まずは自分を好きになれー17歳でブランドを立ち上げたJK、世界を変える
Text by 前田彩花
Photo by NOSE
自分の考えに全く自信が持てない時期があった。
他人の意見に流され続け、昨日まで「絶対こう」と思っていたことが、ある人の一言で「やっぱりこう」と、コロコロ考えが変わる。
自分の価値観なんて無いも同然だったが、それをストレスに感じることはなかった。むしろ、人が言うことを受け入れる方が楽だった。
それから経験を積むにつれて、自分の中の”譲れないこと”がぼんやりと見えてきた。でも、「私はこう思います!」とはっきり意見を言ったところで、自分の発言に責任を持てない。また考えが変わってしまうかもしれない。
そうやって結局は人の意見に流され、「まあ、そういう考えもアリだよね」と自分を納得させていた。
メディアアーティストである落合陽一さんの、こんな言葉がある。
”自分が何を美しいと思うかを発信するのが、アートの役割。自分がかっこいいと思っていることが、かっこいい。他人の顔色を伺っているヤツが一番かっこ悪い。自分がかっこ悪いと思うことをしないことが大切。それを突き詰めれば、佇まいは美しくなる”
「自分は自分、人は人」。外の声をなんでも聞き入れるべきではないし、人の価値観に口を出すのも違う。これらを意識して過ごせるようになるまで、私はすごく時間がかかった。
今回取材をした少女は、若くして落合さんの言葉を体現している。
それも無意識に。彼女は幼いころから、強い”個”を持っていた。
ファッションと異文化理解
「ペルシャ柄の洋服を着て行ったら、みんなが振り向いてくれて。そこから全くからかわれなくなって。洋服っていう大きい力を感じた経験があった。それを活かそうと思ってブランドをつくりました」
そう話してくださったのは、モデルで起業家のせたこさん。
現在17歳。通信制の高校へ通っている。
”わいの名前はたこまるです” インスタグラムsetakoより
周りの友人たちが受験をする中、ひとり通信制を志望していた彼女は、”自分だけ違う”という不安は無かったと話す。
「自由が欲しいから。人って、置かれた環境で色んな方向に行くから。経験が無いと物怖じしちゃう感じがする。だから、経験や環境を大事にしてる。色んな世界を知りたい」
背筋を伸ばし、しっかりと目を合わせて質問に答える姿は、17歳の少女に見えなかった。
イランと日本のハーフであるせたこさん は、父の母国であるイランで幼少期を過ごした。小学1年生の時に日本へ移り住んだが、他国からの新入生という物珍しさから、学校の児童によくからかわれた。
「背中殴られて。でも負けず嫌いだから、殴り合いとかしてた(笑)」
そんなある日、せたこさん が学校に着て行ったペルシャ柄の服が、子どもたちの目に止まる。
1枚の服が、自分の国の文化に興味を持ってもらえるきっかけとなった。日本語がおぼつかなかった彼女は、”ファッションに助けられた”と感じた。
それから12年後、当時の経験を形にし、自身のブランド『SETAKO』を立ち上げる。
「(日本在住で)海外にルーツを持つ人には自信と多様性とか、日本人には広い世界をとか、自分の考えを発信するべきだなって」
行かないと分からない
今年5月、せたこさん はひとり、ネパールへ飛んだ。ブランドを立ち上げる前の話である。
「ツアーでMOTHERHOUSEの生産工場に行って、布の生産過程を学びました。あと私はアフリカに工場をつくりたいと思っているので、どうすればいいのか学びに行きました。楽しかった」
ファッションブランドMOTHERHOUSEは、”途上国から世界に通用するブランドをつくる”という理念の基、途上国での素材を使用し、商品を製作している。
「世界に通用するブランドっていうのが魅力的だったのと、あとは山口絵里子さんの本をちょっと読んでて。『裸でも生きる』って本を。でも私、本を読むのが苦手で。(内容が)気になって行ってみたって感じですね」
ネパールにて。蚕から糸を取り、布ができるまでを体験
2015年4月25日、約9000人が死亡したネパール大地震。復興はまだ、道半ばである。また、2016年7月1日には隣国バングラデシュで、日本人7人が犠牲になるテロが発生した。
ネパールへ行くことに、迷いはなかったのか。
「まだ(地震の)被害が残っていて。ネパールのカトマンズから1時間ぐらいの、自然が豊かな村に行ったときに、政府が動いてないから全然お金をくれなくて、家を直せなかったって(村人が)言ってたけど、自分たちで家を、10日ぐらいで直してて。凄くないですか。災害があっても、自分たちの力で元に戻して。感動しました。
戦争にも興味を持っているから、動画を見てるんです。危険な場所にも足を踏み入れて、経験を積みたい。行かないと、分からないんです」
ネパールから帰国した彼女は、クラウドファンディングを通して資金を集め、アフリカの生地で服をつくる。
約1ヶ月で53名の支援者が集まり、支援総額は30万円を超えた。
アフリカの生地。自身のブランド『SETAKO』のシャツに使用した
彼女はここまでを全て自分で考え、行動してきた。
「人に相談はしたくない。信頼できる人たちには話したりするけど、返ってきた返事を、真に受けたりはしない。人の意見を認めるのも大事だけど、いまはまだ若いから。いまのうちに失敗しとこうって思って」
まずは自分を好きになって
「(子どもたちが)太陽を虹色で描くんですよ。そういうところを見習わなきゃって。大人が想像しないような絵を描くので」
せたこさん はブランド運営の傍、世界各国から日本へ来た子どもたちに、NPO法人で日本語や英語を教えている。彼女は、外国にルーツを持つ子どもたちが、自分に自信が無かったり、学校で差別を受けていたりすることを肌で感じていた。
「(差別を)無くしていきたいって思う。全ての人に自由を与えたい。自分が自由にやってるのに、途上国とかではそうでない人たちがたくさんいるから」
”自分が世の中を変える”。この気持ちはどこから湧いてくるのか。
「自分のことを認めて欲しいって気持ちがすごく強いので、そっからですね。自分が大好きなの。私に不可能なことはない、みたいな。無駄にそう思う(笑)
人が言ったことはあんまり気にしないタイプ。つられたくない。自分じゃなくなっちゃうから。人の考えに囚われずに、世界に目を向けるべきだと思う。そうすれば、自分のことも見えてくる」
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