百花蜜を見直してみる(ハチミツの販売について④)

 百花蜜とは、「百花」と言う花の蜜ではなく、いろいろな花の蜜が入ったハチミツのことを言います。「百花」という名称から数えきれないくらいの花の蜜が入っている印象もありますが、複数(二種類以上)であれば百花蜜と言えます。
 反対に単花蜜と言うと1つだけの花の蜜と言うイメージですが、ざっくり7割以上が同じ花の蜜であれば単花蜜として「○✕の蜜」として売っているようです。
 どうでしょう?養蜂家以外のひとからしたら、ちょっと裏切られた感じありませんか?
 厳密な表記を求められがちな昨今の状況からみるとあまりにアバウトな規格です。

 でも、それも仕方のない事情があります。
単花蜜を採る場合、目的の花が咲く直前に巣箱の中の蜜を絞ります。そこから花期の終了を見計らって蜜を絞ることで1つの花の蜜になるようにしているのです。ミツバチは、お互いに花の場所を教えあって集める習性があるので同じ花の蜜を集めることが出来るのですが、厳密にはそうはなりません。

 まずひとつに、教わった場所に行かない蜂が少ないながらも一定数いることです。単花蜜を採りたい養蜂家からすれば余計な行動とも言えますが、一箇所で採れる蜜の量には上限があるので、次の候補地を見つけると言う観点からみれば合理的です。
 もうひとつは、同じ花が一日中朝から晩まで蜜を出しているわけではないことです。朝だけ、昼だけ決まった時間帯にしかたくさん蜜を出さない花があります。そうすると蜂はもちろん他の花の蜜を探しに行きます。
 こういった訳で単花蜜と言いながらも他の蜜がどうしても混ざってしまうのです。

 では、単花蜜と百花蜜どちらがよい蜂蜜なのでしょうか?

 一般的な養蜂家であれば単花蜜の評価が高いはずです。理由があります。ひとつには単花蜜を採ると言う技術的なプライドから。もうひとつには、大手の養蜂場の買い取り価格が単花蜜の方が高いことからです。
 大手の養蜂場は自分のところで採れるハチミツだけでは年間の販売量をまかないきれません。小規模の養蜂家から買い集めています。
 そうすると混ぜて均一にして販売することになりますので、単花蜜の方が違いが出るし、味の想像がしやすいので量販店で販売する際にも味見なしで売ることができます。百花蜜を混ぜると味が平均化されていくので量が多くなるほど無個性なハチミツになります。大手の養蜂場にとっては、単花蜜である方が商品価値が上がることになるので必然的に単花蜜の買い取り価格も高くなると言う訳です。

 でもこれは、大手の販売の都合から考えた時の話。ハチミツの消費者から考えると味や香りがどうなのかが大事なはずです。
 結論から言うとゆっくりと時間をかけて採ったハチミツの方が香りが複雑で豊かなハチミツになりやすいように思います。また、地域や時期を絞り込むことで他と違う味のハチミツに仕上がる可能性も高いです。花により毎年蜜を出すもの、隔年のもの、数年に一度などのこともあり同じ場所、同じ時期に採っても味が変わるのも楽しみになります。
 味見をしなくては味の想像ができないのはデメリットですが、量販店に置いてあるハチミツとは全然違う味なので、試食を前提にした対面販売では食べたことのない味のハチミツであることで差別化をすることができていると考えています。ただし、試食販売では、特徴のあるハチミツを複数用意することで、「買うかどうか」ではなく「どれを買おうか」に意識を誘導したいです。その為にはただ貯まったら蜜を絞るのではなく、どの花からどの花までが入るかイメージしながら採蜜の計画をたて、特徴のあるバリエーションにします。

 単花蜜か百花蜜か。このポリシーは養蜂の方法にも関わってきます。単花蜜を目指すなら同じ花が咲いている果樹園などを転々として採蜜する方法が相性がよいですし、百花蜜であれば出来るだけ植生が複雑な場所で年間を通して養蜂する定置養蜂と相性がよいです。また、副業として小規模な養蜂をと考えると全国を転々と移動するのは大変なので、定置養蜂の方が向いています。箱を動かさないのであれば群を大きくできるので、一箱あたりの採蜜量の増加、病気やダニに対する耐性の獲得などのメリットもあります。ですが、このあたりのことは養蜂家のノウハウとポリシーで考え方もいろいろでしょう。

 しかし、現状の百花蜜に対する低い評価については、養蜂家の方は見方を変えれば単花蜜よりも価値を高くできる可能性があると言うことを認識してもらえたらと思います。

 ハチミツが好きな方は地域や場所を絞って集めた百花蜜に出会ったら是非味見して楽しんでみてください。

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