『拡張幻想サクリファイス』について

 今回はクソムリエおすすめ八選の一角、『拡張幻想サクリファイス』についての記事をお届けします。……上手いあいさつ思いつかないんで、さっさと始めますか。


『拡張幻想サクリファイス』八薙玉造2018/2/25 株式会社KADOKAWA(MF文庫J)
・グリッドコンピューティングで接続してる端末全部の処理をする……通信料とバッテリーの無駄では?
・キャラの能力コンセプトがむちゃくちゃ。「カストル→分身できる双剣の機械兵」はまだいいとして「ロエスレル→牛の闘士、強酸」とか意味不明すぎる
・設定の作り込みが甘く、途中で生えてきた・変更したと思しき箇所がそのまま
・大げさな名前のわりにどこにでもあるような設定ばかり。ネーミングと中身がぜんぜん合わないこともしばしば(ラスボスの「ウラノス」はウラノス要素ゼロ)
・共闘イベで誰も名乗らない・姿すら描写されない。いきなり裏切るけど何も感じられない、というか何人いるのかすら不明
■重要事項
・主人公がウザい。劣化八幡は見飽きた
・ラスボスがショボい。『龍騎』で言うなら「オーディンに勝った! 完」。で「破滅の尖兵……!」「そういう設定だろ」主人公自らラストバトルの熱を冷ましに来る親切仕様
・メインキャラが全員イカレ。「普通の日常が送りたい」と父親を消す、死んだ姉を捏造するなどなど
・ネーミング法則が統一されておらず混乱する。ヒロインにオリジナルの名前を付けて技名も英語かと思ったら、切り札は反射する光の盾「ネメシス」……TYPEとか言ってるし確信犯ですか?
・能力をごり押しすぎ……というか「無機物の複製」で敵の一部をコピーする、反射能力を持った鎧の内部でダメージを無限増幅する、とかできたらゲームが破綻するやろ……
・「たかがCPUが邪魔するな。俺と、霧花の未来を」はちょっとかっこよかった。だからこそラスボス(たかがCPU)のショボさが増幅する素晴らしい設計に感動
・表紙のイラストの描き方がマズいと思う……『ネトゲ嫁』と違って霧花/スミカ・セキウ二人の同一性がまったくないので、合わせても合わないのではなかろうか? 前例がなさすぎて困惑した結果だと思いたい

 私がこれまで研究してきた中でも最大と言ってよいほど問題山積みです。「キャラが好きになれない+全肯定ヒロイン」「設定がごちゃごちゃ&むちゃくちゃ」「とくに何も解決しないラスボス戦」というひとつでも危険な要素を全部積み込む欲張りさん、悪いことは言わないからやめておくんだ。
あと『モバイル・ソウル』『電脳戦姫エンジェルフォース』『超飽和セカンドブレイヴス』などで見かけたような、巨大企業などが相手で敵の全貌がまったく見えないまま終わるといった「敵の不透明さ」や『緑陽のクエスタ・リリカ』『俺のプロデュースしたエルフアイドルが可愛すぎて異世界が救われるレベル』『異世界の底辺料理人は絶頂調味料で成り上がる!』などにみられる、バトル要素があるのに主人公がほぼ戦えない「主人公が使えない弱キャラ」も兼ね備えていて、もう手の施しようがありません。作戦勝ちみたいなこと言ってるけど、能力の使い道を間違えなければ勝ててますからね。
 ライトノベルを売る際にしてはいけないことを詰め込んだたいへん優秀な資料なので、マイナスの参考資料として、近くの本屋で探してみることをお勧めします。2018年の本なので、それなりに大きい本屋にはあるかも……いや、例の本屋が優秀すぎるだけなのかな。


 以上が研究として述べた内容ですね。最初期なので分量が少ない……アニメ『ハンドシェイカー』シリーズの脚本家、ってのがいちばん有名な肩書きでしょうか、どっかの准教授もしてるらしいです。申し訳ないがまったく存じ上げてませんでした。外部の人間にとってみれば、どこの大学でなんの講義やってるとか知りようがないんで……一般人がアカデミックな分野に触れる機会ゼロなのは、言うまでもないことですし。ところでこの代表作のwiki、設定をごちゃごちゃ連ねてるだけなんですけど、いったい誰が作ったんでしょうね? ふつうはキャラの方が重視されると思うんですが。↓


