見出し画像

「幻のイントルーダー」感想 面白さと、精密さと

青木滉平は今年6月の「Shakespeare's R&J」以来。今回はコメディ作品に挑戦するようだ。私の性格が暗すぎるからか、コメディ舞台を見るイメージがないと言われたことがあるが、私は面白いことが大好きなので当然コメディ舞台も大好きである。舞台演劇は崇高で学びがあるものではないといけないと思っていた時期も正直5年前くらいはあったが、今はその逆で、面白くなければどれだけ学びがあっても退屈であるとすら思っている。コメディの軽視、許しません。
普段、舞台の感想文は東京公演の千秋楽に間に合わせるように書いているが、今作は千秋楽が初見になったので終演後大急ぎで書いている。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「幻のイントルーダー」
佐野瑞樹脚本・演出 青木滉平主演

人気小説家の藤澤(佐野瑞樹)の担当編集者、末國(青木滉平)は藤澤の大ファンである姉(田中志奈)に会わせることになったが、厳しい性格の藤澤を会わせることはできないと考え、友人の角田(野島大貴)を藤澤だと嘘をついて留守中の藤澤家に招き、姉に会わせることにする。しかし、自分の小説に盗作疑惑が浮上した藤澤は予定を切り上げて帰宅してしまう。本物の藤澤と偽物の藤澤がいる状態で姉に本物の藤澤を“藤澤のアシスタント”であると嘘を重ねたところにプロデューサー、姉の友人の遥、藤澤の妻と、どんどん登場人物が増え事態はどんどん大きくなっていく。

末國の大胆な嘘によって、角田を藤澤だと思っている人、角田をアシスタント志望だと思っている人が同時に存在しているように、全員がそれぞれ異なる視点をもって持っており、その食い違いが面白い今作。それに加え角田を“藤澤”だと主張したい人、盗作疑惑を丸く収めたい人、盗作疑惑を隠したい人、遥と付き合いたい人、遥を取り返したい人と、それぞれが異なる目的を持っているからこそ、どんどん空回りしていく様子が笑えてくる。こうして振り返ると、かなり複雑な構成であったにも関わらず、劇中「あれ、この人はこの人のことを誰だと思ってるんだっけ」というような戸惑いが全くなかったように思える。それは観客が理解できる範囲でどんどん要素を増やし、観客の理解をギリギリ超えない範囲で色々な問題を同時多発させる脚本の上手さもあるが、演者がかなりわかりやすい芝居をしていたというものが大きいと思う。

コメディとは違うが、2019年のM-1グランプリで見取り図・盛山が漫才中に鼻を触る癖があることを審査員のナイツ・塙に指摘されたことがある。ネタとは無関係な部分で鼻を触るとそこに注意が寄ってしまい、客の集中力が削がれるため笑いが減ってしまっているという趣旨だ。

私は、“「舞台」というかなり限定的なフォーマットの中でどれだけの情報量を観客に正確に伝達できるか”が「上手い芝居」の大きな要素になると考えている。しかし今作のように脚本上の情報量が大きいものは演者が多くのことを伝えようとすることよりも、必要以上の芝居をしないことの方が圧倒的に大切であるように感じる。例えば、終盤は神楽(長塚拓海)が「本物の藤澤を藤澤のアシスタントだと勘違いした上で、偽物の藤澤に彼女の遥を取られたと勘違いして、遥を返してもらうために対決を申し込む」という、文章に書くだけでもややこしい状況を無理なく理解させる必要があったが、カンパニー全体でかなり分かりやすく演じているのでノイズ無く理解して笑うことができる。先ほどの盛山の鼻の話は漫才の話なのでかなり極端な例だが、今作もとにかくノイズが少なく、脚本の面白さをその損ねることなく演じられていたと思う。

主演の青木は唯一登場人物全員から誤解されることなく“編集者の末國”と共通認識を持たれており、あちこちで問題が同時多発する舞台上で物語を進行させる役だった。その中で本当にセリフが聞き取りやすくて本当に分かりやすく芝居ができていたように感じる。前作、「Shakespeare's R&J」では、わざと観客に理解させない部分を残して演じていたように見えていたが、今回は真逆になる。カーテンコールで本人が「自分は本当に面白くない人間で…」と話していたが、本人の面白さよりも「面白い脚本を正確に表現する」ほうが今作では必要な能力だったように感じる。青木は作品に応じて求められているものを高い精度で表現できるのだと思うし、そういう部分が彼の自己プロデュース能力の高さに繋がっているようだ。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

以下、雑感

今回の劇場は赤坂REDシアター。キャパ200を下回るかなり小さめな劇場だ。紀伊國屋ホール、本多劇場の半分くらいだと思うとかなり小さい。シブゲキと同じくらい。2023年下半期は大劇場での演劇を見ることが多かったのでかなり久しぶりにこの規模での演劇を観たが、この規模だからこその良さに触れると「やっぱ小劇場しか勝たん」と思う。

コント舞台、コメディはあまり大きな会場でやらない方が面白い気がしている。以前ダウ9000の舞台を本多で見た時ですら広すぎると感じていた。と、思ったら東京03は今年の3月に武道館公演をしていた。マジ?

演劇の観劇はおそらく今作が2023年の締めくくりとなる。実は観劇から2ヶ月近く経っている「チャーリーとチョコレート工場」の感想文がまだ提出できていないが、多分来週くらいには出せるので、それが終わったら2023年演劇大賞をやる予定です。

佐野瑞樹さんは今年で50歳だが10年くらい前まで「ジャニーズジュニア」として活躍していたらしい。(現在は退所済み)たしかにめちゃくちゃかっこよかった。佐藤アツヒロと同い年だと思うと、確かに近いものがあるような気がする。彼のようにいつか原嘉孝とかが良い劇作家になったらかなり感慨深いな。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集