ハチミツをたくさんとるには?(養蜂のコツ①)

 例えば、ひどい冷え性だったとして、その体質を改善するには冬になってからでは手遅れで前の年の夏くらいから取り組まないと間に合わないのだそうです。そう、何にでも最大の効果を得るには準備期間が必要です。

 では、ハチミツをたくさん採るにはいつから準備を始めればよいのか?

 それは前の年の7月、8月くらいから始めなければなりません。では、準備の最終目標はと言うとハチミツを集めたいその日までにそれぞれの群の蜂数を最大にすることです。蜂は暖かくなるとどんどん増えてきます。そんなに前から準備をする必要があるのか疑問と言うひともいるでしょう。

 では、何故なのかを順をおって考えてみたいと思います。

 蜂の巣箱は、蜂数が増えてくると一段分の箱では収まりきれず、その上に底のない箱を二段、三段、四段と足していきます。そうすると、ひとつの群あたりの蜂数は二倍、三倍、四倍と増えます。

 では、「一段の箱が四箱」と「四段の箱が一箱」どちらがたくさんハチミツが集まるのでしょうか?どちらも蜂数の合計は同じです。

 答えは圧倒的に四段の箱が一箱です。
 蜜蜂は、毎朝、群の大きさに比例した数の働き蜂が巣箱の上空にあがり風に漂う花の蜜の香りを頼りに出来るだけたくさん蜜の採れる場所を探します。この探索する蜂が一段の群が百匹とすると四段の群は四百匹です。四段の群の方が見つけられる可能性が一段の群に比べて四倍です。それだけではありません。見つけた蜂は、蜜の香りと距離と方向を自分の巣の蜂達に教えて、みんなで一斉に採りにいきます。この集めるスピードも四倍です。一段の群が遅れて見つけても四段の蜂がどんどん蜜を集めてしまっています。そうなると、後から来ても蜜があまり残っていないと言うことになるのです。見つけた順序が逆でも四段の群の方が集めるスピードが早いので一段の群より多くの蜜を集める可能性が高くなります。
 結果として、四段の群は一段の群の20倍、30倍集めることになります。実際のところ、一段の群ではほとんど蜜が集まりません。(広い果樹園などをまわる移動養蜂では蜂が蜜源を探す時間を考慮しなくてよいので、これほどの差はつきません。年間を通して同じ場所で採蜜する定置養蜂の話です。)
 養蜂をしている人なら、蜂数が多い方がよく蜜が集まることを体験的に知っています。ですが、理屈をおさえてないと、なんとなく多い方がよいのかと言う程度の認識の人が多いです。なんとなくではないのです。絶対に蜂数は多い方がよいのです。

 地域によっては、5月の中旬の1、2週間だけ蜜を取ってそのシーズンがほぼ終わるという所もあります。この時に一段、二段の箱では話になりません。また、採蜜の終わった六月に四段になっていても遅いのです。
 自分が養蜂している場所では2段ではほとんど蜜が採れません。少なくても3段以上にする必要があります。

 では、その為の準備期間を理屈から逆算していきます。

 蜂は、1つの巣枠の蛹から2枠分程度の蜂が生まれます。次は2枠から4枠の蜂が生まれるというように指数関数的に増えていきます。指数関数覚えてますか?

 こういうグラフです。初めは増え方が緩やかですが、ある所から急に増加のカーブが大きくなります。ミツバチでいうと巣枠7、8枚の蜂数くらいからがこの上昇カーブに差し掛かるイメージです。箱一段で巣枠が8枚か9枚ですので、ほぼ一段分の蜂数となります。
 働き蜂の卵から羽化までの期間は21日です。
 一段から2~3回の卵から羽化までのサイクルがまわって、1~2か月で四段になると考えられます。5月に入ってすぐ蜜を採る為には3月の初めの頃には箱一段目に蜂が一杯の状態にしておきたいということになります。それは、かなり大変って蜜蜂を飼っている人は感じるのではないでしょうか?越冬を成功させるのだけでもほっとするのに、越冬終了段階で一段満群はとてもじゃないけどって感じでしょうか。確かに、越冬そのものにも考慮すべきことは、やまほどあります。また逆に、巣枠三枚くらいの群でも越冬は大丈夫と言う認識の人もいると思います。冬の間、花も咲いていて産卵が止まらない比較的暖かい地域(南関東の南部以南)では、冬の間も蜂が増えていくのでそうかもしれません。
 蜂は、暖かい地域を除いて冬は産卵・育児を停止してみんなで固まって暖め合いながら冬を越します(眠っているわけではないので、冬眠とは違います)。2月の中頃から終わりにかけて産卵・育児が始まりますが、その前の期間には育児をしていませんので、死んでしまう蜂もいて少し蜂数が減って盛り返して三月を迎えることになります。そうすると、蜂が越冬に入る前に、箱からはみでるくらいの1箱満群の蜂数が理想となります。
 この状態を作る為には、7、8月くらいから準備しておかないといけなくて、慌ててからでは間に合わなくなってしまいます。9月中旬以降は気温が急激に下がってきて蜂数を増やすのが大変になるからです。ここらへんのコツは、越冬の準備のコツでもありますが、ここでは割愛します。

 以上が翌シーズンにハチミツをたくさん採る為に7、8月くらいから準備を始めなくてはいけない理由です。

次回の記事は、上手くいかない時は転落が止まらないいう話です。
弱り目に祟り目、欲目で裏目に。目先の利益にとらわれて…。(養蜂のコツ②)

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