『鉄球姫エミリー』(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%89%84%E7%90%83%E5%A7%AB%E3%82%A8%E3%83%9F%E3%83%AA%E3%83%BC)Wikipediaより。熱心に作られているわりに欠けが多い。撮影日2024/11/30



 クソムリエのおすすめ八選の二作目、これの何がヤバいかというと「度し難いクズがゲームやってるだけのお話を、シリアスなデスゲームとして描いている」ってことですね。上述した『ハンドシェイカー』も願いを懸けた勝ち残りバトルなんですが、なんだかんだであれが面白かった理由って、ドラマパートがギリギリ見られる出来だったからだと思っています。アイドルのために「何でも」するマネージャーと、たった一人のためでも輝くことを諦めないアイドルの共依存とか。あれ、フィクションすぎるよなぁとは思いつつ、わりかし好きでしたね。

 本作の概要をざっと説明すると、「あるゲームの特殊なプレイヤーは願いのために世界を改変し、それを保つために戦い続けなければならない」……ですかね。思いつくところでいちばん近いのは『仮面ライダーギーツ』でしょうか。ゲーム内容は『ポケモンGO』、それ以外は適当に考えたなって感じ。この「適当に」というのがキモで、手を抜いているわけじゃないんだろうけど明確に能力不足、というだいぶひどい状態です。

 このころは、マイナーなモチーフを持ってくればそれだけでイキれる土壌があったので、なんだかよくわかんないモチーフがちょこちょこ出てきます。デンドロはそれでいいけど、これはちょっとねー……そりゃヌンとかヨナルデパズトリとかはよく持ってきたなって思うけど、モチーフを活かして物語に組み込めなきゃ意味ないよね。デンドロ一巻初版は2016年かぁ……ふーん、そっかー。

 双子の片割れであるカストルをカストルだけ、法学者・経済学者らしい「ロエスレル」を牛魔王みたいな魔物として出す、天の神であるウラノスをがれきの機械巨人として描くなど、何をどう考えてどう調べたらこうなるのか一切分からないものばかりでした。じゃあちょっと、軽く調べてツッコミ入れてみましょうか。


■カストル(&ポルクス)
 双子座の由来。ギリシャ神話の主神ゼウスと、スパルタの王妃レダの間に生まれた双子。カストルは母の血を引いて人間の子に、ポルクスは父の血を引いて神の子として生まれる。ある争いにてカストルが死亡、ポルクスは嘆きのあまり命を捨てるような戦いをするが死ねず、ついには父ゼウスに願い出てカストルの復活を祈願する。聞き入れられなかったが、度重なる祈りに応じて「双子を天に上げ、星座とする」という形で、二人は共にあることを許された

■ロエスレル(レースラー)
 大日本帝国憲法の草案制作を指導した人物。お雇い外国人のひとり。

■ウラノス
 ギリシャ神話における天の神。ガイアより産み落とされてガイアと結ばれ、原初の巨人やクロノスたち神々を生み出した。原初の巨人を幽閉するなど横暴が過ぎたため、ガイアより鎌を授かった息子クロノスに斬られて負傷し、そのままフェードアウト。それ以降ウラノスが登場する逸話はみられない。


 えー、はい。とりあえず「ロエスレル=強酸を吐くクマの魔人」はぜんっぜんモチーフと違うんじゃないかなと思います。すまん、牛じゃなかったわ。実家が猟師だったとか、親族は科学研究してたとか、そういう誰も知らないような元ネタがあったんだとしても、だったらそれを出典に添えてくれって話。調べてもパッと出てこない以上、知ってる人はいないとすべきでしょう。ギリッギリそれっぽいのは、ドイツは酸性雨の被害がすげーヤバい場所だってことかなぁ……それ法学者と関係ある? って言われたらノーだと思うんですが。

 さらに混乱するのは、最初の敵として登場する「カヤノヒメ」の見た目が「木とツタで構成されたヤマタノオロチ」で、いちおう植物の神&ノヅチ(ぶっとい蛇?の妖怪または土の精霊)って元ネタと合致していることですね。知ってるのか知らんのか分からん……いや、知らない方に偏ってるから余計にわかんない。

