝むそうです。
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夕暮れになると、兄が長い爆竹列を地面に並べ、火をつけると、こちら側からも隣の家からも爆竹のパチパチという音が響きわたり、煙が空中に充満しました。雨が降っていなければ、月を祭る台が中庭に設けていたそうです。月餅、おこわ、ごはん、水生植物らのほか、リンゴ、柿、ブドウ、ザクロ、バナナ、ドリアンなど季節の果物も供えられていた。
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午後、月さまを祀ると知った私は日本の中秋の名月にいけばなを活けることを考え、雨の中田んぼの畝や川辺で切った野花と葦を花瓶に生け、月見の台の端に供えるました。
この地域の人々が昔から月さまを祀る風習を受け継いでいきました。彼らが日々の生活を営むのだけでなく、詩的な中秋の夜もあるということに、私は驚き、感動しました。
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収成村での数日間、私は若い頃に想像した夫の故郷の風景に出会い、現実の美しさは私の想像をさらに超えました。または、村人たちの文化的な娯楽や村の外の見渡す限りの水網地帯は、魚と米の国という確実な印象を与えてくれました。(つづき)
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文:欧陽蔚怡
写真提供:李偉,陳亮
写真効果調整:陳塁
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