『熱帯』
これは実話をもとにした #わたしの熱帯 であります。
二〇一八年晩夏。社会人二年目のわたしは、少し遅い夏休みを取ることにしました。最高に特別なサマーバケーションを過ごすことにしたのです!
行き先はもう決めてあります。
先日、旅行会社の前を通りかかった時に、目に飛び込んできた青と白のポスター。
青い空、青い海、青い屋根、白い壁。そう、サントリーニ島です。
ギリシャのアテネまで飛行機に乗り、小型機に乗り換え、島へ向かうのがベストルート。慣れない英語に苦戦しつつ、事前に飛行機とホテルの予約を済ませ、チケットを取ったはずだったのですが・・・。
「お客様のお名前でご予約はございません」
アテネでサントリーニ島行きの小型機に乗り換えるため、チェックインカウンターで名前を告げたところ、衝撃のひとことを告げられました。発音が悪いのかと思い、もう一度名乗ってみます。
「シライシ...シライスィ...!」
窓口の女性スタッフは首を横に振るばかり。どうやら発音の問題ではなさそうです。困り果てていたところに、「彼女はわたしの連れだよ」と言う声が降ってきました。
見上げると紳士風のギリシャ人男性。白髪に紺のスーツがお似合いです。どなたかは存じませんが、藁にもすがる思いでわたしは必死に首を縦に振りました。
数時間後・・・
揺れる機内で酔いつつ、無事、島に到着です!
小型機から降りると、カラリと晴れた空に、強い陽射しがまぶしく、思わず目を細めます。先ほどの初老の紳士は機内で隣に座り、「アレクサンドロス」と名乗りました。この小型機のパイロットの親友だそうです。慣れない英語でかろうじて聞き取れた単語をつなげると、わたしはどうやら彼の奥様に似ており、呆然と立ち尽くす姿を見て、放っておけなかったのだとか。
小型機を降りる直前、飛行機に乗せてもらったお礼に、彼にだるまちゃんのキーホルダーを差し上げました。道中、助けていただいた方々にお配りしようと、日本を発つ前にいくつか購入していたものです。
だるまちゃんはさっそく紳士のハートを射止めたようで、しきりに撫でられていました。だるまちゃんナイス!
空港にはホテルの車が迎えに来てくれました。宿泊先は、「ミレーナ・ヴィラ」という名のこじんまりとしたホテル。
チェックインを済ませて部屋に入ると、窓からは海が見渡せ、心地よい風が窓のカーテンを揺らしています。
サントリーニ島の砂浜は、理由はわかりませんが黒砂です。
ビーチには何百ものパラソルが開かれており、その姿はまるで熱帯に咲く大輪の花のよう。
...ねっ...たい?
そういえば、海の向こうに見える島には、ヤシのような木が生えています。遠近法を使って、手元にあるだるまちゃんをその島にぽんっと置いてみると、本の表紙にでもなりそうな気がしてきます。
そうだ、この旅の話を小説にしよう。わたしは愛用の黒いモレスキンを開き、新しいページに「熱帯」と書き留めました。
つづく