 ウラノスが死と崩壊を擬人化した機械巨人みたいな描かれ方をしているんですが、彼が死んだという話はどこにもないし、フェードアウトして以降はいっさい語られていないんですよね。武器も持ってないし戦いに関する話もないので、ラスボスとして出されても困ります。それっぽい逸話はといえば「毎晩、夜闇の神ニュクスを伴って妻ガイアの元へ訪れる。星々を散りばめたかのごとき外套を広げ、地へ降り立つ」くらいのもんですかね。絶望感すごそう(小並感)

 一番わからないのは、姉を亡くした妹がカストルという双子の片割れを使うことですね。生き残った妹が死んだほうを使役する……人の心とかないんか? なんか機械兵士とかいう設定だったり分身しだしたりするので、なんにも考えてないのが分かります。

 元ネタのある場所へ突っ込むとこうなるんですが、オリジナルであろう場所を見てもよくわかりません。ざっと列挙してみますか。


・太陽神セキウ
・機甲獣士
・TYPE:JANUS(タイプ・ヤヌス)
・『破滅の創世』(カタストロフィ・リバース)


 ごめんもうあたまいたい。

 現実世界がAR世界に置き換わり、ランドマークを攻略するという設定は『ポケモンGO』と『アクセル・ワールド』から発案したものと思われます。あれを読んだりプレイしても混乱しないのは、現実の地形をそのまんま流用していて、独自設定をごちゃごちゃ盛り込んでいないからです。なんか王国だの帝国だのと陣営分けをしていますが、これをきちんと説明しないので、なんのための設定なのか不明です。

 王国でポピュラーな機甲獣士だの、相性を考えなくてよい神族だの、世界は滅びたあとに復興したけど滅亡の原因はまだ生き残ってるだの……呆れるほどの物量で以てあれこれと独自設定が出てくるのですが、これ「位置情報ゲーム」って設定と死ぬほど相性悪くない? ってのが私の意見ですね。

 位置情報ゲームとしての『ポケモンGO』のゲーム性って、ポケモンを捕獲するという基礎システムと、現実世界での移動を融合するところがメインだと思っています。その点で見ても単なるパクリで、お金や素材で好きにカスタムできるってのもそのまんまですね。このゲームはこういうところが面白そう、ってところが丸パクリだと、わざわざ練った独自設定がぜんぶ無駄になるんですよね……

 位置情報ゲームなのに世界観はオリジナル、パートナーは選べるけど一体固定、種族相性のある対人戦で防衛必須……まじめな話、デスゲームとしてもバランスが狂いすぎじゃないでしょうか。話が続いて行ったらどうなるかをシミュレートしてみたりとかしません? これ、最終的に神族同士の争いになるか、神殺しできる強キャラ以外生き残れないでしょ。

 けっこう大きな問題になりそうなのが、移動して拠点を抑えるために現地に行く必要があるってことですね。家計を支えるためにアルバイト三昧、そのくせソシャゲではランキング上位、時間も予定も空けられないよね? 家計に余裕があるんだかないんだか分からないし、序盤のネガティブな描写が後半だとゲームで占有されて消えていくので、なろうじみた「つらい境遇から成り上がる」って要素を入れたかっただけにしか思えません。

 ほんとうに読むのつらかったので言葉が荒くなるんですが、結局これ何をやりたかったのかというと、『ハンドシェイカー』っぽい願いを懸けたバトルとゲーム要素を掛け合わせた、ちょい足しセルフコピーだと思います。まあ正直、ウェブ作家として活動する身としては分からんでもないんだよね……ウェブの拾い上げ書籍化作家には、セルフコピーを量産しているふてぇ野郎がいくらでもいますので。プロに求められる基準はぜんぜん違うんですが、自覚ないみたいですね。はぁ……


 毎度のようにゲームっぽい作品のゲーム内設定にばかり突っ込んでいますが、今回はどうしても突っ込まざるを得ない理由があります。それというのが、本作ってゲームしてばっかしで、プレイヤーイベント攻略しておしまいなんですよね。アホか?(直球)

 以前から言って……なかったか。今回初になる主張として、私は、作品中でハナシが進まない作品は読む価値がないと思っています。私が言ってる「ハナシ」が何のことかというと、メインシナリオの軸のもっとも重要な部分ですね。

 私は「ストーリーが始まる一巻に、主人公はいったい何を為したのか」をものすごく重視しています。読者は誰でもそうでしょうけど。読み進めていくと、主人公はひょんなことから戦いの渦中に放り込まれ――、……ただけですね。脚本の上で必要なバトルは一切存在せず、主人公やヒロインたちの能力や戦い方が判明したところで、脚本がこれっぽっちも進まないので、見どころになり得ません。

 願いを懸けたデスゲームのオチ、あるいはある程度の進行を示すために何をすべきかを考えてみると、見知った・知り合った関係のプレイヤーと戦い、優勝への苦い一手を進めるといったところでしょう。ところが、本作のラスボスにあたるものはゲーム内のイベントで登場するボスモンスターであり、デスゲームとはまったく関係ないというか、ただふるい落としに引っかかるか否かのイベントバトルでしかありません。どれだけ考えても、何に必要なイベントなのかがわかんないんですよねこれ。

 インスピレーションを授かった作品なのであろう『アクセル・ワールド』、雰囲気だけ似せた『インフィニット・デンドログラム』、願いを懸けたデスゲームという点でちょっと似てる仮面ライダーシリーズの『龍騎』『ギーツ』、同作者による『ハンドシェイカー』とそれぞれ比較してみても、勝っているところがひとつたりともありません。

 戦う理由は防衛的なのに攻めてくる相手との対立構造が作れていない、進めることで何が起こるのかわからない=大目標がない、願いを失った相手を見下しておしまい……などなど、どのあたりを強調して描こうとしたのかちっともわかんないレベルで見どころがありません。セルフコピーなのに質落ちてるのはマズい。

 何度も比較している『ハンドシェイカー』だと、負けた相手にフォローがあったり味方として活躍したりもしていました。ありきたりとはいえ「最後の一人になれば、なんでも願いが叶う」ってのも動機として充分だし、唯一願いを持たない参加者という主人公の立ち位置と、ラスボスの正体に迫る切り札とのコンビという要素も面白みとして非常に強く機能していたと思います。『龍騎』観たらぜんぶ満たせるけどね。

 起こってるイベントのほぼすべてが脚本的にはどうでもいいことなので、読んでる最中ずっと「いつになったら話進むの?」ってイライラしますし、ラスボスに勝ったところで「これ何の意味があるの?」ってモヤモヤが残ります。そのくらい、脚本を進めないという罪は重い。そんでもって、話に集中できないとほかの粗が目立ってきます。ほかのっていうか、キャラの性格しかありませんけどね。


 本作の主人公は、まれに見るレベルのドクズ、なおかつクソバカです。と表現すると「ああ、また?」と思うかもしれませんが、作者はこれを『俺ガイル』の比企谷八幡を自分なりにアレンジしたキャラ、あるいは「卓越した頭脳を持つがゆえに孤立しがちだが、ほんとうは仁に篤く人を見捨てることのできない漢」みたいに書いてるつもりっぽいです。『ハンドシェイカー』の主人公くんは腰が低くて童貞くさくてかわいらしかったですが、こっちはただのクズ。

 そもそもの問題として、働けない無能な父親を持ち、自分が家計を支える必要があるからとアルバイトに勤しむ天才って時点ですでにアホですね。より効率的にお金稼ぐんなら、パートタイムのライン工になる理由なんてどこにもないでしょ。天才サマならアプリ開発やなんかの頭脳労働をすればいいのにね。

 それ以外のところで考えると、家族のために苦しむ少年を描きたいのかなと。いやー、底辺労働者みてーなクソッタレ以下の文句をぶつくさ垂れながら他者を見下す天才サマ、じつに笑えますねえ。これでも私、レビュワーの中じゃあいちばん底辺労働者に対する解像度高いと思うんで、この「オレはがんばってる、あんな無能な上司より仕事上手いんだ、やめらんねぇ理由があるんだぁ!」ってひっでぇ言い訳、それぞれマジで聞いたことあるんだよね。銀行の預金が千円あればいい方の、人生詰んだおっさんばっかしでしたっけ。派遣労働者、けっこういい人生経験でしたね(遠い目)

 ゲームもので面白みになり得る「ゲームを始めた・続ける動機」という点についても、さんざんな暴言の中に混じった「ただの暇潰し」という言葉がアンサーになっているようです。家計を支えなきゃなんない労働者が何してんの、ランキング上位に上り詰める時間で稼げよ天才サマ。作者のルサンチマンがどうこう、というよりは川原礫フォロワーで、暗い背景があればドラマとして盛り上がるって思ってるクチでしょうかね。

 上でさんざん「願いを懸けたデスゲーム」という表現を用いたのですが、主人公の願いは「(父親を除いた)家族との幸せな日常」です。ある事故で妹を亡くし、叶えられた願いはというと事故の原因でもある父親の消滅、そして妹の復活でした。いくら父親を悪く書かれたところで、これはね……主人公ひとりの稼ぎでじゅうぶん食っていけてるし、作劇の邪魔になる家庭環境を描かない方法はいくらでもあるよね? 「妹との二人暮らし」「父親のいない家庭環境」という物語の前提となる舞台を作るために、どんだけ父親をクズに、主人公をイカレにすれば気が済むんでしょうか。

 ウェブ小説はそこそこ読んでたので、この時代にはこういうのいっぱいあったなー……と思い返すことはできます。しかし、プロが書き下ろし書籍として出版するものがこれでは「なろうの方が面白い」と言わざるを得ません。キャラづくり・舞台づくり両方が破綻してんだよね……

 天才設定はともかく、単純に主人公の口が悪すぎる点も挙げておいた方がいいでしょうか。これが許されるなら、私が「この灯村秋夜は、株式会社KADOKAWAにコンサルタントとしてお力添えいたしましょう!」って揉み手しながら言っても社会から絶賛されますよ。こんだけ好き放題しといて通るわけねーだろボケ。ちょっと、作中のゲームに対する感想を抜き出してみましょうか。


「確かに、いい加減飽きもくる。ライト層向けにはカスタマイズの幅を広げるばかり。ヘビーユーザー向けにはエンドコンテンツの拡張のみ。これじゃ新しいユーザーは入ってこない。現状に胡坐をかいてないで運営もそろそろ考えるべきだ」(P70)


 んー、めっちゃ日本語が不自由。これ会話文だよね?

 で、これを「天才による賢い意見」だと思って書いてるっぽいんですよね。だったら余計に、シェアを奪えるアプリなり作れよ。システムはOSとデバイスで動いてるわけですから、ARやMRを利用した別のゲームが存在しない理由はどこにもありません。

 これってスマホで遊ぶ位置情報ゲームなので、「カスタマイズの幅/エンドコンテンツの拡張」以外には、キャラの追加や定期イベントくらいしかやりようがないと思うんですよね。じっさい『ポケモンGO』ってどういうふうに続いてるのか、私は存じ上げていませんが、ポケモンの追加とか捕獲イベント、あとレイドバトルとかやってるような情報がたまーに流れてきてますね。あれでいいんじゃないの? 文句あんなら改善案出してごらんよ天才サマ。

 やたら上から目線で「はーつまんね、クソゲーっすわwでもランキング上位だし? カスタムもガッツリやってるけど無課金ですw運営は無能かな? ま、今日も別にやる気ないオレが荒らしてやりますか?w」なんて言われても、ゲームものとして面白くありません。だいぶ悪意ある言い方に変えてはいますが、セリフの意味をちゃんと解釈するとこれ以外にはならないんですよね。なんてやつだって言うより先に「こいつキライ」が来る。

 勝手にゲームの宣伝もしてる身として、私は「指摘は具体的に、文句は控えめに」を心がけています。あと絶対改善できないだろうなってとこは黙っておくこと、これ鉄則。できないことを言われても、要求として通らないよね。

 時間と資金どちらで見ても苦しいリソースの吐き出し方をしておいて「つまらん暇潰しだけどガッツリやり込んでランキング上位でーすw」が通るわけないんだよね。つまんなさそうにやってるものを見るほど苦痛なことってないし、その時間で稼ぐべきなのに何やってんの? ってツッコミも健在なのでね……これを「頭のいい人間」として書いているのが本当に信じられない。


 作劇と文章は川原礫、設定はデンドロ、主人公は俺ガイルから持ってきたんだろうな、というのが読み取れます。同業者から学んだというより、読者として影響を受けたって方が正しそうですね。あとがきもちょっと、何言ってんのかわかんないっス。思い入れもないキャラの日常を掘り下げるようなこと言われてもねえ。

 ファンにはケンカを売ることになりますが、それぞれ欠点を挙げていきましょうか……。

 川原礫の作劇は、ゲームをするために言い訳が必要だった時代の人として、変わることのない強烈な動機をキャラに据えがちです。彼がデビューした後のスマホ世代にはゲーマーなんていくらでもいるので、単なるゲーマーが主人公である『シャンフロ』も登場することができました。まあ、ネトゲやる=人生終わってる人、みたいな社会問題みてーになってた時期の人なので、こういう「動機がなければやってはいけない!!!」みたいな認知を強烈に植え付けられても仕方ないのかなと。

 これをそのまんま真似ると、むやみやたらと暗いだけで「やってる場合じゃねーだろ!」って話になりがちです。『アクセル・ワールド』で何度も述べられている「女性のハイランカーは、強くなればなるほど男性への恐怖心が増す」って話とかね。異常に暗い動機から妙に楽しんでるキャラとかがいると、川原礫フォロワーの可能性が高い。

 デンドロっぽい「マイナーなモチーフ」をやる問題点は明白で、ちゃんと調べてないから、設定を盛り込んだ話づくりができないことですね。最初にさんざん言いましたが、「カネのために戦う男が、強酸を吐くクマの魔人ロエスレルを使役する」ってとこ、現実におけるロエスレル(法学者。ドイツ帝国から来たお雇い外国人)と何の関係もないよね。ドイツは酸性雨がすごかったとか、お雇い外国人は俸給が高かったとか、そんなもんどうでもいいでしょ。

 ちゃんと調べずに知識を披瀝すると高確率でえげつないツッコミが入ってくるので、ガチで自信のある分野か、これをこうアレンジすれば界隈からも楽しんでもらえる! って話題以外はね……。ウラノスよりクロノスの方がボスっぽいって、知ってたら分かりますよね? まあ「名前以外とくに意味はない」っていうクッソ舐めた設定説明が作中にあるので、やる気ないんでしょうか。

 俺ガイルの主人公は「オタッキーな高校生、あるいはそうだった人」をターゲットに据え、共感してもらえるように巧みに作られたキャラクターです。思ったよかハイスペックだから、オレあいつに似てるとか言い出すと、高確率で「お前学年三位取れんの?」って煽りが飛び交うことになる。

 彼の独特のノリは、実は作者の文章のクセで、意識しないとああいう文章ばかりになるんですよね。そのため、文章のクセが違う人が八幡っぽい主人公を使いこなすことは、非常に困難だと思われます。『クズと金貨のクオリディア』で三人称の文章を書こうとしてたんですが、だいぶ苦しそうでしたっけ。

 というわけで。

・下手にやると暗いだけになる川原礫の「作劇
無知と混乱の温床になるデンドロの「マイナーなモチーフ
・作者のクセ+きわめて巧妙な作品なのでコピー困難な俺ガイルの「主人公

 売れてる作品を真似て人気作品を作りたい、という気持ちは理解できます。しかし、いろいろ読んできた読者、そんでもってあれこれ書いてる作者として「この作品のここを真似たらマズい」と思っているところっていくつもあるんですよね。本作はそういう危ないところを全部踏みに行った、全身ダイナマイトみたいな作品です。めっちゃ頑張ってインプットしてるんだろうけど、付け焼き刃がここ一番で転がり落ちたような、やっちまった感がすげぇ。

 ラノベ作家としての経歴はかなり長いはずなのに、なんでこんなミスをしているんでしょうか。デビュー2007年……それでなんでこうなる。個人ブログとかもちょっと読んでみましたが、脚本家としての能力・プロ意識の方がはるかに高いんじゃないでしょうか。逆になんで小説書いたの……デビューしたからか。最初の方はそこそこ刊行してるのにな、とは思うのですが、これたぶんブルーオーシャンだったからですね。電撃文庫の創刊がたしか2004年、「最初期は何を書いてもいくらでも売れた」って話なので、時代が下るにつれて巻数が落ちてるのが実力なんじゃないかなと。

 脚本家としての腕前はそれなりに高いようで、任されている作品を見ても「えっ、これ!?」ってくらい売れ筋なんですよね。箕崎准先生はやりたがってるからコネで放り込んだんだろうなって感じだったんですけど、こちらは一定の信頼を得てる感じがします。少なくとも「こいつでええか……」感はない。邪推すると出身校関係かなとかは考えられますが、それでもなお信頼があるのはすごいなと思います。そこそこ評判もいいし。

 総合して考えると、ひとりで何か作ってるときやり方が分かんなくなって、何かしら“よそ”に軌道修正を求めてしまい、成果物にその影響が強く出るタイプなのだと思われます。だからこそ、原作付きの作品を担当するとき“よそ”=原作サイドとちゃんと協議できる人なのではないか、ってのが邪推含めての感想ですね。だったら信頼されるし、作品もこうなるだろうなという……ひとつの作品だけ見て人を読むのは、資料不足でただのアホ呼ばわりされかねないんですけれども、そう思います。

 ちゃんと地位もあるし仕事っぷりも信頼されてるから、ラノベ書かなくてよくね? ってのが正直な感想ですね。シェアワールドとかならギリ……? ラノベ書くときにラノベ読んでも、完成するのはなろうなんだよね。教え子たちと協議すればいいものが……と思ったけどそれが『ハンドシェイカー』なのか。じゃあ「先」を目指すのは難しいかもしれませんね。

 ひとりで何か作ろうとしたとき何をすればいいのか、ってところを考えてみると、たぶん「枠を作る」がいい方法なんじゃないかなと思います。ミステリの書き方みたいな感じで、事前にある程度準備したうえで、足りないものがあったら後からでも足していき、完成品を小さくまとめることで、大きくしようとした弊害をできる限り防ぐ方法ですね。

 続いたら続いたで、そこからやろうとしてたことを盛り込めばいいわけですし、事前にがっちり作っていれば方針はできあがっているものだと思います。三巻構想を一巻で終わっても楽しめるように作るのが理想……なんかプロの人があとがきで言ってたのと同じ結論が出ましたね。セオリーなんて決まってるものだから、そりゃ当然同じ結論にたどり着くでしょうけど。


 作品は面白くないけど人としては相当まとも、というか扱った中でもトップクラスの地位にあることに納得できる人なので、ものづくりの方法以外について言及する必要はないなと思っています。当然、怪人の出番もありません。寝てろ。

 今回は「○○を真似てもいいものはできない」って話だったわけですが、真似て面白いものが作れる作品を述べることはできません。申し訳ないが、そのリサーチすらできない人は論外。まずはテンプレの流れに乗ること、その次に自分好みを上手く作ること、ここまでできたらもう実力派ってことでいいんじゃないでしょうか。企画は作家側から出すのがふつうみたいなんで、リサーチと発案は作家の仕事の範囲内なのかなと思っています。かなというか、これが作家の仕事じゃなかったら何なんだって感じですけど。

 作者あるいはワナビに向けた資料の解読って形であれこれとやってますが、今回はとくに得たものがありませんでしたね……。いや、わりかしいつもそうかな。まあでも、広げるべきじゃない情報と言いますか、「○○パクれば売れるよw」とか間違っても言うわけにはいかないんで。私の言葉にどのくらい説得力があるかはまた別として、業界がさらに収縮・消滅に近付きますからねー。

 読むべきラノベは先日紹介したんですが、人気記事いくつかをピックアップしたPVの異常な低下、スクリプト爆撃らしき異常が起こったので記事を消すことになりました。理由はいくつか考えられますが、今回は対策してあるのでいちおう問題ないはず……知らんけど。容疑者は三人、でもプラスアルファの方だったらアレなので、セオリーは正しいんだなって。レビュワーはだいたい因縁の相手がいるんで、私もこれで一人前ってことでいいでしょうか? バラし終わったから切るとこないよー。

 次はおすすめ八選よりちょいと劣る作品でもやりましょうかね。時間空いたからもうちょっとペース上げないと。

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